第44話 双龍
血盟剣カイムの基礎能力は吸血。
刃に触れた血液なら自身の能力として最大三種類までストックすることが出来る。
ストックした血液から情報を読み取り、相手の特性や能力を再現しているのが血継魔装。
どんな生物でも、あるいは神すらも再現できるチート級の能力だが、かなり危険なデメリットも存在する。
体内に全く別の血液を注入する必要があるため、通常ら拒絶反応を起こしやがて死に至る。
そのため忍は常に治癒魔法を併用し血液を無理矢理適合させているのだ。
この治癒魔法を常にかけ続けているだけでもかなりのマナを消費してしまうため、あまり長時間の戦闘は出来ない。
以前海底神殿で遭遇した海龍王リヴァイアサンの血をストックしていた忍は、今回遠慮なくそれを消費したのだ。
ロードはそれに値する敵だと言う事だ。
ドクドクと血液が送られると、それに比例して奥底から力が湧き上がる。
身体が熱い。今にも内から燃え上がりそうだ。
(すげぇな……気を抜くと一気に持ってかれそうだ。これが海龍王の力か)
自身の溢れ出る力を感じていると、ふとロードの姿が視界から消えた。
右へ現れたと思うとほぼ同時に左、前後と残像を残す程の超スピードで忍を翻弄する。
「……」
「くく、どうした人間。絶対的な王の力を前に言葉すら失くしたか」
ロードは薄ら笑い更に速度を上げる。
常人の目からすると、ロードが分身しているように見えるだろう。
最早残像なのかそうでないのか、触れなければ判断は出来ない。
それ程の超スピードだ。
「何を言うかと思えば、終わらせるだと? 図に乗るなよ下等種族。すぐにその首刎ねてくれる」
忍の言動がロードの逆鱗に触れたのか、空間に響く声色には怒気が含まれている。
その刹那、後方から真紅の刃が迫る。
と同時に左右からも同じ軌道の刃。
どれが一つを防いでもロードは超スピードで別の角度から迫るだろう。
しかし、ギリギリまで忍は身体を動かす事はしなかった。
「死ねッ」
ロードは刃で反応出来ない忍の首の薄皮を撫で、肉を裂き、骨を断つ。
はずだった。
しかし現実は違う。乾いた音を響かせ、真紅の刀身は忍の左手の捕らえられていた。
「──なッ!」
「遅せぇよ、お前」
振り返り剣を切り上げると、刃はロードの腰から左肩へと大きく斬り裂いた。
ドス黒い吸血鬼の鮮血が宙を舞う。その量は決して少なくない。
バックステップで距離を取り片膝を突くロードを忍はつまらなそうな表情で見ていた。
「ぐぅぅ……! 人間風情がこの私に傷をつけるなど……許されぬ。そんな事は絶対に許され──」
「ゴチャゴチャえるせえな。一回黙れよお前、
突如として両者の間に現れた大量の水はうねりを上げ津波となってロードに迫る。
「──ぐぁあぁぁああ!!」
超広範囲の水の奔流は全てを呑み込み破壊する。
深手を負ったろロードは簡単に呑まれ壁に叩き付けられる。
それでも津波は勢いを止めず幾度も押し寄せロードと壁の耐久値を一気に削った。
やがてピシピシと壁に亀裂の入る音が微かに響くとその刹那、轟音と共に瓦解した。
ロードは瓦礫の山に埋もれ、役目を終えた津波は主の元へと帰るように引いていった。
「おォー……オレ様ってやっぱり最強?」
ケケケと掠れた声で笑いながらカイムは、破壊の限りを尽くした津波に満足したのかご機嫌だ。
「気ィ抜いてんなよカイム、あんなんでも一応王だ。そら、出てくるぞ」
瓦礫の山から決して目を離さなかった忍は、微かな揺れを察知。
その直後、言う通り瓦礫を吹き飛ばしロードが姿を現した。
だがかなりのダメージを負ったようで全身ズタボロだ。息も荒く、先程の太刀傷からも絶えず流血している。
「はァ……はァ……こ、この……──人間風情がァァぁあぁああッ!!!」
頭に血がのぼり我を忘れたロードは剣を振り上げ突進。
剣に赤黒いオーラを纏わせた一撃は恐らく渾身のものだろう。余力を残さない様は見事だがあまりにも単純すぎる。
逆上し力任せなロードの反面、忍は油断もなく至って冷静だ。
マナの動きで忍の次の行動を読んだカイムはやたらとデカイ声で、
「ド派手に行くぜェーーッ!! くたばれお喋り吸血鬼!」
「馬鹿言え、お前の方がお喋りだろうが。でもまぁ前半は賛成だ。──
ニヤリと笑い忍が呟いた。
切っ先から放たれた水は二体の水龍となり左右に別れ牙を剥く。
「死ねェェぇええええ!!」
「喰らえ」
その言葉を合図に双龍は左右から押し潰し天を衝くように舞い上がる。
床の石ごと破壊の渦に巻き込み粉々に砕いていく。
飛沫と共に細かな粒となった石達がカラカラと音を立てて転がった。
そして飛沫の色は所々赤く、双龍の餌食になったロードが無事ではないのがよくわかる。
もっとも海龍王リヴァイアサンの力をまともくらって無事な方がおかしい話ではあるが。
やがて水が引くと無惨にもロードのもげた四肢が転がっていた。
吸血鬼の王は断末魔さえあげる事を許されるず絶命したのだ。
忍が納刀すると延びていた管は戻り、剣を包んでいたオーラも消えた。
「いっちょ上がりっと。思ったより楽勝だったな」
「んまァオレ様が強すぎるからな。全く罪な男だぜ!」
「コア回収してとっととズラかろうぜ」
忍はロードの残骸には目もくれずに先へと歩を進めた。
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