二章
第41話 アロラ石窟郡
「全くピグマリオンめ、コアを隠すにしたってもっと他にあるだろうよ。毎回毎回死にかけてんぞ俺。前回は海底神殿だっけ? んで今回は何?古代遺跡? どーせまたろくでもない魔物がいるんだろうな。あーや手だやだ。命がいくつあっても足りねぇよこれじゃあ」
巨大な湖に囲まれた陸地のど真ん中にある遺跡、アロラ石窟郡。通称アロラ遺跡。
岩山をくり抜いて出来た宮殿のような人工空間だ。
かなり損壊しているが、それでも見事な掘削技術だとわかる。
すべて灰色な宮殿にしっかりと色さえ付ければ、そこらの王宮と比べても見劣りはしないだろう。
そんな石窟郡の入口で、忍は盛大に愚痴をこぼした。
アルマのコアを探し始めてもうすぐ二年が経つ。
忍の見た目はあまり変化はないく、強いて言えば目つきが悪くなったくらいか。
セロスは一年と少し前から一部を除き、ほとんどの身体機能を停止させた。完全なスリープモードに入るのを阻止するためだ。寝たきりではあるが意思の疎通はとれるので、とりあえずは安心している。
そんなセロスだが、省マナモードに移る前は忍と共にコアの回収に励み、今の所七つある内、五つは回収した。
愚痴にもあったように、そのどれもが過酷な場所にあり簡単なものは何一つとしてありはしなかった。
エザフォース最高峰の山の頂上にある謎の空中庭園や、毒の沼が広がる危険地帯。
前回の海底神殿に関しては、専用の魔法を習得するのにもそれなりに時間がかかった。
ただそれよりも最悪だったのが、Sランクの魔物を相手にしなければいけなかった事だ。
海龍王リヴァイアサン。神殿の最奥部で律儀に忍を待っていたのはそんな名前の化け物だった。
そのクラスの神とも怪物とも呼べる魔物が海底神殿を含め、それぞれコアを守っていた。
その法則に従うと、もれなく今回も化け物退治がある訳で愚痴の一つもこぼしたくなるというものだ。
ではそんな魔物達をどうやって倒したか。それは──
「なぁシノブぅ血ィくれよ血ィ……もう一週間も飲まず食わずなんだぞ!!オレ様空腹ぅ。さっさと美味い魔物ぶっ殺しにいこうゼ!!」
腰に下げている漆黒の剣が、ドクドクと赤い細線が浮かび、脈打ちだした。
そして同時に、酒やけでもしたようなガラガラ声が響く。
ここで驚くのが普通だが、忍は平然としていた。
それもそうだろう、なにせの剣とは一年程の付き合いがある。慣れるには十分な時間だ。
「うるせぇぞカイム。こっちはお前と違って生身の人間なんだよ。んなほいほい神話級のSランクと戦ってられっかよ」
忍は悪態をつきながら持っていた剣をガンガンと岩に叩きつけた。
「いてぇなおい! 刃こぼれしたらどうすんだバッキャローッ!! オレ様をもっと丁重に扱えよ!! 敬えよ、大悪魔カイム様だぞ!」
この喧しく、偉そうな剣は血盟剣カイム。
カイムとの出会いは一年前、二つ目のコアが隠された古代蛮族の集落に祀ってあったものを拝借したのだ。
なんでも遥か昔に存在した勇者との戦いに敗れたカイムだが、不死特性があった事から封印されてしまったらしい。
経緯は不明だが、その後集落に祀られたみたいだ。
カイム曰く、先代の使用者である狂戦士イペタムから百年程空いており退屈を極めていたとのこと。
そんな時、集落に足を踏み入れた忍に猛アピールして連れ出して貰ったのだ。
「はっ、剣に封じられてる奴が何偉そうにしてんだよ」
忍は剣の柄の辺りを、尖っている岩にグリグリと押し付けた。
「うぉぉぉいシノブてめェ!! ケツの穴だけは辞めろっていつも言ってんだろうが!! 切れ痔になったらどうすんバッキャロー!!」
ギャーギャー騒ぎ立てるカイムだが、どうやら柄はケツ穴に位置するらしい。
ただ実際にケツ穴がある訳でもないので、切れ痔になることもない。きっと気分的な問題だろう。
「うるせぇつってんだろこの駄剣が。お望み通りコキ使ってやるから覚悟しとけよ」
「ギャハハハ! 使う前に殺されないといいけどな!!」
「っとに喧しい。コイツパクってきたの失敗だったか……?」
売り言葉に買い言葉の煽りあいにウンザリしたのか、忍はため息をつき重い足取りで遺跡の内部へと向かった。
外から見ると超巨大という程ではなかったのにも関わらず、アロラ遺跡は入ってみると明らかに面積が違っていた。
空間収納魔法のように、外と中で別の空間になっているようだ。
迷宮の内部には、ヘンテコな仮面を付けた石人形がちらほら。
どれも微妙に仮面が違い、手足が異常に細長く全体的にバランスが悪い。
最初の方にいた人形に関しては、面にヒビが入っていて今にも崩れそうだった。
石人形達に見られながらも上がったり下がったり、右へ左へと進んでいくが一向に最奥部へ辿り着く気配はない。
「……なんかおかしいなこの遺跡」
行き止まりにさえつかないアロラ遺跡に違和感を覚えながらも、忍は再び歩き出した。
◇◇◇◇◇
遺跡に入ってからそれなりの時間が経過し、かなり歩き回っているというのに魔物一匹現れていない。安全といえば聞こえはいいが、それが逆に不気味だった。
警戒を強めながらも目の前にある階段を上ると、不満そうなカイムの声が響いた。
「……シノブ、アレ見ろよ」
「ああ、やられたなこりゃ」
視界の先には、仮面にヒビの入った石人形。
一体だけヒビが入っていたので、細かいヒビの入り方など鮮明に覚えている。
忍は仮面のヒビを指でなぞり、
「やっぱり……どうやら俺達は同じ所をグルグル周ってた……いや──周らされてたらしいな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます