第40話 幕間 一番弟子
「ねぇクスタファ、最近平和になったと思わない? ちょっと前までどこも戦争戦争で酷かったのにね」
ピンク色の派手な髪をツインテールにした少女は、とある森をスキップしながら嬉しそうに言った。
歳は十四か十五かそこらだろう。まだまだ幼さの残る顔立ちではあるが、目鼻立ちはクッキリとしていた美少女と言うに相応しい容姿の持ち主だ。
クスタファ、と呼ばれたのは隣にいる男だ。歳は五十程だろうか。
死んだ魚のような目と寝癖の着いた少しウネリのある髪。おまけに無精髭と全体的にだらしない印象だ。
「平和、平和なァ……二年前に強国だったイリオスが植民地化された辺りから色々変わったって言うが世間の認識だが……どうも僕の勘は別に原因があるって言ってるんだよなぁ。って聞いてないねぇこの子」
クスタファはやれやれと言った様子でため息をついた。
「ミラちゃんここ、一応危険地帯なんだけど? もう少し警戒心ってもんをだね……」
ミラはあははと笑い小言を一蹴し、
「大丈夫だよ! だってクスタファと一緒だと魔物はみーんな逃げちゃうんだから!」
そう言うと再びルンルン気分で歩き出した。
(それりゃこっちのセリフなんだけどなぁ……自覚なしとはまいったねぇ)
呆れた様子で頭を搔いて先に行く彼女を追うと、ある地点からは背の高い木々がパッタリと消え、代わりに雑草が生い茂っていた。
そこから更に歩いていくと視界の先には地に深く刺さった一本の杖が見えてきた。
先端には深紅の水晶があり、知る人が見ればここに誰が眠っているのかわかるだろう。
「クスタファ! 杖! 杖があるよ!」
「そうだなぁ、あんまりあって欲しくはなかったんだけどねぇ。そうか、本当に逝っちまったのかい爺さん」
クスタファはポツリと呟いた。
彼はこの地に眠るピグマリオンと面識があったのか、悲しげな表情で杖を見ていた。
そんな彼を覗き込んだミラは不思議そうな顔で、
「クスタファ、泣いてるの? 杖があると泣いちゃうの?」
「歳だねぇどうも。おじさんになると涙腺が緩くてねぇ」
「ふーん? ミラおじさんじゃないからわかんないや」
それだけ言うとたたたっと走り、どこかへ行ってしまった。
魔物の闊歩するこの廃棄の森を走り回る少女など、ミラくらいのものだろう。
「迷子にならない内に帰ってくるんだぞ〜」
小さな背中に声をかけたが、「全く聞いちゃいない」とすぐにため息をついた。
「あんまし感傷に浸ってるとあの子が迷子になっちゃうからそろそろ行くとするよ」
そしてクスタファは供えられている杖を遠慮なく引き抜いた。
しかしその顔は墓荒らしのそれではなく、どこか懐かしむような優しい顔つきをしていた。
「さて、それじゃあいっちょ一番弟子として頑張るとするかねぇ。こういうのあんまり柄じゃあないんだけど……爺さん、あんたの成し遂げられなかった事は俺がしっかり受け継ぐよ。
クスタファは一度祈るように目を瞑ると、ミラの後を追いかけた。
──────────
あとがき
これにて一章完結となります。
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次話から二章になりますので、今後とも応援の程よろしくお願いします!
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