第37話 王都からの脱出
「ざまぁみやがれ」
国王を殺した兵士達は執拗以上に滅多刺しをし、満足すると血を払い納刀した。
皆誇らしげな表情をしていた。
すると兵士達はその場に膝を突き、シュメルの姿をした忍に向かって頭を垂れ、
「陛下、よくぞご無事……で……はえ?」
ぐにゃりと姿が歪んだ。その直後、上にいたはずのシュメルは姿を消した。
その代わり、今し方刺し殺したはずの反逆者がこちらを見て嗤っていた。
「ははははは! ……ばーか、お前らが殺したやつをよく見てみろよ」
「なにを……あ──」
忍が指さした方を恐る恐る兵士達が見ると、そこには血塗れになった老王の姿。
イリオス王国国王、シュメル・カスティリアは、自国の兵により惨殺された。
無数の刃をその身に受け、絶命して尚も忍を睨み付けていた。
「残念、お前らが殺したのが本物だよ」
言葉にし難い快感だ。身体が震える。忍の細胞全てが歓喜しているようだった。
長かった。あれから二年間、ただこの時の為に耐え抜き、ひたすらに力磨いた。
心に掛かっていた霧も晴れ、これでやっと前に進んでいける。そんな気がした。
ただ、大切な何かを失ってしまった気もする。もう以前のような自分には戻れないと、そう感じていた。
自らが犯した過ちを認められないのか、兵士達は皆一様に唖然としていた。
「じゃあなマヌケども」
「に、逃げたぞ! 追え! 絶対に奴を逃がすな!」
これ以上の戦闘は不要と判断した忍は踵を返して再び屋上へ。
「おい、お前まさか」
迷いのない足取りに何かを感じ取ったケイトは、引き攣った顔で呟いた。
忍から返ってきたのは満面の笑みだった。
徐々に加速するスピードは、屋上の端へ近付いても止まる気配はない。
因みにだが、このイリオス城の屋上は高度にすると約80メートル程。まともに落ちればぐちゃぐちゃになってしまう。
「なぁケイト、空、飛びたくね?」
次の瞬間、ケイトを後ろから突き飛ばした。
「──は? う、おあぁぁああぁぁっ!!!」
「おー、いいリアクションだ。んじゃあ俺も行きますか!──黒翼」
地を蹴りつけ空に踏み出すと、忍の背中には黒い巨大な翼が現れ大きく羽ばたいた。
日が沈み辺りが暗くなってきた頃、王都の空には優雅に飛び回る影が一つ。
そしてもう一つは、物凄い速度で落下していた。
「お、そろそろ行かないと怒られそうだな」
落下を続けるケイトに向け一度羽ばたき、そのまま滑空。
風の抵抗などないような加速は、すぐにケイトに追いつき手を伸ばす。
ケイトは死にそうな顔をしてその手を掴むと、ほっと胸を撫で下ろした。
「俺が死んだらお前を殺してやろうと思ってたぞ忍」
「おーそうかそうか、よかった殺されなくて」
そんな軽口を叩きながら空を舞う二人は、無事城からの脱出を果たした。
失った物は大きく、二人の生涯忘れる事など出来ないだろう。
引き換えに手にしたものはあまりにも小さく、自己満足でしかなかった。
「ここにユキがいれば、良かったんだけどな……悪いなケイト俺のせいで……」
「言うな、アイツは笑って逝ったんだ。それに、亡骸はガメリオン跡地に埋めてやるつもりだ。故郷の土の中なら安らかに眠れるだろう」
忍の腕にぶら下がりながらケイトは遠くを見つめて言った。きっとガメリオンがあった方角だろう。
「そういや、ユキはどこに?」
「ああ、ジバルさんの所に居る」
「そっか。それなら、あの城ぶっ壊しても大丈夫そうだな」
ニヤリと笑い城へと振り返る。
「王女の葬儀代わりだ。派手に頼むぞ忍」
「ああ、任せとけ」
忍は残り少ないマナをほぼ全て使い切るつもりだ。ピグマリオンから貰った紫色の液体もまだあるが、ここで使うには勿体ない代物だ。
左手を親指を立て、人差し指を伸ばしピストルのように構える。狙いはイリオス城。
指先にマナが集約させ、
「ありったけだ、持ってけ泥棒!──
照準を定めた指からは一筋の熱線が放たれる。
それは亜音速で城に到達し、城壁に触れたその時だった。
熱線は衝撃と共に爆発を起こし大地を揺らす。
まるで沈んだ太陽の代わりと言わんばかりに膨れ上がった炎と衝撃は、城を破壊するのには十分な威力だった。
数十メートルは離れているはずの二人も爆風に襲われる程の超爆発だ。
黒煙と炎は全てを破壊するまで消えることはなく、全てを灰にするまで焼き尽くした。
「うお、我ながらすげぇ威力」
「これでようやく終わったな」
「だな! ん?……あれ、ちょっとマナ使い過ぎたかも……! おぉぉおおおちるぅうぅぅぅ!!」
なんとも閉まらない最後だ。黒翼を維持するマナが足りなくなったのか、フラフラとよろめいたと思うと翼は霧散し、二人は笑いながら落下した。
幸いな事に下に生えていた背の高い木々がクッションになり、擦り傷程度で済んだ。
二人はむくりと起き上がり互いを見ると、また笑い合った。
「なあケイト、お前これからどうすんだ?」
ふいに忍がたずねた。
ケイトは少しの間考える素振りを見せ、
「さぁな。ガメリオンに寄った後は、世界を見て回ろうかと思ってる。特に行く宛てはないが、あまり知った所にはいたくないんだ」
それは彼女を思い出してしまうからだろうか。悲しげな表情でそう言うとケイトは立ち上がり、右手を差し出した。
「忍、世話になったな。お前のおかげで仇は取れたよ。ユキだけじゃない、ガメリオンの仇だ。ありがとう」
「ばーか。俺は俺の為にやっただけだ。礼を言われるようなことはしてねぇよ」
そうは言いながらも同じく右手を差し出しそれに応えた。
「じゃあなケイト、またどこかで会ったらそん時はゆっくり酒でも飲もうぜ」
「そうだな。忍の奢りなら考えてやる」
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