第35話 卑怯者
「お前の首ただ一つだよ!!!」
忍が切っ先を向け叫ぶとシュメルの反応は思っていたのと180度違うものだった。
「そうか、残念だ。その戦力、その執念、その行動力。我に捧げぬと言うのなら、この場で斬って捨てよう」
シュメルは忍の答えが分かっていたかのように、ニヤリと笑いそういった。
「おいおい、寿命の近いジジイの台詞じゃねぇだろ……」
そう言いつつも忍は感じ取っていた。
これまでにない圧を。洗練された闘気を。
虚空を見つめていた目がギョロリと動き、忍を捉えた。
魔法か? 剣か? はたまた両方か? 騎士でもなければ魔導師でもない。シュメルは国王だ。
得意とする戦闘手段が分からない以上、対策が立てづらい。
「久々だな、剣を握るの……は……?」
ただそれは、まともな戦闘になればの話だ。
シュメルはカランと乾いた音を響かせ剣を落とした。
見ると、手は小刻みに震え力が上手く入らないようだ。
次第に全身がガクガクと震えだし、遂には
「な、にを……した……」
上手く言葉を紡ぐ事すら難しいのか、片言だった。
忍はそんなシュメルを見てニッコリと、満面の笑みを浮かべた。
まるで誕生日にプレゼントを貰った子供のような、純粋な笑みだ。
もっとも、純粋な悪意からくるものではあるが。
忍はニヤニヤと口角を上げながら、既にぐちゃぐちゃになったマルクスの首を持ち、シュメルの前に突き出した。
「思ったよりも遅かったからヒヤヒヤしたぜ。はいここで問題です。コレ、なーんだ♡」
「……?」
既に喋ることすらままならないシュメルだが、それを見ても何が言いたいのか分かっていないみたいだ。
「ヒントその一、なんで俺はこんな汚ねぇもんをわざわざ持ってきたんでしょう! ほらほら、答えないとクイズになんねぇぜ?」
ザクリ。地に伏せるシュメルの右手の親指を斬り落とす。
「~~~ッ!!」
シュメルは目を見開き、ほんの一瞬身体を震わせたが叫び声すら上げることが出来なかった。
「ヒントその二、この汚ぇ面にあるのは何でしょう!」
ここに来るまでにぐちゃぐちゃになった顔が、戦闘の流れ弾で更に崩壊しているが、目を凝らしてみると額には魔法陣が赤色に薄らと光っている。
「だーから、答えろってば」
答えられないのが分かっていながら、人差し指と中指を斬り落とした。
「わかんないならそう言えよな」
更に薬指と小指を。今ので右手の指は完全になくなってしまった。
「正解は麻痺性のガスでした! あ、なんで俺には効かないかって? 俺は治癒魔法使ってるからねー、俺以外に作用してる訳よ。わかったか?」
その証拠に、貫かれた耳も綺麗に完治していた。
王の間を去る直前、マルクスの首を持った際に予め魔法を発動させていたのだ。
麻痺性のガスを発生させる魔法に、即効性こそないものの騎士達相手に大立ち回りする時間があれば充分だ。
ただ忍も言った通り、術者にだけ効果がないなんて都合のいい代物ではない。
そのため常に魔法を無効化する治癒魔法、ハイヒールをかけていたのだ。
屋上到達時に矢をマルクスの首で防いだが、その時に魔法陣を破壊されていなかったのが幸いだ。
少し上に逸れていたのなら、この化け物じみた闘気を放つ老王相手にまともに戦わなければならなかった。
ここまで上手く事を運べたのは、実の所、運の要素もかなり絡んでいた。つまり、天は忍に味方したのだ。
「うーん、喋れないと爽快感がイマイチだな。微調整できるか……? 少しだけ耐性を高めてやれば……ハイヒール」
微弱な光がシュメルを包み込むと、いい塩梅に調整出来たのかシュメルがゆっくりと口を開いた。
「ぐぅぅ……卑怯、者め……」
麻痺していた感覚がが少し和らぐとたった一言を絞り出した。
それは命乞いや説得ではなく、忍に対する侮辱とも煽りとも取れる言葉だった。
それを聞いた忍は目を丸くすると、少しの間をおき腹を抱えて笑いだした。
そしてひとしきり笑い満足したのか、笑いすぎて溢れた涙を拭うと、
「あー……腹痛てぇ。いやぁ、おもろいわお前。卑怯者はお前らだろ? 俺一人に一体何人差し向けてんだっつーの。だけどまぁ、お抱えの玲瓏騎士様もクソザコの集まりだったから随分と楽できたよ。それにマルクスの野郎なんて今のお前みたいにバカ丸出しだったぜ? 」
シュメルの痩けた頬を人差し指でつつきながら、未だ吹き出しそうになるのを堪えてそう言った。
かと思うと今度はシュメルの髪を鷲掴み、忍の目線に無理やり合わせる様に首を引き上げる。
「んで、残りの玲瓏騎士は何してんだ?上位三人、まだ残ってんだろ? ずっと気になってたんだよ。騎士が国王の窮地に駆け付けない理由はない。終戦した今戦力を割く場所も他にないはずだ。なのに何故、今ここにいない」
復讐を果たすという点では、かなりの好都合だ。
忍の体感での話だが、玲瓏騎士の序列は一つの差で強さがまるで違う。
序列五位ヘンリーと四位ヴェーラが最も顕著だった。恐らくヴェーラ程の技量があればヘンリーを瞬殺する事も出来るだろう。
それを考慮すると、上位三人は忍が戦ってきた騎士と比べると別次元の強さだも推測できる。
なのに何故、城に居ないのか。
一人なら休暇などで説明はつくが、三人中三人の姿がないのは不自然だ。
ましてや国王の命が危ぶまれているこの時に。
考えすぎならそれでいい。
しかし、忍の脳裏には確信にも似た予感があった。
それも嫌な方の予感だ。
シュメルを殺すのは、最早赤子の手をひねるよりも容易い。ならばその前に疑問を解消すべきだ。
「どうせ死ぬんだ。言えよ、玲瓏騎士は今どこで、何をしてる!!」
するとシュメルは薄ら笑いを浮かべ、
「なに、数日前にゴミの処理に向かわせたのだ。──廃棄の森へな」
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