第22話 隣の女子校の生徒:精華理子の場合(その4)

(ここからどこかで右折を繰り返して、ラブホテル街へ戻るとか……)


だがこの辺の道は意外と変な風に入り組んでいる。

どこをどう曲がれば、円山町のラブホテル街に戻れるのか?


その時だ。

それまで俺の胸に顔を押し当てていた理子が顔を上げた。


「ここって神泉の駅の近くだよね?」


「あ、ああ」


「私の家、井の頭線沿いだから、ここまで送ってくれたの?」


彼女が低い声でそう聞いた。


「え? あ、ああ。そうだね」


何と返事していいか分からない俺は、とりあえずそう言ってしまった。

すると彼女は「ショウ君って真面目なんだね」とポツリと漏らす。

ここまで言われては「いや、今からラブホテルのある方に戻ろう」とは言い出せない。


結局俺たちは、そのまま井の頭線の神泉駅に向かった。

駅に入り改札の前まで行くと精華理子は「送ってくれて、ありがとう」と寂しそうな声でそう言った。


「いや、この辺を女の子一人で歩くのは危ないし……」


そう言った俺だが、ついさっきまで一番危ない事をしようとしていたのは俺自身だ。

すると彼女は上目遣いに俺を見た。


「私みたいな普通の子じゃ、ショウ君には釣り合わなかったって事かな?」


恨みがましいような目で俺を見ている。


「え?」


俺がどう反応しようかと思っていると、彼女は「さよなら!」と言って素早く身を翻し、改札の中に消えて行った。

しばらく彼女が消えて行った改札を見つめながら、俺は激しく後悔していた。


(彼女だって、誘われるのを期待していたんだ。なんで俺は多少強引にでもホテルに入らなかったんだ! 俺の臆病者! チキン! ヘタレ野郎!)


この後、俺は遠回りをして、出来るだけ円山町に向かうカップルに出会わないように家に帰ったのであった。



……後日談。

三浦は鈴木春香とワイ談で盛り上がったそうだ。

春香に「チャラ男って粗チンが多いんだよね」と言われ「そこまで言うなら俺のエクスカリバーを試してみるか?」という言葉でホテルに連れ込んだらしい。

アンビリーバブル!


小田原も「俺さ、加奈子に会ったお陰で曲のイメージが出来たんだ。もう一件カラオケいこうぜ。そこで試してみたいんだ」と言った後で「カラオケ店だとこの時間は年齢確認があるんだよな。ホテルならカラオケがあるから、ソッチで……」と言って、やはり斉藤加奈子をラブホに連れ込んだらしい。

インクレディブル!


川崎と田中佳乃は合コン中からいい雰囲気だった。

そのまま「ワタシたち、付き合っちゃう?」と言われてホテルにGO!

インポッシブル!


つまりあの合コンでゴールイン出来なかったのは、俺だけだった訳だ……。



……後日段2

週明けの月曜日、山城女子学園。

女子高生にとっても最も楽しいはずの昼食タイム。

鈴木春香はいつものようにお弁当を持って精華理子の席にやってきた。


「理子、一緒にお弁当食べよ!」


「あ、春香……」


そう答える理子の表情はどことなく暗い。

鈴木春香は前の席のイスを逆向きにし、そこに座ると理子の机にお弁当を広げた。

一方、理子の方はお弁当を取り出しはしたが、それを広げる様子はない。


「どしたの、理子? なんか今日はかなり元気がないみたいだけど」


「……うん」


「もしかしてあの後、ショウ君と何かあったの?」


心配そうに尋ねる鈴木春香が尋ねると、理子は黙って首を左右に振った。


「なにも……無かったんだよ……」


「何も無かったのに、そんなに元気がないの?」


鈴木春香が重ねて尋ねると、理子が半分怒ったように答えた。


「だから、何もなかったんだってば!」


鈴木春香は一瞬ポカンとしたが、すぐに全てを理解した。


「何も無かったって、二人の間に本当に何にもなかったって意味?」


理子は頷いた。


「Hはもちろん、キスも無し?」


再び理子は頷いた。


「え、でも、二人でホテルに行ったんじゃないの?」


偶然だが、実は三浦京也と鈴木春香は、ラブホテル街でショウと理子の姿を見かけていたのだ。


「行くには行ったんだけどさ……」


「行ったんだけど?」


「そのまま素通りして、神泉駅まで送ってくれただけだった……」


 ズコッ!


派手に鈴木春香がズッコケる。


「なにそれ、JKがあれだけ乗り気になってるのに? 有り得ない」


それに対し、理子は無言だった。


「もしかして……ショウ君って童貞とか?」


鈴木春香はそう言ってから、少し考えるような顔をする。


「それはないか。あのヤリチン三浦とヤリ捨て小田原の友達で、しかもあの4人の中で一番モテる男だもんね。モデル業にも足を突っ込んでいるくらいだし……三浦も言っていたもんね。『ショウにだけは敵わない』って」


理子は深くタメ息をついた。


「きっとショウ君は、私なんて眼中にないんだろうな。もっと素敵な子が回りには一杯いるんだと思うよ。私レベルが一時でも彼に相手にされるって思ったのが間違いなんだよ……」


寂しそうにそう言う理子を前に、鈴木春香は再び考えるような顔をした。


「そう言えばショウ君って、前に噂になっていた相手がいたよね? 15歳のハーフモデルと」


「え、どんな子?」


理子が尋ねると、鈴木春香がスマホを検索しはじめた。


「ほら、この娘だよ。15歳のハーフで名前はユキカ」


鈴木春香が差し出したスマホには、ショウの義妹である雪華が写っていた。

だがそんな事を二人は知る由もない。


「この子が……ショウ君の彼女?」


雪華のあまりに完璧な美貌に、理子は頭の上からハンマーで打たれたような衝撃を受けた。


「そう。渋谷界隈でもこの二人がデートしている所が、何度か見られているんだって。どっかのコメントでショウ君本人は否定していたけど……やっぱりこの娘が本命なんだよ」


理子は悲しくなってきた。

思わずポロポロと涙がこぼれる。


(こんなキレイな娘がいたんじゃ、自分なんかが敵うはずないじゃない……私の気持ちを弄んで……)


そう考えた悔し涙だった。

鈴木春香も不愉快そうにスマホを見る。


「なんかムカつくよね~。こんな可愛い子を彼女にして、他の子を釣るために合コンに来るなんて……やっぱ彼も三浦京也や小田原淳と同類なんだね」


自分が「ショウを連れて来るように」と強硬に頼んでいた事など、都合よく忘れている。


「こうなったらさ、この二人の仲をブチ壊すためにも、理子がショウ君を奪っちゃいなよ! 連絡先は貰っているんだし。アタシも協力するからさ」


鈴木春香にそう言われて、精華理子もその気になっていた。


(チックショー、乙女心を弄びやがった上に恥までかかせやがってぇ……)


理子は改めてスマホの上の雪華を睨んだ。


(少なくとも、この女とは絶対にくっつけさせない!)


そんな曲がった闘志を燃やす理子だった。



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すみません。ここでしばらく休憩します。

出来るだけ早く再開しますので、少々お待ち下さい。

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未経験イケメン、チャンス逃してます! 震電みひろ @shinden_novel

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