第21話 隣の女子校の生徒:精華理子の場合(その3)

その内「カラオケをやろう」というあたりから幹事の鈴木春香が

「席替えして、とりあえず男女交互に座ろうよ!」と言い出した。

男子側としても女子と隣同士になる事に文句はない。


そうして俺の隣には精華理子が来た。

理子は「ショウ君は永田町学園の生徒会長なんでしょ? 私も山城女子学園の生徒会役員なんだ、書記だけど」と話してくる。


「書記は重要な役職だよ。色んな記録を纏めなければならないんだから。ウチも部の予算編成の時は書記が忙しさのあまり死にそうになっている」


「でもショウ君って二年になったばかりで生徒会長って凄くない? それって一年の内に生徒会長になったって事?」


「あー、それはね、違うんだ。ウチの学校は2年のゴールデンウィーク開けに生徒会役員を決めるんだよ。三年生の夏までに交代しないと受験に影響するからね。だから俺も生徒会長になったのはつい最近なんだ」


「そうなんだ。でも名門の永田町学園の生徒会長なんて、やっぱり凄いよ」


そんな感じで彼女とは生徒会の話題で楽しく話す事が出来た。

やはり同じような苦労を体験していると言うのは、二人の距離を近くしてくれる。

カラオケも歌ったが、俺はデュエット曲は知らない。

それでも俺の歌と、そしてバンドボーカルである小田原の歌では、女子たちはかなり喜んでくれた。

逆に三浦と川崎が面白くなさそうな顔をしていたほどだ。


最初は小田原を貶していた斉藤加奈子だったが、今はいい雰囲気だ。

川崎も彼女の事はどこへやら、田中佳乃と二人だけの世界に入っている。

三浦は鈴木春香と際どいHな話をしながら、かなり盛り上がっていた。

そういう意味でこの合コンは成功したと言えるだろう。

最後には俺たち全員がSNSのIDを交換し合う。


9時半になり、ここでお開きとなった。

結局は隣同士になったペア、三浦と鈴木春香、川崎と田中佳乃、小田原と斉藤加奈子、そして俺と精華理子とで、それぞれ送っていく事になる。


「じゃあ、またね~」


鈴木春香の明るい声と共に、四組が別々の方向に別れていく。

去り際に鈴木春香は、俺と一緒にいる精華理子に目配せしたような気がした。

なんか意味ありげだ。


「家はどこ?」


二人だけになり、俺は彼女に尋ねた。


「井の頭線沿いなの。だから渋谷駅からでも神泉しんせんからでも帰れるんだけど……」


井の頭線の渋谷駅と神泉の駅はいくらも離れていない。


「そうか。俺の家はこの近くだから、駅までは送っていくよ」


すると理子が少し躊躇うような感じでこう言った。


「ショウ君って、もう帰らないといけない?」


「いや、まだ大丈夫だけど」


「だったらもう少し、ショウ君とお話したいな」


彼女が少し小首を傾げるようにして、俺の表情を伺うように見つめる。

その仕草が可愛らしい。

せっかく女の子がこう言ってくれているのだ。

俺から断るのも失礼な話だろう。


「そうだね。どっか入ろうか?」


「良かった!」


彼女がキュッと俺の手を握る。

突然の彼女の接触に俺は少し驚いた。


(でも手を繋いだくらいでビビッテるって、いかにも童貞臭いよな)


そのまま二人で手を繋いだまま歩く。

だがセンター街は騒々しい店が多くて、落ち着いて話を出来るような感じじゃない。

どうしようかと思っていたら、理子の方から提案してきた。


「センター街じゃなくって、道玄坂の方に行ってみない?」


俺としても家のある奥渋とは違う方向がいい。


「そうだね。その方が落ち着けるかもね」


そう答えて、二人でセンター街から出る横道に入った。


今いる場所からだと道玄坂に行くには、東急百貨店の前を通っていくルートになる。

そして東急百貨店前から道玄坂に行くには、渋谷の有名なラブホテル街でる円山町を通る事になるのだ。

俺はそれを忘れていた。


東急の前から松濤方面の道に行った途端、いかにもそれらしいカップルが目に付くようになった。


(それにしてもさすが渋谷のラブホテル街。いろんなカップルがいるなぁ)


改めて俺はそんな事に関心していた。

学生同士、サラリーマン同士なんて当たり前。

サラリーマンと学生、フリーターとOL、オッサンと風俗嬢などなど。

中には判定不能なカップルもいる。

いずれのカップルたちも、男女がビッタリと寄り添っている点は共通している。

考えてみれば時間的にも、そろそろな時間帯だ。


円山町に入ると、さらに露骨になった。

日中はそれほど気にならなかったが、通りはラブホテルだらけだ。

俺たちの前を歩いていたカップルも、一組、また一組とラブホテルの中に消えて行った。


(こんな所を二人で歩いているなんて……俺と彼女もうそういう関係に見えるんだろうか?)


俺がそんな事を考えていると……


「なんか……寒いかも」


理子はそう言って、俺の身体に腕を回して抱き着いて来た。

自然と俺の左手は、理子の身体を抱くような感じになった。

回りを行くカップルと同じような体勢だ。


(こ、これって、誘われている?)


俺の心の奥底から、何かがグググッと押し上がって来る。

それはここの所、刺激されては発散されない、俺の欲望の圧力か?


(こ、このまま、ラブホに入ってしまえば……)


俺は自分の喉がグビッと鳴るのを感じる。

だがその時、俺は大きな問題に気づいた。

それは金の問題だ!


(さっきのカラオケ店で5千円以上使っているよな……)


家を出る時にサイフに入れたのは一万円。

だから基本的には4千円ちょっとしか持ち合わせがないのだ。

小銭の方に何百円かあるはずだが、そこまでは確認してないから分からない。


(ホテルに入ろうとして、まさかの『お金が足りません』なんて言えないよな。女の子に出させるってのもあり得ないし……)


そんな事を考えながら、俺たちは左右に広がるラブホテルの看板の中を二人密着しながら進んだ。


(休憩4500円、ここならギリ足りるか? でもなんかチープな感じがするんだよな)


(コッチはキレイそうだけど6800円か。足りないよな)


(お、ココは休憩3800円だ! って9時半以降は宿泊のみ9800円だと! 全然足りないじゃねーか)


俺は左右にあるラブホテルの看板に視線を走らせていた。

理子が俺の上着を両手でギュッと握りしめる。

顔は脇の下に埋めるようにくっつけている。

その仕草が「早く私をホテルに連れてって!」と言っているように思える。


(くっそ~、早くどこかに入らねば。でも今の俺の手持ちで確実に入れるホテルはと言うと……)


俺はラブホテル街の道を、さらに先へと進んでいった。

相変わらず左腕の下に精華理子を抱きかかえるようにして……。

彼女も全てを俺に任せるように、顔を埋めてしがみついている。

ふと気づくと、何となくカップルの姿が減って来たような気がする。


(みんなホテルに入ったのかな?)


そんな事を思っていたら、いつの間にか周囲は雑居ビルの間に民家とアパートが点在する場所に来ていた。

電柱の標識を見ると『神泉』となっている。


(しまった! 歩き過ぎてラブホテル街を通り抜けてしまった!)


そこはもう神泉だったのだ。


(どうする? ここで回れ右して、もう一度円山町に戻るか?)


だがそれはあまりにも不自然だし、露骨過ぎないだろうか?

女の子は自分が期待していても、それを目的とされるのは嫌がると聞く。

きっと彼女も、ごく自然な流れで俺がラブホテルに誘う事を期待しているのだろう。


(ここからどこかで右折を繰り返して、ラブホテル街へ戻るとか……)


だが渋谷の道は意外と変な風に入り組んでいる。

どこをどう曲がれば、円山町のラブホテル街に戻れるのか?


……その時だ。

それまで俺の胸に顔を押し当てていた理子が顔を上げた。



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この続きは明日の正午過ぎに公開予定です。

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