第11話 女子陸上部エース:与謝野美紀の場合(その1)

「ふう」

シャワーのお湯を止め、与謝野美紀は鏡に写る自分の顔を見つめた。

少し目つきは鋭いが、目鼻立ちはハッキリして中性的な美女と言える。

ショートボブに揃えた髪型も、彼女の雰囲気と合っていた。

(バスケ部一年の左京加奈が、ショウ君を部屋に誘ったって聞いたけど……)

既に左京加奈の一件は、女子の間ではかなり噂になっていた。

加奈自身は仲の良いバスケ部の女子二人にしか話していなかったらが、そこは人の噂に戸は立てられないもの。

「ここだけの秘密」の話は、見る見るうちに拡散されていったのだ。

(二人は、どんな関係になったのだろう……)

その後のショウと左京加奈の様子を見るに、二人が付き合ったと言うような雰囲気はない。

(でもチャラ男として有名な三浦京也や小田原淳さえ一目置いているショウ君だ。左京加奈と何かあったとしても不思議じゃない)

そう思うと美紀は胸を焼かれるような嫉妬心を覚えた。

(あんなブリッコした一年女子なんかに、ショウ君を取られるなんて……)

中性的な魅力を持つ与謝野美紀は、普段の態度も男勝りだ。

しかし内心はけっこうな夢見る乙女だった。

始めて出会った時から、ショウに一目惚れしていたのだ。

最初はそんな自分の感情を認められず、ショウにも対抗するような態度を取っていた。

今はあの時の言動を深く後悔している。

(アタシだって、けっこうイケてるはずなんだけど)

浴室にある全身鏡に自らの身体を写し出す。

胸はそれほど大きくないが、陸上競技で細く引き締まった身体は、女性にとっては憧れのボディだ。

その肌にまとった水滴さえエロチックに感じる。

(アタシだって、その気になれば彼を落とせるんじゃないか?)

そう思った時、彼女の中の負けず嫌いが頭を持ち上げて来た。

(いや、出来るはずだ。あんなブリッコ一年に負けていられない。ショウ君を思う気持ちは、アタシの方がずっと長いんだ!)

そう思った美紀は前のめりになって鏡の中に自分に誓う。

(次はチャンスは逃さない! 機会があれば必ず彼にアタックする。その時は、多少強引な手を使ってでも……)

彼女の中で闘争心がメラメラと燃えていた。



…………

俺はバスケ部の後輩である左京加奈の部屋に居た。

そしてさらに言えば、彼女のベッドの上に居たのだ。

服を脱いだ加奈が誘うような笑みを浮かべる。

「私、先輩が好きです。大好きです。先輩になら、私の全てをあげてもいいです。だから……」

左京加奈の顔がアップで迫って来る。

彼女の赤く、そして怪しく光る唇がすぐ目の前にある。

加奈が俺の手を取って、自分の何も着けていない胸の膨らみを持って行く。

その柔らかく温かい感触が、俺の脳裏を焼いた。

「ショウ君、休んでいっちゃう?」

いつの間にか、加奈の顔が隣のクラスのギャルである長岡ルルの顔に変わっていた。

ルルは俺を抱きしめると、その柔らかい胸を俺の頭に押し当てる。

「ショウ君、ウチの中で温まって……」

俺はその豊かな半球に手を這わせて……


「……アン」

女の微かな呻き声が聞こえる。

それが脳内ではなく、現実の聴神経を通った刺激であった。

脳が覚醒を始める。

(なんだ、夢か)

俺はそう思いながら再び眠りに入ろうとした時、自分の顔が温かくしっとりして柔らかい物に包まれている事に気づいた。

無意識に手が動く。

その手も柔らかく温かく弾力のある丸い物に触れていた。

「アン……」

再び女の声が聞こえる。

それもすぐ耳元でだ。

俺はうっすらと瞼を開けた。

目に飛び込んで来たのは、薄いピンク色のパジャマと開けた乳房の谷間だった。

俺はその谷間に顔を埋めている。

そぉっと静かに上の方を見上げてみると……

そこには明るい茶髪のハーフ美少女の顔があった。

「ゆ、雪華!」

思わず俺は声を上げていた。

だが雪華の豊かなバストに顔が密着していたため、あまり大きな声にはならない。

だが雪華の方は目を覚ましたようだ。

彼女は眠り姫が目覚めるように、その長いまつげを持つ瞼を優雅に開いた。

「あ、おはようございます、お兄様……」

「おはようございます、じゃないだろ、オマエ」

俺は慌てて上体を起こした。

「また勝手に俺のベッドに潜り込んで来て!」

布団がめくれたため、隣に寝ていた雪華の腰までが露わになる。

薄いピンク色の身体の線が見えるパジャマ。

パジャマなのでブラジャーは付けていない。

その姿に思わずドキッとしてします。

「だぁ~ってぇ~、昨日の夜、怖い夢を見たんだもん。だから一人じゃ眠れなくなっちゃって……」

「そんな事を言って、オマエは週に一回は俺のベッドに入って来るじゃないか!」

「お兄様と一緒だと安心するんだもん。いいでしょ、兄妹なんだから。お兄様がいつもそう言っているじゃない」

雪華はそう言って、俺の首に絡みついてベッドの上に引き倒した。

「さ、起きる時間はまだでしょ。寒いから寝よ寝よ。雪華ももう少し眠るから」

「寝るんなら自分の部屋で寝ろ!」

「もう、お兄様のイジワル。小さい時はしょっちゅう一緒に寝てたじゃない」

「今は小さい時じゃないだろ!」

「いーの、いーの。お兄様は普段は雪華を子供扱いしてるんだから……」

そう言って雪華は俺に抱き着いたまま目を閉じた。

「雪華は、お兄様のそばが世界で一番安心するんだ……」

そう言われると、俺としても何も言えなくなる。

とは言え、実の妹ではない美少女がすぐ隣で寝ているとなると……

俺の方はその後は少しも眠れなかった。


「ふわ」

朝食の時も俺はあくびが絶えなかった。

「お兄様、今日は眠そうですね」

横でトーストにバターとジャムを塗っている雪華がそう言った。

「誰のせいだと思っているんだ。コッチはあれから一睡も出来なかったよ」

雪華が俺のベッドにいる事に気づいたのは朝の四時半。

本当なら六時半までは寝ていられたはずなのに……

(それにしても俺、あんな夢を見るなんて、相当溜まっているいるのかな……)

最近、バスケ部の後輩である左京加奈や、隣のクラスのギャル長岡ルルから、微妙な?アプローチを掛けられたばかりだ。

(もしあの時、一歩間違えたら……もし次に同じような事があったら……)

そんな想像をする時もある。

なんとなく自己嫌悪だ。

そんな俺の迷いなど、どこ吹く風の雪華だ。

「あら、雪華はぐっすり眠れたけど……」

そう言って雪華はトーストを俺に渡す。

俺のために準備してくれたらしい。

そのせいで俺は文句を言い返すタイミングを逃した。

「……サンキュー」

「どういたしまして!」

雪華がニッコリと微笑む。

最近、雪華がやけに眩しく感じられる。

こういうのを小悪魔って言うんだろうか?



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この続きは、明日正午過ぎに公開予定です。

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