第3話 バスケ部後輩・左京加奈の場合(その2)

「相変わらず、朝から兄妹でイチャついているのね」


後ろからやや尖った声が聞こえて来た。

振り返るとそこに居たのはサイドポニーテールのキツイ目で睨んでいる少女がいた。

俺の家の隣に住む幼馴染、舞鶴まいずる向日葵ひまわりだ。

彼女もバランス良く整った美少女だ。

難点はちょっと口うるさい事。

何かと言うと俺のやる事に口を出してくる。


向日葵を見た雪華の目が一気に鋭くなる。


「別にいいでしょ。同じ家に住む家族なんだから。ただのお隣さんに過ぎない向日葵さんに言われたくないんですけど!」


そう言って「ね~、お兄様」と俺にだけ笑顔を向ける。

まるで向日葵に見せつけるようにだ。

それを見た向日葵が早足になったかと思うと、俺の右側、つまり雪華の反対側に来て腕を引っ張った。


「雪華ちゃん、あなたのは度が過ぎているのよ! 普通の兄妹はそんな風に外でイチャイチャしないの! みっともないわ」


「みっともなくなんかないわ! 私とお兄様は美男美女の兄妹で有名なんだから」


それは雪華の言う通りだ。

俺もたまにモデルのバイトをしているが、雪華はモデルとしてもかなり成功している。

「人気モデル同士のスーパー・カップル」などと取り上げられてかなり焦った。


向日葵の目がさらに険しくなる。


「外見の事を言っているんじゃないの! 兄妹でベタベタしているのはおかしな事なのよ!」


「でも私とお兄様は、結婚も出来る兄妹なんです! 知ってるでしょ」


雪華もムキになって言い返す。


「うぐっ」


それには反論できない向日葵が口をもごもごさせた。

そう、雪華は俺の義理の妹だ。

血縁的には従姉妹に当たる。

俺の父の妹、つまり叔母の娘が雪華だ。

俺の父が厳格な性格なのに対し、叔母はかなり自由奔放な女性だ。

恋人も複数いるらしく、雪華の父親はハッキリとは分からないらしい。

娘の面倒も見ず、遊び歩いていたと聞いている。

今も世界中を飛び回っている。

父はそんな叔母の生活が「雪華の教育上、良くない!」と言う事で養子として引き取ったのだ。

雪華を養子にした理由はもう一つ、俺が一人っ子だったという事もあるが。


「ともかく、もっと離れなさい!」


向日葵が俺の右腕を抱え込んで、グイっと引っ張った。

それに負けじと雪華はさらに強く左腕にしがみつく。

俺は右腕に向日葵、左腕に雪華をぶら下げるようにして歩く羽目になった。

道行く人々が「何事だ?」と不審な目で見る。

奥渋から渋谷駅に行く道もけっこう人通りがあるから、こういうのはやめて欲しいんだが。

結局、その状態は渋谷駅のスクランブル交差点に着くまで続いた。

渋谷駅に着くと、向日葵が雪華に向かって言った。


「さ、ショウから離れて。雪華ちゃんは山手線でしょ。私たちは半蔵門線だから」


雪華が恨めしそうに俺を見る。

だがこればっかりは仕方がない。


「雪華、オマエの学校は目白だろ。俺たちは永田町だから」


雪華が不満げに口を尖らせる。


「なんでウチの学校は同じ系列なのに、高校と女子学園は違う場所にあるのよ」


雪華が言う通り、俺たちの通う私立永田町学園は、男女共学の高等部と、男女共学の中等部、そして男子中学、女子中学はそれぞれ別の場所にある。

そしてコイツは女子校である永田町女子学園に通っているのだ。


雪華は俺をジト目で見た。


「なんだ。学校が別なんだから仕方ないだろ」


「お兄様、雪華がいないからって、浮気は許しませんからね!」


そう言って俺の脇腹を強めにつねった。


「イテ!」


最後に雪華は向日葵に対し、「べー」と舌を出して離れて行った。

知らない人が見たら、女子大生の美人モデルが、美少女JKに対して「あっかんべー」をしているように見えるだろう。

向日葵はフンと鼻を鳴らすと、今度は俺を睨んだ。


「ショウはさ、雪華ちゃんを甘やかし過ぎじゃない?」


「甘やかしている訳じゃないよ。雪華は小学校低学年でいきなり母親から引き離されたんだ。日本に来てからも、見た目が外人っぽいからイジメられていた。だから俺が守ってやるしかなかったんだ」


髪は茶髪に金髪が混じった感じで、そばかすだらけの雪華は、日本語がうまく出来ない事もあって小学校でイジメられていたのだ。

俺は雪華をイジメた連中を一人ずつ会いに行き、二度と雪華をイジメない事を約束させた。

それ以来、彼女は外では俺にくっついて歩くようになったのだが……


「それは知っているけどさ。でも今でも雪華ちゃんがイジメられている訳じゃないでしょ。あれはもう絶対に妹の態度じゃないよ」


「そう言うなって。雪華も高校生になれば変わるさ。アイツの男性恐怖症もだいぶ落ち着いて来たみたいで、高校からは俺たちと同じ共学の永田町学園にするって言っているしな」


すると向日葵がジト目で俺を見る。


「それはさ、男性恐怖症が直ったんじゃなくって、単にショウと一緒の学校に通いたいだけじゃないの?」


それについては、おそらく向日葵の言う通りだろう。


「ともかく、高校生になれば雪華も変わるって事だよ。それまでオマエもムキになって突っかかるなよ。昔は仲良くしていたじゃないか」


俺たちが小学生の時は、三人で仲良く遊んでいたのだ。

雪華だってそれなりに向日葵には懐いていた。

すると向日葵が不満そうな顔をした。


「別に私だって雪華ちゃんの事が嫌いな訳じゃないよ。ただ雪華ちゃんの態度が目に余るから注意している訳で」


「わかった、わかったよ。雪華の態度については俺も注意しているから。相手はまだ中学生なんだ。オマエも同レベルで張り合ってないで、もっと寛容な目で見てやってくれ」


向日葵はまだ何かを言いたそうだったが、無理にそれを押し込めたようだ。

しかし最後に小さく呟いたのが、俺には聞こえてしまった。


「雪華ちゃん、もうそんなに子供じゃないんだよ……」



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この続きは、明日正午過ぎに公開予定です。

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