第2話 バスケ部後輩・左京加奈の場合(その1)

その日、私立永田町学園一年F組の左京加奈は、いつもより一時間早く起きた。

シャワーだけでなく、ナチュラルさを心掛けながらも目元がパッチリと、唇は赤くプックラとするようにメイクをし、ヘアースタイルも入念にセットをする。


(うん、バッチリ! これなら大丈夫だよね)


鏡に映った自分の顔を見て、彼女は満足気に微笑んだ。

実際、左京加奈はかなりの美少女だ。

健康そうな肌に、パッチリとした目元。

スタイルだって悪くない。

胸は普通だが、バスケで鍛えた太腿とキュッと締まったウエストのラインは見事だ。

学年でも五本の指には入ると噂されている。


加奈は世間でも可愛いと評判の永田町学園の制服、そのスカーフ部分をさらに可愛く見せるため、何度も結び直す。


(胸元はたまにブラが覗けるくらいのチョイ見せで。男子の目を惹きつつ、いやらしくない程度で……そう「ちょっと隙がある可愛さ」で行かないと)


そう考えてブラウスの襟元を緩めて、スカーフとのバランスをとりながら形を作る。

最後に姿見にて全身を写す。

全身をひねりながら『見せるポーズ』をチェックする。

腰を捻るとフワリと制服のスカートがひらめく。

既に膝が見えるスカートの丈だが、加奈は考えた。


(今日くらいは、もう少し短めでいいよね)


そう考えた彼女はベルトの位置でもう一段折り返す。

これでさらに膝上10センチのミニスカートとなった。

少し風が吹けばお気に入りの可愛いパンティが見えてしまいそうだが、そこが彼女の狙いでもある。

もう一度、姿見で自分の姿を確認する。


(これでオッケー……だよね? これならショウ先輩だって絶対に私に惹きつけられるはず! 絶対に、絶対に)


そう、左京加奈が入念にメークアップしているのは、今日が憧れの桜花院翔と二人だけの時間を過ごせる日だからだ。

ショウの名声は彼女がいた永田町学園中等部にまで鳴り響いていた。

頭脳明晰にしてスポーツ万能、そしてモデルも顔負けのスーパー・イケメン。

実際にモデルも務めているらしいが。


高校に入ってバスケ部を選んだのも、ショウが副部長を務める部の中で、もっとも男女が一緒に練習する機会が多いと聞いたからだ。


そして彼女は「高校に入って初めての中間テストだから不安で仕方がない。分からない所も多いから勉強を教えて欲しい」とショウに頼み込み、今日の放課後に図書館で一緒にテスト勉強をする約束を取り付けたのだ。

そして加奈は何としても、この機会をモノにする意気込みだった。


(下着は一番のお気に入りのブラとパンティのセットにしたし、私の部屋の仕込みもオッケーだし……後は計画を実行するのみ! 今日はどんな手を使ってでも……)


彼女は右拳を握りしめると、決意も新たにカバンを手にした。



…………

朝の陽の光から、身体がそろそろ目覚めようかとしていた頃。


 チュッ


唇に柔らかいフレンチ・キスの感触があった。

慌てて俺は飛び起きる。

目の前には、明るい茶髪が陽の光で金色に輝く、透き通るような肌のハーフ美少女の顔があった。


「おはようございます、お兄様!」


「ゆ、雪華か」


俺は上半身を起こすと、朝からの妹の攻勢に呆れたタメ息をついた。


「おまえな、いつも言ってるだろ。俺たちは一応兄妹なんだ。普通、兄妹はキスなんてしないんだよ」


「あら、欧米では兄妹でも普通にハグもキスもするでしょ? 今の日本はほぼ欧米文化なんだし、それぐらいいいんじゃないですか?」


「よくないよ。起こすんなら普通に起こせ」


「だぁ~ってぇ~、お兄様の寝顔があんまり可愛かったからぁ」


そう言って雪華は身体をくねらせた。

中学三年生にして身長170センチ、バスト86センチEカップの見事な膨らみが誘うように揺れる。

ルックスだけ見たら、絶対に女子中学生には見えない!

思わず吸い寄せられそうになる視線を強引に逸らしながら俺は言った。


「そもそも毎朝起こしに来なくたって、ちゃんとアラームをセットしてあるから大丈夫なんだよ」


そう言って俺はベッド脇にあるスマホに目をやる。

あと2分後にはアラームが鳴るだろう。


「そんな、アラームで起きる朝なんて味気なくないですか? それよりも美少女妹のキスの方が……」


微笑みをうかべながら、人差し指を自分の唇に当てる雪華。

それだけで週刊誌のグラビアに載ってもおかしくないレベルだ。

俺は既に議論する気が失せていた。


「もういいよ。わかったから先に行ってくれ。俺ももう起きるから」


十代男子の朝の下半身は、たとえ家族と言えども見せられない。


「わかりました。でもその前に……」


雪華は俺の肩に手を回して抱き着いてくる。

Eカップ86センチのバストが俺の身体に押し付けられる。


「お、おい、雪華」


「お兄様成分を吸収中です!」


雪華は俺の頬に唇が触れんばかりに接触していた。

そのまま深呼吸をする。


「う~ん、朝のお兄様もいい匂い。このままずっとこうしていたい……」


「お、お、おい、雪華」


俺が戸惑いの言葉を発した時……


 ピピピピピピピ


スマホのアラートが鳴る。


「おい、もういいだろ。起きる時間だから離れてくれ」


「ん~、お兄様のイジワル」


彼女は残念そうな顔をして俺から離れる。


「じゃあ私は先に食堂に降りてますから。お兄様も早く来て下さいね」


雪華はそう言うと白い手を優雅に振りながら部屋を出て行った。

俺は思わず安堵のタメ息が漏れる。

十代男子の朝の下半身が、さらに強張っている。


(せめて本当の兄妹だったら、こんな事もないのかもしれないな)


俺はそう思いながらベッドを出ると、全身を伸ばして朝のストレッチを始めた。



朝食を食べ終わると、俺は脇に置いてあったカバンを手にした。


「それじゃあ、行ってきます」


キッチンに立つ母親にそう声を掛けると、俺は玄関に向かう。

すると食堂からの廊下を雪華が急いで追いかけて来た。


「待って待って! 私も一緒に行きますから!」


俺は眉根を寄せたが、そう言われてまで先に出てしまうほど薄情にはなれない。

玄関を出ると雪華は俺の左手に自分の腕を絡ませ、ピッタリと身体をくっつけて来る。


「おい、もう少し離れろよ。歩きづらいだろ」


「だってぇ~、外に出ると怖い人がいるかもしれないんだもん。お兄様が一緒じゃないと不安なの」


「だとしてもこんなにくっつく事はないだろ」


雪華は頬を膨らませた。


「お兄様、昔はいつもずっと一緒に居てくれたのに……雪華の事、嫌いになっちゃったの?」


「そういう話じゃない。嫌いになんてなってないよ」


「だったらいいでしょ! 雪華はいつもお兄様と一緒がいいの!」


そう言ってさらに身体を摺り寄せて来る。


「相変わらず、朝から兄妹でイチャついているのね」


後ろからやや尖った声が聞こえて来た。

振り返るとそこにはサイドポニーテールのキツイ目で睨んでいる少女がいた。



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この続きは、今日の夜8時頃に公開予定です。

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