第2話


 ここどこ……?


「ブヒ……」


 気が付けば俺は安いスーツ(特注)のまま、どこぞの森の中にいた。

 握っていたはずのミリアナ様のフィギュアは消え、代わりに本を持っている。


「なんだ、コレ?」


 見たこともない本だ。 

 俺の部屋には無かった物。

 見事に装丁された高級感のあるアンティーク品。 描かれた文様はとても緻密な幾何学模様をしている。 見ているだけで魂が吸い込まれてしまいそうな、ミリアナ様のようにいつまでも見続けたい魅力がある……。



――ギャギャ。



「っ!」



 得体の知れない奇声が森に響く。 俺は身構え、本を抱き抱えて走り出す。 よく見れば森には道がある。 人が通り踏み固められたような、獣道のような、そんな道だが。

 

「はぁっ、はぶあっ、ほああっ!」


 全力疾走。

 息が、心臓が、すぐに限界を迎える。

 だけど出口はすぐに見えた。


「はひぃ、……たすかっ、たぁ?」


 そして俺は見た。

 

 遥か遠く。

 いくそうの雲を突き抜け天を支えるほどに大きな巨木。

 あれが世界樹でなくしてなんだというのだろう。

 あまたのプレイしたゲームに出てきた、世界樹そのものだ。


「凄い……」


 あまりに美しい世界の光景。

 思考は止まり時だけが過ぎていく。

 風は緑の匂いを運んでくる。 

 爽やかな香りに、ハッと俺は今の状況を思い出した。


「どうなってるんだブヒ……」


 風が抜けていく。

 その問いに返ってくる言葉はなかった。

 



☆★☆



 世界樹に近づいてみたい。

 けど相当離れていると思う。 あまりにも樹高が高いので遠近感がおかしくなる。 世界樹の周囲は大きな森に囲まれているようだった。 

 

 森を出るときに通った道はあぜ道に繋がっていた。

 周囲は緑一色。

 道路なんてないし車も通っていない。

 茶色い道は踏み固められている。


「田舎を思い出すな……」


 森を抜けて開けたからだろうか。

 少し落ち着いてきた。

 道の側の岩に腰をおろして休む。

 

「艱難辛苦か……」


 部屋での最後の記憶。

 女神様の試練。

 それがここで行われるのだろう。

 それを乗り越えればエルフが手に入るのだ。


「ブヒヒ」


 もはや癖になっている豚笑いを浮かべて俺は持っていた本を開いた。

 豪奢な装丁をされた本である。

 表紙には月と世界樹。

 黒に金の刺繍がされゲームにでてきそうな魔法書である。


「っ」


 開いた本は黒いページで文字が緑に光っていた。ファンタジーなのかSFなのか、しかしそれほどの驚きはもうなかった。

 見たこともない文字だが……読める。


「ふむ、ふむ……なっ、なんだってぇ……!?」


 そこには俺をここに呼んだ女神様の思惑が書かれていた。

 そして俺にしてほしいこと。

 つまりは女神様の指令も書かれていたのだが。

 それはちょっと厳しいのではないのだろうか……!?


 

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