【サブフィルム:高代 悠斗】

 拓海と初めて出会ったのは、まだ四才の時だった。

 母親の後ろから隠れて顔を出していた俺に、「一緒に遊ぼう」と満面の笑みで笑っていた拓海を今でも覚えている。



「ゆうちゃん、この子たくみくんって言うのよ。仲良くしてあげてね」


 家が隣同士ということもあり、家族ぐるみでの付き合いだった俺たちは、いつしか頻繁に遊ぶようになっていた。

 しかし俺は生まれつき心臓が弱かったせいで、外で走り回って遊ぶことはできなかった。

 拓海はそんな俺に合わせて室内で読書をしたり絵を描いたりと、何をしても楽しそうに遊んでくれた。

 いつも一人で本を読んでいた俺にとっては、誰かと一緒に遊べることがとても新鮮だった。



「この海すごくきれいだね……。いつか俺も行ってみたいな」


「じゃあ大きくなったら二人でいろんなところに行こうよ!」


「ふふっ、それはすごく面白そうだね。そうと決まったら、俺も早く病気を治さないとね」



 しかし、こんな楽しい日々もそう長くは続かなかった。

 小学三年生になって五ヶ月ほど経ったころ、俺の病気が悪化した。

 小学校に通うようになってから、少しやんちゃをしすぎてしまったらしい。

 俺は安静に過ごせるようにと、静かな田舎町へと引っ越すことになった。



「ゆうちゃん、引っ越しちゃうの……?」


「少しの間だけだから、またすぐに会えるよ。二人で写真のところに行くんでしょ?」


 拓海は目に涙を溜めながらうなづいた。


「ゆうちゃん、早く病気治してね。一緒にいろんなところに行こうね……。約束だよ?」


「うん。約束だよ、たくみ」



 拓海と別れてからの毎日は退屈で仕方がなかった。

 部屋にあるベッドの上から降りられるのはトイレとお風呂の時だけ。

 窓からは水平線まで続く海が見える。


「——拓海と一緒に見れなきゃ意味ないのに」



 引っ越してからしばらく経ったある日、拓海から手紙と写真が送られるようになってきた。

 初めは拓海が写っているものが多かったが、だんだんとピントがブレているものや指が映り込んでいるものも届くようになった。

 きっとこれは拓海が自分で撮ったものだろう。写真を見ながら思わず笑みが溢れる。



 そして俺が十一歳になったころから徐々に体調が回復し始め、中学校ニ年生になると学校に通えるほどの回復をしていた。

 毎日母親に、隣町にある中学校まで車で送ってもらいながら保健室登校も始めた。


 高校は拓海と同じところに通いたい。そう思っていた中学三年の夏。

 俺の体調は急激に悪化した。咳をすれば一緒に吐血してしまうほどに。


 ——また監禁生活に逆戻りだ。


 それから何ヶ月経っただろうか。俺はすっかり衰弱しきっていた。


 いつまでこんな所にいればいいんだろう。

 この本ももう読み飽きた。窓から見える景色だって、この部屋だって。

 目を閉じたくない。眠りたくない。

 だって——もう二度と起きられなくなるかもしてないから。また明日が来るとは限らないから。



 そして、俺と拓海の約束は永遠に叶わないものとなった。

 そう、俺の時間は止まってしまったのだ。


 ——もう一度だけでいいから拓海に会いたかった。


 そう願い続けているうちに、地縛霊となってここから離れられなくなっていた。



 ——これじゃあこの世に残っても意味がない。拓海に会いに行くこともできないのに。

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海辺の不思議な少年と ヤダカ ユウ @Yadaka_Yuu

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