『memorys』 サブストーリー

【サブフィルム:真堂 拓海】

 去年大学を卒業し、ウェブデザイナーとして働き始めた「真堂 拓海」は、その日、上司から大きな案件を任されていた。

 今では旅行者のほとんどが利用しているといわれている、大手旅行会社からの依頼だ。

 その内容は「企業で新しく開設するウェブサイトのデザインをして欲しい」とのこと。

 そんな大役、入社一年目の新人に任せてもいいのか。と思いつつも、初めてもらえた自分の仕事に気持ちが舞い上がっていた。


 しかし、物事はそう簡単には進んでくれないらしい。あれから三日、作業はあまりはかどっていなかった。

 正確に言えば、ウェブサイトの形自体はでき上がっている。問題はトップを飾る画像がなかなか決まらないのだ。

 いろいろと考えてみたのだが、ただ時間だけが過ぎていくばかりだった。

 入浴中も、トイレの中でさえも、眉間にシワが寄ってしまう。



 そんな四日目の朝、声をかけてきたのは今回の案件を任せてくれた上司だった。


「よぉ、調子はどうだい?真堂」


「佐藤さん……。俺、この仕事向いてないんですかね?」


 質問に質問で返すと、佐藤は大きな口を開けて笑った。


「なぁに、最初はみんなそんなもんさ。気にする事じゃあないよ」


 「そんなもんですかね……」と左手で頭をかく。


「そうだ真堂。お前もそろそろ煮詰まってきたところじゃないかと思ってな。締切り日までまだ余裕があるし、有給使って趣味でも満喫してきたらどうだ?」


「有給……ですか?」


 思い返せばこの一年、仕事が楽しくてつい没頭してしまい、有給が溜まりに溜まっていたのだ。


「そうですね、じゃあ、お言葉に甘えて行ってみます」


「おう、楽しんでこいよ!」


「はい、ありがとうございます」


 自分の手帳を確認し、有給を取るための書類を書くと部長に提出した。

 出発はニ日後。自分でもまさか三日前に許可が取れるとは思ってもいなかった。


 家に帰ると必要な荷物をまとめた。

 カメラのバッテリーも充電し、予備も一つリュックに入れた。


 そして出発の日。行き先は事前に決めておいた所だ。


(今日は移動だけで終わりそうだな)


 そんなことを思いながら改札を通ると、通勤ラッシュが過ぎて少し人の減った電車へと乗り込んだ。

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