第23話 女のプライド

 正直なことを言ってしまえば、プリズムダイヤとロイヤルハート……の抗体との戦いはあまりにも分の悪い戦いだ。

精神世界であるが故にプリズムダイヤは能力が飛躍的に向上している、だがロイヤルハートはそもそも自分の『ホーム』だ。

自分の心の中の世界なのだから、余程の無茶な事でなければ自分の思い通りにできる。

もっとも、〝異物〟であるプリズムダイヤに直接の影響を与える事はできないのだろうが――



「たあぁぁぁーーッ!!」



凄まじい速度で距離を詰めてくる、ロイヤルハート。

素早く距離を取って、障害物として辺りの地形で壁を作るなど防御手段を取るプリズムダイヤ。

その辺のアスファルトを隆起させて壁にしても拳とマジカルワンドで即、粉砕されてしまう。



「全く、あの親子は――」



ブレイズサンシャインもそうだが、ロイヤルハートは魔法使いだというのにフィジカルに頼り過ぎる傾向がある。

格闘戦や魔法力のビームを中心に使って、そのアシストに魔法を使う程度だろう。

ロイヤルハートとプリズムダイヤの戦いにおいてプリズムダイヤの分が悪いと言えるポイントはまさにそこにある。



「遅いッ!!」

「そちらが迅すぎるだけですわ……!!」



プリズムダイヤは格闘戦が苦手だ。

ブレイズサンシャインのような力強さも、ロイヤルハートのような迅さも無い。

扱える魔法のバリエーションはロイヤルハートを遥かに超えてはいるが、魔法の発動にはどうしても時間がかかってしまう。

つまり、魔法を発動しようとするとどうしても相手に隙を晒してしまう。



「バアァァァァァァスト……キイイィィィィックウゥゥ!!」



逃げ続けるプリズムダイヤを仕留めようと魔法力を脚部に集中して必殺技を放つロイヤルハート。

しかし、プリズムダイヤは咄嗟に魔法によって生成された分厚い壁を四枚を眼前に生成する。

壁の素材は土とコンクリートと瓦礫だが、キック力を相殺するにはこれで充分だろう。



「まさか、これでも……!?」



一枚、二枚、三枚、四枚と凄まじい威力のキックで壁を粉砕してくるロイヤルハート。

もっとも、これはただのキックなどではなく魔法力を帯びたキックに更に『脆弱化』の魔法を付与したものなので単なる急降下キックというわけではいのだが。



「この程度じゃ『ロイヤルハート』は止められない!!」

「くっ……!!」



壁を蹴破られる、その想定をしていなかったわけではない。

プリズムダイヤは魔法力の盾を展開してロイヤルハートのキックを受け止める。



「防がれた……!!」



ロイヤルハートは吐き捨てるように言い放ちながら、体をくるりと回転させながら華麗に着地する。

なんとか敗北そのものは免れたが、プリズムダイヤは吹き飛ばされてしまう。



「あそこまでやって、なんとか防げるレベルって……」



あんな技をポンポン繰り出されたらこっちの身が保たない。そうなる前になんとか仕留めなければならないだろう。

しかし、相手のフィジカルが圧倒的過ぎてどうしても魔法を発動するまでの時間が用意出来ない。

フィジカルでロイヤルハートを圧倒してその隙に魔法を発動出来ればいいのだが、ロイヤルハート相手にフィジカルで圧倒手軽のなんてブレイズサンシャインくらいのものだ。



――何か、何か手があるはず。



最強の魔法少女、ロイヤルハートといっても決して無敵ではないし不死身なんかではない。なら、勝機はあるはず。

だったら、戦闘不能に追い込むことは出来るはずだ。



「次は仕留めるから」



迷わずに突っ込んでくるロイヤルハート、確実に突っ込んできてプリズムダイヤを仕留めようとする。

確実に――なら、罠を仕掛けることが出来るのではないか?



「そうか、この世界は――」



そう、この世界は人間の精神が作り上げたいわば『霊子の世界』だ。

そして、魔法というのはその世界に存在するものに影響を与えて特定の現象を起こすものだ。

だったら――



「ガーディアンウォール!!」



再び、防御魔法を発動してロイヤルハートの攻撃を凌ごうとするが今度は間に合わないので攻撃に合わせて次々と壁を生み出す。

少しでも距離を稼ぎ、少しでも時間を稼ぐ、だがロイヤルハートはまんまとプリズムダイヤに釣られているようだ。

ロイヤルハートが楽々と破壊している。

そして、最後の壁が破壊された瞬間にプリズムダイヤはマジカルワンドを構えた。



「脆い――これは?」



ピリッとした感触があった。スピル霊子の内包するエネルギーが放出されたような感触。

ロイヤルハートはプリズムダイヤを睨みつけ、叫ぶ。



「まさか、これはッ!!」

「イチバチでしたが、引っかかってくれましたわね!!」



静止したスピル霊子にアクティブ状態のスピル霊子、つまり魔法をぶつければ何らかの反応が起きる。

そのスピル霊子に破壊という特性を持たせたエネルギーを撃ち込めば、爆発が発生する。

そして、ロイヤルハートはその静止したスピル霊子の中心にいる。



「さあ、お黙りなさい!! ロイヤルハートの抗体さん!!」



マジカルワンドから放たれたビームは拡散し、スピル霊子はビームと反応し連鎖的に大爆発を起こす。

凄まじい衝撃波と熱が襲いかかってくるが、プリズムダイヤは距離を取って余波を逃れる。



「うあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



爆煙の中心から聞こえてくるのはロイヤルハートの抗体の絶叫。

流石にこんな事で死んでしまうなんて事はないだろうが、一応距離を取って様子を伺う。

生きている事が確認出来ればその場を後にして中枢部に向かいたいところだが――



「マルル、ロイヤルハートの抗体さんは?」

「エネルギーは感じ取れるマル。命の心配は無さそうマル」

「……それでは、先を急ぎましょうか」



ふう、とため息をついて先を急ごうとするプリズムダイヤだったが突然顔面に強い衝撃を受けて身体が捻られるような感触を覚えた。

その後に走る熱と、痛みと、口の中に転がるその時に抜けた奥歯。



「全く、驚かせてくれるよね。危うく死ぬかと思ったじゃん」



何度も地面にバウンドしながらゴロゴロと転がるプリズムダイヤ。

ボヤける視界のピントを合わせながら自分を殴り飛ばした相手を睨みつけるが、その相手はコスチュームがボロボロになっており体のあちこちから血が流れている。

特に腕の損傷が激しいらしく、激しく出血しており腕がだらんと垂れているようだ。

プリズムダイヤはゆらり、と立ち上がり地面を蹴る。



「なっ…….!?」



それまでにない速度に驚くロイヤルハート。

プリズムダイヤの身体能力などその程度、と侮っていたところに自身に匹敵するスピードで迫ってきたのだから当然反応は出来ない。



「オラァ!!」



驚き、目を開いているところにプリズムダイヤの拳がロイヤルハートの顔面にめり込む。

ロイヤルハートは身体のバランスを崩し、尻餅をつく。

プリズムダイヤの表情は怒りに満ちており、人差し指をロイヤルハートに向けて大声で言った。



「女の顔面は女の誇りですわよ、ロイヤルハート。それが美しかろうが、醜かろうが……いわば旗のようなもの――それを踏み躙ったからには、相応の覚悟をしてもらいますわよ!!」

「……やっと本気になったって事でいい? いいね、面白くなってきた!!」

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現役魔法少女ですが、父親と彼氏まで変身したがるので困っています 一ノ清永遠 @ichinose_towa03

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