第30話 朝食はミライの部屋で
朝、ミライはいつもより早く目が覚めた。ベッドから出てカーテンを開け、朝日を浴びる。天気がいいといつもは気持ちがいいのに、今日は太陽の光が目に染みた。それになんだか胃のあたりがムカムカする。体調不良だろうか? 食事まで時間があるので身支度を済ませ、書斎に行こうと部屋を出た。
「ファハド様?」
ホールを越えて奥の突き当たりにある扉から、小さな人影が見えた。部屋の主、ファハドだ。彼も妻の存在に気づいたのか走ってこちらに向かってくる。
「ミライ、おはよう。早起きだな」
「おはようございます、ファハド様。今日はたまたま早く起きまして。今アイシャたちの部屋から戻ったのですか?」
「いや、昨日のうちに戻っていたんだ。雑務を少し片づけたくて昨夜は自分の部屋で過ごした。深夜に訪ねてミライの機嫌を損ねたくはなかったしな」
口の端を上げて片目を瞑るファハドに、ミライはくすりと笑い返す。一国の王子殿下が、妻の機嫌を気にするとは滑稽に思えたのだ。
「それくらいで怒ったりしませんよ。ところでもうお出かけですか?」
「俺も早くに目が覚めたから、ミライの部屋で朝食をと思って出てきた。ピエールに準備を頼みに行くところだ。部屋で待っていてくれ」
「はい。それではお待ちしております」
頬に軽くされたキスを受け止め、階下に下りる夫を見送った。書斎で仕事の資料を漁ってから部屋に戻る。目を通していると、部屋の扉が叩かれた。
「ミライ、俺だ。開けてくれ」
「はい、ただいま」
ドア越しにファハドの声を聞き、ミライは急いで扉を開いた。出迎えられた彼は朝食が乗せられたワゴンを手に爽やかに白い歯を見せる。
「お待たせ。食事にしよう」
「はい。ピエールは一緒ではないのですか?」
「準備は頼んだがあとは俺が運んだ。今のところ我が家は人手不足だからな」
「まあ、そうでしたか。そういえばピエール以外の従者をほとんど見ていません」
大きな屋敷のわりに実家より使用人の数が少ないとは思っていた。金銭的な問題か派閥争いの影響か。まだ自分には知らないことがたくさんあるのだと口元を引き締める。ミライはテーブルに広げていた資料を片づけながらファハドを見上げた。
「明日にでも使用人たちを紹介しよう。皆、信頼できる者ばかりだ。さてミライ、腹は減っているか?」
片づいたテーブルの上に朝食を並べながら、ファハドが優しく微笑む。ミライは空腹を感じ軽く腹を押さえた。朝起きたときはもたれていたはずなのに、今はすっかり気分がいい。
「ちょうどお腹がすいていました!」
ミライは満面の笑みで返事をした。それにすっかり気をよくした様子で、ファハドが顔を緩ませる。会話を楽しみながらパンやスープを食べていると、腹だけではなく何か別なものも満たされていくような気がした。
>>続く
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