30. 勇者候補の実力②
「身動き取れない状況で狙い撃ちじゃ、躱しようがねぇよなぁ!」
「は? 何満足げに語ってんの? 言っとくけど、この成果はあたしとシャッテのもんだから。何もしてないあんたに聖光剣の権利はないから」
「あぁ!? ざけんな、あの女を見つけて誘い出したのは俺だろうが!!」
「は? 案内屋の子にお金出したのあたしなんですけど?」
戦況が有利に傾いたからって、ずいぶん余裕だな。
でも、どうしてわざわざ火薬銃で狙い撃ちなんて真似を……?
まさか……彼らは勇者の闘技を使えないのか?
「ほらほら! 右、左、また左っ!!」
銃声が響く中、シャナクは弾をかすめながらも間一髪のところで銃撃を躱し続けていた。
その結果――
「あ、あら……?」
――銃弾が底を尽きた。
「何よこれ、もう弾切れっ!?」
シャーリィは苛立った様子で火薬銃を足元に叩きつけた。
それを呆れた様子で眺めている勇者候補達。
……彼らが勇者になれなかった理由がわかった気がする。
「使えねぇクソ女だなぁ! どいてろっ」
「ぎゃっ! 触んなチンカス野郎!!」
シャリアがシャーリィを押し退け、シャナクへと近づいていく。
二人の間には大量の撒き菱が転がっているのに、そのまま突っ込む気か?
「オラァァッ!!」
大剣を広く構えた直後、彼はまるでウチワを扇ぐようにそれを振り抜いた。
すると風圧が転がっていた撒き菱を一斉に吹き飛ばし、宙へと巻き上げる。
こっちにも撒き菱が飛んできたので、僕は慌ててそれらから身を躱した。
触れたら即死の物体とか恐ろしすぎる。
「クソ女どもの出番は終わりだ。俺が決める!!」
シャリアのギフトはまだわからない。
彼の自信から察するに、格上相手にも通用するギフトなのか?
何にせよ、ただ見ていることだけしかできない僕は歯がゆいばかりだ。
シャナクが聖光剣を構え直した。
一方、シャリアが勝ち誇った笑みを浮かべているのが気になる。
「お前にその剣は相応しくねぇんだよ!」
「あなたにそれを見極める資格があると?」
「すぐにわかるさ。……ギフト発動!!」
その声が広場に響いた瞬間、シャナクの体が輝き始めた。
勇者の光とは明らかに違う。
「きゃあっ!?」
光が止んだ時には、シャナクは生まれたままの姿になっていた。
衣服も下着も、髪留めに至るまですべてが消えている。
その手に握っていた聖光剣まで。
一体何が起こったんだ!?
「かっかっかっ! いい恰好じゃねぇか、そそるねぇ!!」
「な、なぜ私の体から武装が!? まさかこれがギフトの効果!?」
「そうよ。こっちを見てみな!」
シャリアの手には、いつの間にか聖光剣が握られている。
しかも、彼の周囲にはさっきまでシャナクが身に着けていた武装一式が転がっているじゃないか。
「俺のギフトは〝
「防御力をゼロにすると言うのなら、どうして武器まで奪うことが……」
「剣なら
「……最低に下品なギフトだ」
僕もシャナクに同意する。
しかし、これが集団戦ともなれば効果は絶大。
やはり勇者候補だけあって、他の二人に勝るとも劣らない恐るべきギフトには違いない。
というか、防御力ゼロの範疇に武器が入っていることに納得がいかない。
僕の〝
とにもかくにも、この状況は良くない。
高笑いするシャリアとは対象的に、シャナクは顔を赤くして縮こまっている。
突然身ぐるみはがされた上、武器まで奪われたのでは仕方ないけれど、裸のシャナクがあまりにも不憫だ。
……それに、なんだろう。
僕以外の男がシャナクの裸を見ていることに苛立ちを覚える。
「じゃじゃ馬も身ぐるみ剥いじまえば可愛いもんよ! しかしその胸元の傷はなんだ? いい女が台無しだなぁオイ!?」
胸の傷に触れられたことで、シャナクの表情が曇った。
やっぱりあの傷のこと気にしているんだ……。
「さぁて決着だな。このままぶった斬られるか、それとも俺に服従するか――どっちを選ぶ?」
「この期に及んで相手に服従を迫るわけ? 最低だなチンカス野郎」
「うるせぇ! あんな美女を斬り殺すのは惜しいだろうが!」
「は? あたしの方が美人だし」
「はぁ~!? 未来が見えるくせに、自分の顔を鏡で見たことねぇのか?」
「ぶち殺すよ!?」
戦闘中によく喋る。
二人とも勝った気になって気を抜いている証拠だ。
この様子から察するに、実戦経験はほとんどないと見ていいな。
やっぱり候補止まりには理由があるわけだ。
その時、シャナクが静かに口を開いた。
「あなたに――いいえ。あなた達全員、その剣は相応しくない」
「あ?」
「戦闘中に集中力を欠くなんて、戦いを侮辱している。真剣勝負が命懸けということをわかっていない」
「口だけならなんとでも言えるぜ。さっさと股を広げて命乞いでもしてみやがれ!」
「……あなたが哀れ。ちっぽけな自尊心を支えるために、背負いきれない勇者の名を騙ろうとしている。そんなことで先人達に顔向けできるのですか」
「なっ、なんだとっ」
「勇者の名は、あなた達が思うほど軽くはない」
「……っ! 屈する気がねぇんなら、くたばりやがれぇぇぇ!!」
聖光剣を握ったシャリアがシャナクへと斬りかかっていく。
素手のままじゃ剣を受けることもできない。
このままじゃやられる!
僕はとっさにマリーの入った鞄を投げ捨てて、シャナクへと走った。
途中に転がる撒き菱のことなど気にする余裕もない。
戦えないのなら、せめて彼女の盾になる――それが今の僕にできること。
……と思ったのに。
「勇者を――甘く見るな!!」
シャナクの表情が変わった。
赤面して身を縮こませていた彼女が、いつもの凛々しい顔へと戻った直後――
「あぁっ!?」
――振り下ろされた聖光剣を両の手のひらで挟み止めてしまう。
「う、動かねぇ……!!」
「仮にも勇者の一族が腕力だけで剣を振るうなど!」
「ぐっ! ぐおおおおおっ」
「聖闘気の使い方も知らないひよっこに、この剣は荷が重い!!」
「ぐはぁっ!!」
シャナクの細い足がシャリアのみぞおちに突き刺さった。
彼はゲロを吐き散らしながら地面を転がっていく。
……幸いなことに、撒き菱の上を転がることはなかったようだ。
否。シャナクがそれを考慮して蹴り入れたのか。
「げほっ! がはっ!」
「聖闘気による肉体強化も疎か。なるほど、候補止まりなわけだ」
「ん、だ、とぉ、てめぇぇぇ!!」
シャリアが起き上がるや、瞬く間に距離を詰めたシャナクが聖光剣の腹で彼を殴りつけた。
首が一回転しそうなくらいの一撃を受けて、シャリアはその場に崩れ落ちる。
……動かなくなったけれど、生きてはいるようだ。
「こ、このクソ女ぁぁ!!」
「女性がそんな言葉を使ってはダメでしょう」
シャーリィがレイピアを抜いて突進してくる。
一方、シャナクは聖光剣を足元に置いて彼女へと向かう。
「舐めるなぁぁぁ!!」
「
その直後、シャナクの姿が消えた。
高速で動いた!? ……僕にはまったく動きが追えなかった。
それはシャーリィにとっても同じようで、困惑して足を止めてしまっている。
「馬鹿な、消えた!? あたしの〝
「あなたはギフトに頼り過ぎて五感が疎か」
「はっ!?」
消えてはいなかった。
今の一瞬でシャナクはシャーリィの後ろに回り込んでいたのだ。
そして、首筋を手刀で一撃――シャーリィは白目を剥いて倒れた。
「……っ!!」
二人の勇者候補があっさり倒されたのを見て、残されたシャッテは顔を真っ青にしていた。
シャナクに睨まれた彼女は、後ずさるさなか地面につまづいて転んでしまう。
どうやら格の違いを突きつけられて、まともに動けないほどにすくみ上がってしまった様子。
シャッテの方へとシャナクが歩み寄るや――
「待って! 許して! 負けを認めるじゃん! だから助けてぇっ!!」
――涙と鼻水とを垂れ流しながら、自ら敗北を認めた。
あまりにも圧倒的な決着。
しょせん勇者候補に過ぎない彼らにとって、勇者の力を使いこなすシャナクとは天と地ほどの力の差があった。
少々優れたギフトなど、絶対的な実力の前にはなんと無力なものなのか。
僕はシャナクを見て、やはり彼女なら魔王を斃せると確信を持った。
「……マリオ様。その、少し後ろを向いていただいても……?」
「あっ! は、はいっ!!」
頬を赤らめているシャナクに気付いて、僕はすぐさま回れ右した。
今の彼女はすっぽんぽんだった。
勇者らしからぬ女の子らしい反応――それもまた好し。
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