vs11 決意

席に着くと、まずは食事が運ばれてきた。

〈怒られるかしら…〉

マリミエドはドキドキしながら食事を摂る。

 意外にも、何も言われなかった。

時折父と兄が会話をするだけで、母は何も言わない。

いつもと変わらぬ食事風景。

マリミエドは心中でほっと胸を撫で下ろして、ゆっくりと食事を摂る。


食後のデザートが出た所で、父が口を開く。

「〝天使の涙〟を着けた、と聞いたが…」

「それならば、俺が預かっています」

ギルベルトが言い、品を見せる。

「ふむ。…陛下の通達で、今度の王女の誕生日パーティに着けてくるように、との事だ。二人で行きなさい。それから、学院には必ず着けていくように」

「はい」

しん…と間が空く。

すると母が微笑みながらマリミエドに尋ねる。

「大変な事がありましたが、学校はどうでした?」

「あ…それが、どこのクラスかも分からなくて…昼食後に図書館に寄ったら、お兄様とお会いして共に帰って参りました」

「そう…では、明日が楽しみね。いいお友達が出来るのを祈っているわ」

母が笑って言う。

「はい…」

母の言葉には、様々な意味が込められている。

いい友達とは、王太子妃となった時に力となる貴族の者達の事。

この家に仇なすような者とは会話も許さない。

そんな意味が込められているのだ。

マリミエドは息苦しさを覚えて、席を立つ。

「マリミエド?」

「申し訳ございません、お父様、お母様、お兄様。緊張したのか、少し気分が優れなくて…お先に失礼しますわ」

そう言い、マリミエドは一礼して去り、己の部屋へ向かう。



マリミエドは、部屋に入りメイド三人によって制服を脱がされてお風呂に入る。

〈急に…嫌になってしまったわ……〉

意地と見栄の張り合いと、嘘と噂ばかり飛び交う社交界が、嫌でたまらない。


王女様のパーティは特に。


過去の2回共、王女のパーティでは苦い思い出ばかりだ。

誰かをターゲットに散々悪口を言う王女様に媚びへつらい、もてはやさねばならない…。

〈もう嫌だわ、あんな悪女みたいな…〉

考えてハッとする。

〈悪女! そう、そうよね、良い見本がいたのよ!!〉

マリアよりも堂々とした悪女がいるのだ。

折角なら本当の悪女の言動を注視して、どう回避するかの参考にしていけばいい!

今度のパーティでは、ニコニコするだけではなく、彼女の悪どい言動を阻止してみよう!

〈…叱られるかしら?〉

王女を敵に回したら両親が怒るかどうかーーー。

あの王女様は我が儘が過ぎて両陛下が手を焼いて困っている…そして近い内に隣国の公爵家に嫁ぐ予定だ。

その公爵は40歳以上の宰相と聞く。

隣国との友好という名の、ていの良い厄介払いだ。

その宰相も確か半年後には国税を横領した罪で国外追放に遭っている。

〈それなら大丈夫ね…わたくしに、出来るかしら?〉

王女の悪口をたしなめて叱り、正していく…。

それが出来れば、マリアとも対峙出来る気がする。

〈頑張るのよ!!〉

マリミエドは己を奮い立たせて、湯船から出た。

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