vs10 天使の涙の重さ
ギルベルトはつい男友達を掴む感覚で妹の腕を掴んでいたので、マリミエドは痛みに顔を歪める。
「お、お兄様! 痛い…」
「すまん…ではこちらだな」
その言葉と共に、マリミエドの体がフワリと宙に浮く。
ギルベルトはマリミエドを抱きかかえたまま馬車に向かった。
「おっ、お兄様っ」
こんな風に、誰かに抱きかかえられるなどと初めてで、マリミエドは恥ずかしさの余り扇子を広げて顔を隠した。
ギルベルトが、学校で何と呼ばれているか知らないので仕方がないが…。
「ギル、部屋に連れ込むなよ!」
「ついにやったか!」
「一線だけは超えるなよ~」
などと学友達から言われていても、ギルベルトはフッと笑うだけで気にもしない。
そうーーー周りはギルベルトが極度のシスコンだと知っている。
いつもいつも、口を開けばマリミエドの話しかしないのだ。
天才だ、聖女だ、天使だ、女神と言っても過言ではないーーーと話の最後に陶酔するからだ。
しかし、その態度は学友にのみ。
家では良き長男を演じているので、知らなくて当然なのだ。
歩きながらギルベルトは目の端で男と話すマリアを見掛けた。
〈一瞬目を向けただけで笑顔を向けてくるとか、凄い察知能力だな〉
マリアは笑顔で近寄ろうとして真顔になって止まった。
抱いているのがマリミエドだと分かったからだ。
マリアは苦しそうな作り笑顔で一礼して去っていった。
ギルベルトは蹴らないで済んでホッとしながら、馬車に向かう。
「さあ、お姫様」
馬車の前で降ろしてなめらかなエスコートで登らせて、共に入る。
馬車の中で、マリミエドは恥ずかしそうにうつむいている。
対面に座るギルベルトは、じーっと妹を見つめた。
〈本当にあの首輪、重そうだな…〉
鎖の部分は虹色に輝く丸い宝石で全て繋げている。
中央と両隣にひし形の宝石、その下には涙型の宝石…。
中央のひし形の宝石の下の涙型の宝石は握り拳の半分くらいの大きさにもなろうか?
いつも見上げていたから、こんなにも大きいとは思わなかったのだ。
「リュミ、そのネックレス貸してごらん」
「え…ですが…」
「大丈夫。お前の部屋では、いつメイドが盗むか分からないだろう?」
「わたくしのメイドはそんな事…」
「反皇帝派の貴族に買収されてやるメイドもいる。中には、他国からのスパイもいるだろう。メイナード次期当主として安全に管理しよう。約束する」
「そこまでおっしゃるのでしたら…後で、父上に報告致しますわよ?」
「構わないさ。晩餐の時に話そう」
言いながら、ネックレスを受け取ると、剣と同じくらいの重さに驚く。
「⁈ リュミ、重くなかったのか?」
「変なお兄様ね、〝天使の涙〟ですわよ? 涙の重さしか感じませんわ」
クスクス笑って言うマリミエド。
ギルベルトはよく宝石を見る。
〈やはり、スターダイヤとムーンダイヤか…〉
スターダイヤが丸い部分、ムーンダイヤがひし形と涙型。
スターダイヤは魔力が高ければ高い程に、光り輝く性質。
ムーンダイヤは精霊力が高貴な程に軽くなる性質。
ギルベルトの精霊力は一つなので重く感じるのだ。
〈俺の精霊は風………マリミエドは…?〉
聞こうとしたら、もう屋敷に着いてしまった。
ギルベルトは丁寧にハンカチでネックレスを包み、風で誰も触れられないように封をしてから上着のポケットに入れた。
「これでいいだろう?」
「さすがは帝国一の風使いですわね」
笑ってマリミエドが言うと、ギルベルトは胸がギュウっと苦しくなって押さえる。
〈この女神は笑顔で人を殺せるな〉
「お兄様?」
マリミエドは不思議そうな顔でギルベルトを見る。
「ああ、何でもない」
笑っていい、エスコートして共に屋敷に入った。
「お帰りなさいませ、ギルベルト様、マリミエド様」
メイド達と執事が出迎える。
「お帰りなさいませ、旦那様と奥様がお待ちでございます」
執事のヴォルターが言う。
〝天使の涙〟の事だと分かっているので、2人は頷いて向かった。
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