vs12 堂々たるドレス

翌日、マリミエドはやっと初登校し、クラスの場所も分かった。

クラスメイトともそつなく話をして授業を受けた。



 王女の誕生日パーティは10日後。

最も信頼するメイドのエレナが制服をドレッサーに仕舞いながら尋ねる。

「お嬢様、ドレスはどれになさいますか?」

「そうね…淡い色は外して」

何がいい色だろうか?

淑女らしさを損なわないドレスを選ばなくてはならない。

様々なドレスを並ばせてみたが、自分には白や水色、藤色などといった淡い色しか無かった。

淡い色を無くすと、喪服しかない。

「困ったわね…。いいわ、いつものデザイナーを呼んでちょうだい」

「はい」



「お久し振りにございます、マリミエド様」

そう言って現れたのは中年の女性デザイナー、アシュリー・トレディア男爵婦人。

男爵の称号を与えられた女性だ。

「どのようなドレスをお求めですか?」

「…どう言えばいいかしら…」

威風堂々としていて、そつのないドレス…。

「その、夜の闇のような…月を惑わすような…淑女であり、浮ついておらず…」

マリミエドは皇后陛下を思い浮かべながら言う。

「夜、ですか…そうですわね、今度のパーティでは、王女様は白を基調としたドレスをお召しになるようですので、引き立てるお色が宜しいと思いますわ」

「そ、そうよね…あの…それでね、白とは反対のイメージでお願いしたいの」

「…原色ですと…お嬢様には紫か青が…」

トレディア婦人も考えながら言う。

「あ、生地とスケッチをご覧くださいませ。今回は、新しいデザイナーの作品もございます」

「新しいデザイナー?」

「まだ24歳ですが、将来有望なデザイナーです」

「そう…」

マリミエドは特に関心も持たずにスケッチをめくり、生地を見る。

「このデザインで、黒と紫色にしてちょうだい。こちらのデザインは黒とワインレッドで」

「お嬢様、黒よりもそれぞれに濃い色にした方が宜しいかと」

「…そうね。では、あと一枚は婦人にお任せするわ」

「かしこまりました」

そう言いトレディア婦人が下がると、マリミエドはため息をつく。

「やっぱり、黒は駄目なのね…」

パーティで黒を着ているのは、大抵既婚者だ。

黒が威厳があっていいと思ったのだが…。

こんな些細な事すら、自由には出来ない…。

〈いっそ、皇后になって権力を行使しまくってやりたいわ〉

そう考えてみるが、そうなる前に処刑されるだろう。

アクセサリーも控えめな物を…と考えハッとする。

〈〝悪役令嬢〟は、豪奢ごうしゃなアクセサリーを身に着けているわ!〉

あの大衆小説の描写を思い出して、アクセサリーは今までに選ばなかった物だらけにした。

大きめの宝石で目立つ色合いと、派手に見える物を。

正しい言動をするのが〝悪役令嬢〟ならば、そうした方がいいと思ったのだ。

すると、メイドのエレナが紅茶の用意をしながら言う。

「お嬢様、どうなされたのですか?」

「何が?」

「最近のお嬢様は、お嬢様らしくないです」

「…そういうのは、もうやめたの」

「え?」

「わたくし…わたくし……」

言いながら、涙がにじむのを堪える。

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