第3話:陰キャ童貞は非処女にイライラしている。

ビ「あ~あ、今日も告られちゃったぁ。自分じゃ釣り合わないって、鏡見て気づかないのかしらねぇ。モテる女って罪だわぁ……あ、陰キャくんにこんなこと言ったら、イヤミみたいに聞こえちゃうわね~。つい口が滑っちゃったぁ」


『みたい』じゃなくて、実際そうなんだが……。

それにしてもこの女、足なんか組んで、スカートひらつかせやがって!!

さすがクソビッチ。股ゆるは伊達じゃない。

オスを煽るチラリズムに、ムラムラがイライラに変わっていく……。


陰「はいはい、私モテる自慢乙~。穴モテしてるとも知らず、おめでたいことで」


ビ「『あなもて』……?」


陰「そうそう、男はみんな穴に入りたくて仕方ないことの比喩だ。特に冬は寒いし、無性に人肌恋しくなる」


ビ「ふ~ん、陰キャ童貞のくせして、そーゆう小難しいことは知ってるのね」


陰「陰キャは関係ないだろ……!」


ビ「ちょ! ねえ、急に立ち上がんないでったら」


陰「男をバカにしやがって……っ!」


ビ「はいはい、興奮しないのー」


陰「してない……!」


ビ「ちょ、変なとこ突き出さないでよ。まったく……」


陰「だいたい、俺が陰キャなんて誰が決めたんだよ!」


ビ「私に言われても困るし、人に当たんないで」


陰「だいたい、いつもいつも女ばっかズルいんだよ! 体で男釣って、簡単に処女卒業しやがって……!」


ビ「なに、それ。あんた女の何を知ってるっていうの。そんなだから童貞なのよ」


陰「童貞童貞ってうるさいなぁ!! クソビッチのくせに!! そんな経験が大事かよ!! 童貞でも陽キャはいるだろ!!」


ビ「そうよ。陰キャも陽キャも関係ない。実際、陽キャはそういうの気にしてないし。陰キャだって決めつけて、自分で自分を傷つけてるのは、あんたみたいな非モテだけなんだから」


陰「俺は、傷ついてなんか……っ!!」


ビ「経験? 大事に決まってるじゃない。陰キャだから童貞、童貞だから陰キャ。童貞はこじらせるとひどいわよ。異性に受け入れられたことがないから、何するにしても自分に自信がないし、そのくせ、初めての相手に求めるハードルがどんどん高くなって、そのまま童貞で一生を終えるなんてよくある話なんだから。あ~あ、童貞キモーい」


陰「好き勝手言いやがって……! クソビッチのくせに……!!」


ビ「そっちこそ、勝手なこと言わないで!」


陰「本当のことだろ!!」


ビ「だから、あれは違うって……。はぁぁ、そんな嫌なら、卒業させてあげる」


陰「なに……を」


ビ「童貞」


陰「…………マ?」


ビ「初めて、私でいいなら」


童卒チャンス到来、これで長年こじらせてきた童貞とおさらばできる。

だけど、本当にいいのか……元カノで卒業して……。

一週間付き合っていたとはいえ、キスすらしたことがないのに。

ここで頷けば、たしかに卒業はできるのだろう。

ただしそれは、イチャラブちゅっちゅとはほど遠い。

初めては然るべき場所とタイミングがいい。

それに俺の初めては、清らかな処女と、あの日固く誓ったじゃないか……!!


陰「やっぱり、いい……」


ビ「ふぅん……? そう」


言っちまったぁー!!

一時の恥で、今日にでも童卒できたかもしれないのに!

謎のプライドが邪魔をして……。

いや、前言撤回すれば、最悪――。


陰「あ、ぃやっ……! 待っ――」


ビ「ね~え~? せっかく格好つけたのに、まさか今さら『シたい』だなんて、言わないわよねぇ……?」


陰「くぅん……」


人には、童貞遺伝子というものがあるらしい。

それによれば、俺の童卒はまだ先らしい。

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