13、VS他校のJK

「だいぶ早く着いたね」

「ああ」


 俺たち四人――俺・虎門こもん七海ななみ高嶺たかみね――は、ファミレスの入口に集まって立っていた。待ち合わせ時間の三十分前。さすがに件の元JCたちはまだ来ていないようだ。


「じゃあ作戦通りに。並木なみきはあまり問題ないだろうけど、竹内たけうちは話し方に気を付けて。それさえ意識していればバレることはないから」

「わかった。極力黙っていることにする」


 七海の忠告に虎門が頷くと、俺たちは揃ってファミレスの扉を開けた。


「お好きな席へお座りください」


 これだ。これがあるから、あえて昼食時を外した十時半という微妙な時間を指定したのだ。店が混んでいたら、好きな席を選ぶ前に店員に案内されてしまう。つまり、狙い通りの配置で座れる保証がない。作戦はすでに始まっている。


 出入り口に近い四人掛けのテーブル席に俺と虎門が並んで座り、ひとつ奥のテーブル席に七海と高嶺が腰かけた。この並びなら、後から来る元JCたちに高嶺たちの姿は見えないだろうし、見えたとしても今の彼女たちは俺と虎門の姿をしている。高嶺だと外見だけで気づくことはまずありえない。俺と虎門がぼろを出しさえしなければ、俺たち二人を七海と高嶺に見せかけて、安全に会話ができるはずだ。


 セルフサービスの水とおしぼりをとってきて、俺は頭の中でいまから話すことをシミュレーションする。


(とりあえず、七海はさばさばした口調で、一人称は私。そこさえ守っていれば、あまり怪しまれることはないだろう)


 待ち人がいつ来るのかがわからない。だから俺たちはひそひそ声で雑談をしたり、考えてきた対話の内容を確認したりしながら時間をつぶした。


・・・


「お待たせー」

「久しぶりだね、ゆきちゃん。それに高嶺も」


 二つの高い声が聞こえて、俺は顔をあげる。長い茶髪を後ろで束ねた細身の女子と、金髪に近い明るい髪をツインテールにした、ややぽっちゃり系の女子が通路に立っていた。


「ああ、久しぶり。座りなよ」

「ごめん、待たせた?」

「いや、私らが早く来すぎたんだ。まだメニュー頼んでいないから選ぼう」


 長髪のほうが大して悪いとも思っていなさそうな声で謝り、俺は受け流した。ここから演技は始まっている。七海の中身が男子だと思われることはまずないだろうが、とにかく違和感が出ないに越したことはない。メニュー表を広げて二人に差し出すと、とりあえずといってドリンクバーを頼むので俺たちもそれに倣った。


 全員飲み物を選んで席に着いたところで、ツインテールの女子が口を開く。


「ゆきちゃん、久しぶりに話がしたいって聞いたけど、どういうこと? ぶっちゃけうちらって、大して仲良くなかったよね」


 本当にぶっちゃけるなと内心で呆れつつ、俺自身も開き直りの気持ちになる。向こうがそれだけ素で来るなら、俺たちも同じように対応するだけだ。


「君たち二人なんだろう、華の声を批判していたのは。高校に入り、君たちとは別の学校になった今でも、華は上手くしゃべれずにいる。原因をつくった君たちにそんなことをした理由を説明してもらったうえで、謝罪をしてもらいたくてね」


 七海の話し方を思い出しながら、俺たちの意図を伝える。七海の口調は上から目線で、相手より強い立場に立ちたいときに便利だ。現に、威圧的だと感じたのか目の前の女子二人は顔をしかめている。


「なんでそれをゆきちゃんが? ゆきちゃん、華ちゃんとは別のクラスだったでしょ? いまさら関係なくない?」

「そうだよ。七海さんって女子の会話に首突っ込むタイプじゃないじゃん」


 わざとらしく小首を傾げるツインテールの女子に、長髪の女子も同調する。中学時代の七海の性格を知らないから、この返しはアドリブで行くしかない。


「確かに、中学時代に関して言えば私に直接関係のある話ではないな。だが、今私と華は同じクラスだ。無理やり話すのを制限している華は、見ていてつらいものがある。

 同性の私からみて、華の声はいい声だ。なのに、中学時代の些細なうわさ話を理由にそれを聞かせられないなんて、勿体ないじゃないか」

「ふーん。七海さん、ずいぶんとお人よしになったんだね。高校デビューでキャラ変的な?」


 人を小ばかにしたような長髪女子の言葉にいらっとして、俺はわずかに身を乗り出す。


「君が私のことをどう思っていたかは知らないし興味もないが、私はもともとこういう性格だ。興味のある事柄には首を突っ込むし、そうでなければ気に留めない。今回の件は、前者だったというだけだ」


 俺と身長が同じくらいだから忘れそうになるが、七海は女子としては長身だ。身を乗り出したことで威圧感が増したのか、長髪女子がたじろいだ様子を見せる。


「つまり、ゆきちゃんは今の華ちゃんの様子が腑に落ちなくて、うちらに理由を聞きたくなったんだね」


 黙ってしまった長髪女子の横から、ツインテールの女子が言葉をかけてくる。俺は頷いた。


「ああ。それも、華がいる前できちんと釈明してもらおうと思ってね。直接話を聞いて、華が心の底から納得しないと、今の状況は改善されない。そう考えた」

「そっか。でも、正直わざわざ時間をとってもらって確認されるほど、大したことじゃないんだよ。さっきゆきちゃんが『些細なうわさ話』って言ったけど、本当にそんな感じ」


 ね、とツインテール女子が、長髪女子の顔を見やる。長髪女子は渋い顔をしながら頷いた。


「別に男女問わずさ、目立つ同性について仲間内で話題にすることってあるじゃん。高嶺さんの話もそのひとつだよ。ウチら、別に高嶺さんと仲良かったわけじゃないけど、目立つからさ。見た目の割に声が低いし、ですます調でしゃべるからいいとこのお嬢様なんじゃないかっていう話はしてたよ」

「うん。別に華ちゃんをいじめるつもりとかは全然なかったよ。ただ、なんかしつけが厳しそうで、壁が高いよねって思ったことを友だち同士で話していただけ。そう思っていた人が多かったから、勝手に広まっちゃっただけなんじゃないかな」

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