第24話 極悪ミッションは二度やってくる ③

 エルダーリッチを斬れば、肉は裂け手足は千切ちぎれる。

 だけど時間がたてば元通りだ。疲れるだけで、まるで手応えがない。


『カカカッ、ようやく解き放たれたと思ったら、雑魚が相手とはな。せっかくの不死王の力を試せれないとは残念だ』


 二度めの乾いた声に耐えられず、マヒで手足の感覚が奪われた。


「させません、キュアライト!」


 アメリアによる癒しの魔法で助かった。

 ついで聖魔法障壁を展開してくれた。


『ふん、レベルの低い聖女だな。そんな薄い防御壁とは情けない。まあ良い、早々にいただくか』


 ーードスッ、ドスッ、ドスッ!ーー


 連射による矢が、敵を壁に串刺しにする。


「姉さんに手出しをするな、そんなのウチが許さないよ!」


『何を生意気な、雑魚が……』


 隙だらけだ。言い終わらない内に、脳天を唐竹割りにする。

 ほとばしる風の刃で修復を遅らせる。


 だがエルダーリッチはひるむ素振りすら見せない。


 それでも時間稼ぎになる。


「さっさと墓場へ帰りやがれ。ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラーーーーーー!」


『そんな攻撃は効かんわーーーーーー!』


 闇属性のいかづちが襲ってくる。

 アメリアとエルドラでは耐えられない一撃だ。


 二人の前に立ち、土属性剣の壁で防ぐ。

 だが壁は壊され、衝撃波で吹き飛ばされた。


「ぐはっ!」


「ルイス様しっかり。ヒール、ヒール、ヒール!」


 回復をつづけるアメリアに目配せをし、迫るリッチから遠ざける。


 足止めるため何度も斬りかかるが、やはり手応えはない。


『カッカッカー、不滅の我に風と土属性など効かぬわ。せめて聖属性を持ってこい。でなければ話にならんわ!』


「だな。相性が悪かったぜ」


『相性ではないわ、このたわけ者。我は死の王、エルダーリッチ。雑魚が対等を気どるではない!』


 今も斬っているのに、何事もないかのように話つづけている。

 慢心ではない、本当にダメージが無いとは忌々いまいましいな。


「ぷはっ、何が死の王だ。儀式で人生から逃げたクセに。臆病者が笑わせるぜ」


『に、逃げただと! この底辺の雑魚がーーーーー、絶対に貴様は許さんからな。チリとなっているがいい!』


 煽りすぎた。


 ただのラリアットで、大きくHPをもっていかれた。

 回復魔法を貰うけど、くらうダメージの方が大きく後がない。


 エルダーリッチはニヤリと笑い、トドメを刺そうと近寄ってくる。


 俺は迫るエルダーリッチに手を突きだし、それは違うと指をふる。


「俺は雑魚ではない。もがく悪役貴族だ。そしてお前を葬り去る者だ!」


『ふん、笑いのセンスもないか。もういい、大人しく死んでおけ』


「悪いな、俺は大真面目なんだよ。その証拠を今から見せてやるぜ。喰らえ、炎属性魔法剣!」


『な、なに!』


 ルーン文字が剣に炎を宿す。

 不浄を焼きつくす浄化の炎だ。


 横に払い斬り、太刀を返す。

 心臓と脳をとらえた。


『ぐあああああああ、焼ける、ただれる、不死の我が崩れていくーーーーーーーー!』


「そのうるさい口をふさいでおけ、ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラーーーーーー!」


『ぐわあぁあぁぁぁぁああ!』


 何度も斬りつけ、ダメージを重ねていく。

 全ての魔力をついやして、最大火力の攻撃だ。


 そして斬る度に、切り口に炎が立ち上がる。エルダーリッチの霊体を燃やすその勢いに容赦はない。


『ぐっ、がっ、か………我は………超越、しゃ』


 最後のセリフを言い終わらない内に、エルダーリッチは灰となり散った。


 ふぅ、何とか倒せれたな。危なかったが間一髪で間に合った。


「すごいです、ルイス様。あのエルダーリッチを倒すだなんて!」


「めっちゃ震えたッス、最後の逆転劇。ヒーローそのものなんてズルいですよ」


「ははは、計算通りにいって良かったぜ」


「すごっ、狙っていんッスね」


 もちろんそうだ。

 闇雲に魔法剣を繰り出していたんじゃない。


 あの戦いのなかで、スキル熟練度を稼いでいたのだ。


 スキルを使えば、通常1/500ずつ熟練度が貯まっていく。

 戦いが始まった時点では、まだまだの域だった。


 しかし、ミニ祭壇と相手とのレベル格差により、稼ぐ数値は跳ねあがる。


 それを考えて戦っていき、計算通り19回目の攻撃で、スキルレベルが上がったんだ。


 次に炎属性がくると分かっていたので、後は耐えるだけだった。


 しかし、その耐えられるかが賭けだった。


 普通に死んでもおかしくない強敵だ。

 アメリアとエルドラが居てくれたから、つながった奇跡だよ。


 間一髪、最高のタイミング。

 助けが無ければ、即効で死んでいただろう。


「二人のおかげだよ。二人がいなかったら、たどり着かなかったよ」


「えーー、そうですかーー。そう言って頂けると嬉しいです~」


 可愛く身をくねらせる二人に、笑ってしまう。


 元に戻った空の色と、いつものアナウンスが聞こえ、完全に終わりだと安心できた。


 普段は不愉快なあの警告音も、今だけは心地よく思えたよ。



《ビゴーン、ビゴーン。星一つの『聖女にミニ祭壇を盗ませろ』の失敗により、800点の減点となります(⇒悪名6912)》


「えっ、800点も?」


 星一つでこれとは!


 いつもなら10点しか変動しないに、桁が違いすぎるだろ。


 見違えかと見直しても、その数字は変わらない。


 そうなると、次の星2つが楽しみだ。

 一気に悪名が失くなるかもしれないぞ。

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悪役貴族さま、極悪ミッションでの日常 ~逆張りで痩せて、助けて、優しくしたら、ヒロインたちが俺を勇者だと勘違いし始めてる 桃色金太郎 @momoirokintaro

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