第23話 極悪ミッションは二度やってくる ②

「なんだこのミッションは。逃げられないよう囲ってきやがった」


 ミニ祭壇を盗ったらアウト。

 なのに盗らなくても同じとは、八方塞がりのミッションだな。


 どうあっても、俺を立派な悪人に育てたいようだ。

 ここまでするとは、向こうもかなり本気だよ。


 条件をみると、盗めば被害が一番少なくてすむ。


 でも、してやられるのは悔しい。

 それと何より、今後おなじパターンでこられたら終わりだよ。


 あっという間に鬼盛りの悪名をとどろかせ、すぐに粛清の対象になっちまうよ。


 でも悔しいが、他に道が見つからない。


 そんな悩む俺を二人は心配げに見てくる。

 でもゴメン、構っている余裕がない。


 どちらのミッションがマシなのか、もう一度考えなくちゃいけないんだよ。


「ルイス様、分かっていますよ。後は任せてくださいな」


「お、おう?」


 顔をあげると、アメリアがにっこりと笑ってから奥へと歩いていった。


 盗まないよね? 嫌がっていたし、俺としても困る。

 何をするのか見守っていると、司祭の方へと近づいている。……まさかな。


「はじめまして司祭さま。私アメリアと申します。今日はあのミニ祭壇をいただきに参りました」


「おおお、聖女さま、よくぞお越しいただきました。アレをお渡しするのを心待ちにしておりましたぞ」


「がっがっ、や、やばい!」


 唐突にアメリアがイベントを始めてしまった。


 この国を救うため、教会に伝わる秘宝を受けとる。

 それは聖女として正しい選択だよ。


 でも、それは今の俺達には破滅でしかない。

 出てくるリッチに対して、レベルも属性も何もかもが足りてない。


 これ以上の進行を止めるべくダッシュ。

 だがちょうどミサが終わり、修道士ちが動き出してきた。


「す、すみません、通ります。道をあけてください」


 細い通路には人だらけ。

 かき分けるスペースすら無い。


「聖女さま、私の代でお渡しできるとは思いもよりませんでした。世界の平和のため、どうぞお受け取りください」


「ありがとうございます。皆様のお役にたつ事を誓いますわ」


 間に合わない。


「や、やめるんだ、アメリア! 司祭も渡すんじゃない」


 司祭は一瞬とまり、こちらを見てくれた。だが何やらひきつった表情だ。


「ル、ルイス・ウォルター・アルヴァレズだと? あああ、悪行三昧の貴族がきた。は、はやく聖女さま、ヤツに取られる前に!」


「は、はい?」


 押しつけるように、司祭からアメリアに手渡された。


 その瞬間、ガラスを引っ掻いた不快な音が響く。


「な、なんだコレは。さてはあの悪徳貴族の仕業だな」


 そして辺りは赤く染まり、特別ステージへと切り替わる。


「クソッ、これじゃあ逃げられないぞ」


 こうなると最悪だ。

 外とは空間が切り離され、イベントが終るまで解放されない。


 それに俺達だけではなく、なぜか司祭もここに取り残されている。

 理解できない状況に、司祭は狼狽うろたえるばかりだ。


 壁にあるステンドグラスから、膨大な魔力が流れ出てきた。


「アメリアそこは危ない。司祭と一緒にすぐこっちへ来るんだ!」


「えっ、ルイス様?」


 アメリアも呆けて動けないでいたが、俺の声を聞き我にかえる。


 以前ハーピーで体験しているだけあって、俺のひと言で理解したようだ。

 急ぎ司祭も連れてきたのは良いが、その司祭が騒ぎまくる。


「悪徳貴族め、どういう事か説明しろ。神の住まいで暴挙は許さんぞ。いくら社会に害なすウジ虫だとしても、ワシのテリトリーでの勝手は許さんぞ」


「そんなのは後だ。それよりも来るぞ!」


「話をそらすな、悪徳貴族め。……えっ、く、空間にヒビが入っていく? ヒィイイイイイイイイイ!」


 理解できない状況に、司祭は腰をぬかして後ろへと隠れた。


「あの色か……ヤバイな」


 ちゅうにできた割れ目の隙間から、おぞましい手が見え空間を掴む。

 それは出口を無理やり引き裂き、一気に外へと飛び出してきた。


 出てきたのは、リッチよりも上位体のエルダーリッチだった。


 手強い相手の出現に舌打ち。


 冷気と暗黒を身をかため、乾いた声にはマヒ効果まである。

 追加イベントのせいで、難易度が格段にあがってしまったよ。


『カッカッカー、我が生け贄となる聖女がようやく現れたか。この匂い、実に良いぞ。その命を我の力としてやろう』


 目的はアメリアの魔力と俺らの命だ。嬉しそうにしゃべりやがる。


「どうしましょう、ルイス様」


「俺の後ろへ。出来るだけ耐えるぞ。その間に退路をさがそう」


「は、はい」


 逃げ場などはないが、それを伝えるのは酷だ。

 助かるには、エルダーリッチを倒すしか方法はない。


 だけど相手は不死者、まず物理攻撃は無効である。


 俺らの持っている対抗手段としては、アメリアの聖魔法のみだ。


 でも魔力とMPがまるで足らない。与えるダメージなど微々たるものだろう。

 はっきり言ってこれは、負け確定の戦いだ。


「だが諦めん。風・魔法剣!」


 ルーン文字がきらめき剣を強化する。

 斬り口から風の刃が走り、エルダーリッチを後ろへ押し戻した。


「すごっ、王子かっこいい!」


「いや、まだだ。ダメージは通っていないぞ」


「えっ、あれでダメなんッスか?」


 エルダーリッチの体はアストラルボディ、この世の物ではない。


 故に衝撃で足止めは出来ても、HPは1mmだって減らせれていない。

 対策もなく戦うのは、体力を消耗するだけだ。


「ふたりとも、俺に秘策がある。信じてサポートに回ってくれ」


「さすが王子、頼りになる~」


「もちろんです」


 アメリアには回復を、エルドラには足止めを。

 そして俺は鍵になる魔法剣を。


 奇跡ではない勝利をとりにいく。

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