第22話 極悪ミッションは二度やってくる ①

 待望の弓兵が陣営に入ってくれた。

 しかもダントツの実力をもつ、ギャル系美少女だ。


 弓兵のあてがなかっただけに、この加入はありがたい。

 うん、あくまでも純粋に戦力としてだ。


「それはさておきアメリア。ゴッドオーブのことを忘れてないか?」


「ゴッドオーブ?……あっ、も、もちろん覚えてますよ。い、いやですわー」


 白々しい演技だこと。

 エルドラも演技力ゼロだしな、二人は良いコンビだよ。


「王子、そのゴッドオーブって何ですか?」


「ああ、ステータスアップに欠かせない大事なアイテムだ。七色にひかる手のひらサイズのオーブさ」


「七色って……これの事ですか?」


「うわっ、どこにあったんだい?」


 エルドラが取り出してきたのは、まさしくゴッドオーブだ。

 無事に見つかり力が抜ける。


「倒れた時に掴んで、そのままだったみたいッス。よかったら王子にあげますね」


「えっ、いいのか?」


「いひひ、王子が喜んでくれるなら、そんなアイテムの一つや二つ、大したことないッスよ」


 無条件の譲渡をサラリとやってくれた。

 まっすぐな子だよな。


 とはいえ、その効果はメンバー全員に行き渡る。

 何がなんでも自分の手元に欲しいって訳じゃない。


「そのオーブはエルドラが持っていてくれ。君が手にしたってのは、何か意味があるのかもしれないからな」


「えっ、いいですか?」


「それにさ、それ綺麗だろ?」


「王子、マジかっこいい~~~!」


 無事にゴッドオーブを手に入れ、この庭園を後にした。


 次に目指すはミニ祭壇。


 まあ、こちらはすぐに終わる、簡単なイベントだ。

 エルドラとは後で待ち合わせても良かったのだが、一緒について来たいそうだ。


「それで何処どこに行くんですか?」


「ほら、中央に見えるあの教会だ」


 ここでエルドラにも説明をしておいた。

 熱心に聞いてくるから、俺としても力がはいる。


「へえ、取れないって凄いッスね」


「そうだな、他者が手にするのを防ぐ処置だろうな」


 取り方を知っている俺でもダメなはずだ。

 ゲームでもそうだったし、俺は指示を出すのみだ。


 それにここではゲーム知識が鍵になる。

 そうでないと、ここでのイベントは窮地に陥ってしまうんだ。


 教会で『ミニ祭壇』を手に入れる手段は二通りある。


 こっそり盗むのと、司祭から願われて譲り受ける。この真逆な方法の二種類だ。


 盗むと本来もらえるはずの聖女専用武器を諦めなくてはいけない。


 逆に司祭がからむと、バトルが発生する。


 そしてマップクリア後、専用武器が渡されるんだ。

 後々まで使える物だし、あると無いとでは大きい。


 ただし問題なのがそのバトルだ。


 マップは後半の物だから、出てくる敵がめっちゃくちゃ強い。


 しかも相手は闇属性のリッチだ。

 不死のリッチとなれば、力でのゴリ押しだけでは倒せれない。


 今の俺らにとったら、相性が最悪の敵になるんだ。


 アメリアの武器は惜しいが、安全を考えれば『盗む』の一択しかない。

 二人を危険にさらす理由は見つからないよ。


「ルイス様、ここですね。でも今はミサの最中さいちゅうです。時間をずらして出直しましょうか?」


「いや、狙ってきたんだからいいよ。さっ、なかに入るぞ」


「は、はい?」


 中はおごそかな雰囲気に包まれ、修道士が祈りをささげている。


 だが祈りに集中しすぎて、こちらには気づかない。ゲーム通りの状況で有難いよ。

 色々試したが、やるならこのタイミングなんだ。


 そして中央の壁には、目当ての『ミニ祭壇』が安置してあるのが見えた。


 指をさし、二人にアイテムの存在を教える。


「わー、きれいッス」


「あれがルイス様が求める物ですね」


「ああ、そうだ」


 金色に輝いて、ご利益がありそうなオーラを放っている。

 教会はもちろん、信者にとっても大事な物。いかにも秘宝って感じだよ。


「それではルイス様、司祭さまにお声をかけてきます」


「いや待て、そのままだ」


「でもお時間がかかりますよ?」


「そうじゃない。司祭に気づかれちゃいけない。アメリアにはこっそりと、ミニ祭壇をってきてもらいたいんだ」


「えっ、それって泥棒なのでは?」


 あっ、そうとらえるのかぁ。

 やばいな、どうしよう。


 ゲーム脳の俺にしたら、『そこにアイテムがある』=『貰っちゃえ』と直結する。


 だけど、普通の感覚なら犯罪だわ。


『チッ、壺を割っても何も出ねえのかよ、シケてんな』

 なんて自宅でやられたら発狂ものだ。


 ましてや、悪事を強要されるなんて驚くよな。

 隣にいるエルドラさえも、目玉が飛び出しそうな位ビックリしているよ。


 それが理解できるからこそ、アメリアの純粋な問いが痛い。



《ビゴーン、ミッション発生、ミッション発生。30分以内で聖女にミニ祭壇を盗ませろ (報酬、四大毒蛇の杖) ☆☆★》


 うっわーーーー、ここに来てミッションかよ。報酬で誘うパターンだな。


 俺が盗りに来ている時点で、ミッションクリアのあと一歩だろ。


 それでも盗ませろだなんて、棚ぼた狙ってきやがった。

 人の行動に被せようだなんて、いい性格してるよな。


「うーん、そうなると問題はのるか、反るかだよな……ふう」


 ミニ祭壇は、倍の経験値が得られるアイテム。その分、人よりも先取りができる。

 空いた時間は有効活用。

 余裕が生まれ、あとの計画だって立てやすくなる。


 でも手に入れたなら、この極悪ミッションが成立してしまう。それは痛いよなあ。

 いままでコツコツと減らしてきた悪名が、一気に増えてしまう。


「悩むけど、やっぱどちらかは決まっているよ。うん、今回は諦めるか」


 いまの俺は悪者だが善行をしているから、まだ許されているだけ。

 もし、悪名が上がったら『それ見たことかと』責められる。


 そして二度と信頼は得られないだろうな。

 もう破滅しか見えん。


 だからこれでいいのだ。


「よし、帰るか。……ん、二人ともどうかしたか?」


 何故か二人は肩を並べ、瞳を潤ませている。

 それにやけに嬉しそうだ。


「やっぱりそうだったんですね。私達を試されていたのですね。良かったぁ~」


「へっ?」


「だよねぇ。正直びびったけど、すぐ分かったッス。これはうちらへの愛の試練だって」


「うん、ルイス様が悪事をはたらくなんておかしいですもの。黒い噂だって眉唾物まゆつばものです。ルイス様は良い人。皆を導く希望の方ですわ」


「姉さん、それって勇者じゃね?」


「うん、それいい。ルイス様にぴったりよ。光の勇者ルイス・ウォルター・アルヴァレズ。なんて素敵な響きなの」


「お、おう?」


 いやいや、違うだろ。


 いまだにジョブが『クズな御曹司』だぜ。真逆なイメージは恥ずかしい。


 悪名だってマックスの100を越えてるし、どう考えても善人なんて呼べないよ。


 でも、計画中止は伝わったか。


 ミニ祭壇はまた今度だ。

 十分成長して、リッチに勝てる算段がついてから来ればいい。


《ビゴーン、ビゴーン》


 性懲りもなく例の音がまた鳴り響く。


「ったく、今度はなんだ?」


 どうせろくな事ではないだろうが、一応見てやるかと待っておく。



《ミッション発生、ミニ祭壇を諦めろ (報酬、先のミッションを成功したものとする) ☆★★》


「や、やられた。……マジか」

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