第13話 ドドベルという男(クソメタ編)

 ここは城下町にある場末の酒場。

 出される酒の安さに誘われて、アル中やゴロツキが集まってくる場所だ。


 そこで一人の男がを巻いている。


「くそー、ルイスの奴め。何がハーピーキラーだ。調子に乗りやがって、何様のつもりだーーー!」


 騒いでいるのは騎士団団長のドドベルである。


 足をテーブルに投げ出し、周りにかまってちゃんをアピールをしている痛い男である。


 だがさすがにやり過ぎている。この荒れたこの場所であっても、浮いている存在だ。


 あまりにも情けない振る舞いをしているので、誰も彼の事をえある騎士団団長とは思わないだろう。


 そんな彼の独り言の原因はルイスだ。


 ハーピー戦において、まるで神話のような戦いであったと皆がルイスを誉めまくったのだ。

 それに対して、自分への評価が低すぎるのも気に入らない。


 無策な突撃だったとか、戦闘中の気絶はウケると爆笑されて散々だ。

 それを思い出す度に、酒を飲む量も増えていく。

 怒りの炎が燃え上がるのだ。


「おい、どぶろくエールをもう一杯だ」


「旦那、また安い酒ですかあ。たまにはビールとか頼んでくださいな」


「うるせーーーーー!」


 一番良い場所を陣どっているドドベルに、店のマスターは苦言する。

 しかしタイミングが悪い。横っ面を張り倒された。


 ドドベルは、いつもの酒癖の悪さが出ている。


「マスター、ビールをこの御仁ごじんにも出してくれ。それとツマミをいくつか」


 すっと現れたのはフードを被った赤髪の青年だ。


 床に倒れたマスターへ、多めの金を渡している。

 その財布の厚みからしても、羽振りの良さが分かる。


 ドドベルは自分の懐を思いだし、チッと舌打ちをしてつっかかる。


「おい兄ちゃん。俺は物乞いじゃねえぞ、舐めんなよ!」


「いえ、かの高名なドドベル団長様とお近づきになりたいのです。是非ともその栄誉を与えて下さい」


「お、俺をか?」


「はい、勇猛果敢で怖いもの知らず、そして勇ましくて無鉄砲。猪武者とはまさにあなたの事。そのドドベル様とお知り合いになりたいのです」


「そ、そうか。まあ、そこまで言うのなら貰っておいてやるよ」


 へりくだった態度と陳腐な褒め言葉に、ドドベルは気を良くしビールを受けとる。

 そして一気に飲み干した。


「おお、さすが英雄ドドベル様。もう一杯どうぞ」


「いい奴だな。で、おめえ誰よ?」


「はい、私は勇者ジョージと申します」


 フードをとり自己紹介する相手に、眉をピクリとさせる。

 グイッとグラスをあけ、じっと見る。


 先日この男が町を、出禁になったのはドドベルも知っている。

 その出禁男が目の前で、シレッと話をしているのだ。


「その有名な勇者さんが、何の用事で来てんだよ?」


「はい、同じルイスを憎む者として、仲良くできたらと。ダメ……でしたか?」


「ぶっ、ぶわははははーっ。そうか、まあ座れや」


 この直球に思わず吹き出すドドベル。

 黒く濁った息を吐いている。


 二人はすぐに意気投合し、肩をたたき合うほど仲良くなった。

 同じ敵への怨嗟を共有し、悪口を言ってうさを晴らをしている。


「だいたい騎士でもねえ奴が、あんなにチヤホヤされやがるのが許せねえんだよ!」


「その通り。やつは性根が腐ったわがまま坊っちゃん。ハーピー討伐も怪しいですよ。金と権力で、真実をねじ曲げたに違いないですよ」


「ああ、俺もそう睨んでいる。それに未だ使用人をいたぶって、それを楽しむ外道げどうなんだ」


 思いついたまま話していると、相手もそれにのってきて愉快になる。


 ただし楽しさと不満は表裏一体。

 杯を重ねていくと、そのぶん怒りがこみ上げてくるのだ。


 テーブルやらを叩き、高ぶる感情を発散させている。他の客や従業員が避けているのもお構い無しだ。


 そして何度目かの乾杯をしたあとに、ジョージが愚痴った。


「でも何だかんだ言っても、あいつは貴族。特権に守られて、のほほんと生きていくんでしょうね」


「……でもよ、その特権が失くなったら面白いと思わねえか?」


「ドドベル団長、そんな事が可能なので?」


「ああ、いかに貴族といえども、国法を犯せば容赦はされない。……例えば、タブーとされている奴隷売買とかな」


「あっ!」


 このノマール王国は、敵国ゴルトバ帝国とはちがい奴隷制度を否定している。


 それにより多種多様な人種が集まり、国を豊かになった。

 人々はそれを誇りにおもい、自由を楽しんでいる。


 だが代償はある。帝国の奴隷狩りにあってしまうのだ。


 王国は奴隷商人の狩り場となり、帝国もそれを推奨している。

 ノマール王国は奴隷を否定するのに、被害にあい続けている。


 こうなると王国内での奴隷不要論は更に高まり、帝国への憎しみがわくのは当然だ。

 こういった経緯から、両国は度々衝突をし戦争は絶えることはない。


 そんな背景を逆手にとって、ドドベルはルイスをハメようとしているのだ。


「もし奴が売買に関わってバレてみろ。廃嫡どころか投獄だってありえるぜ」


「凶悪な囚人に囲まれ、ルイスが泣き叫ぶのか。くーーーーっ、たまらん。それグッドですなあ」


「へへへっ、俺に伝手つてがある。奴に地獄をみせてやるよ」


「ドドベル最高だー。おい姉ちゃん、酒と料理をジャンジャン持ってこい。今日は前祝いだぜーーーーーー!」


「がははははっ、おめえが一番はしゃいでるじゃねえか」


「へへへ、バレましたー?」


 互いに立場を忘れ、欲望のおもむくまま騒ぐ二人である。


 しかしその姿勢は真剣そのもの。

 妥協をゆるさないと計画に熱がはいる。

 そして徐々に細部まで練りあげ、納得のいく計画ができた。


「……という具合だ、どうだジョージ?」


「ええ、それなら完ぺきですよ。悪どいルイスなら簡単に食いつきますよ」


「ああ、名付けて『ルイス、ほいほい作戦』だな」


「プププッ、動けなくなった所で俺が突入すればいいんですね」


「おう、ちょうど王国軍が通りかかるからな、ルイスは絶対に言い逃れはできんぞ」


「じゃあ奴をボッコボコにすればする程、俺は誉められちゃいますよ」


「そういう事だ。犯罪者ルイスと英雄ジョージ、そして大金持ちドドベル様が誕生するって瞬間だ」


「うおおおおお、楽しみだーーー!」


 空が白みはじめた頃、二人の魂は交わった。

 打倒ルイス、ぶっ殺せルイスと叫ぶのであった。


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