第12話 聖女アメリア覚醒

 ガンギマリの勇者ジョージ。

 俺を敵と認定してきたよ、はあ~。


「アメリアちゃんを操つるとは、下劣なブタめ。外道以外の何者でもない。よーし、この勇者ジョージが直々に成敗してくれる。……ついでにお金もいただくぜ!」


「だから、違うっていってるじゃないの!」


 アメリアが止めるも、聞く耳をもたないジョージ。暴走が止まらない。

 この屋敷のなかで剣に手をかけた。


 即座に衛兵が反応するが、俺は待つよう制止する。


「このブタ野郎。ボクチン、ボクチンとうるさいぞ。言葉が通じない家畜には、厳しいしつけがいるみたいだな!」


「「えっ? な、なんだ?」」


 勇者による変な悪口がはじまり、周りはキョトンとなる。


 でもゲームをやった俺には解る。


 これはルイスに対しての、煽りモードが発生したんだ。


 悪役とはいえルイスは伯爵家の子息であり、無闇に手を出せない。


 そこでルイスを怒らせ、先に手を出させるイベントなのだ。


 結構ユーザーにはウケたんだよな。

 悪口を言われる度に、ルイスの表情が崩れていって。

 大袈裟にひきつったり、怒ったりとバリエーションが多いんだ。


 その変化を面白がって、延々と続けたプレイヤーが多かったそうだ。


 かくいう俺も半時間ほど楽しんだクチだ。腹を抱えて笑ったのを覚えているよ。


 でもいざ自分がやられるのはキツイ。

 だから極力相手が飽きるよう、無表情になるのを意識した。


「この臭い陥没鼻のブタ野郎。体の割に足が細くて気持ち悪いぞ。はあー、生きている価値のない奴っているものだよなあ、あははははー」


「…………(無表情だぞ、俺)」


 見た目と悪口で矛盾があるな。

 でも勇者は構わず続け、ひたすら的外れな悪口をつづけている。


 続く、続く、続けている。


 いい加減に気づいてほしい。周りもみんなあきれているぞ。


「ここまで言ってもその態度か。よーし、こうなったら実力行使だ。お前をぶっ倒し、アメリアちゃんをいただくぜ」


 おびえるアメリアを、背中にかくまう。

 それを見たジョージの顔が怒りで崩れる。


「アメリアーーー、隠れるなあ。お前のその間違った認識を、俺のワンパンで終わらせてやるぜ。みてろ、アトミックコスモウェザーパーンチだあああああああああああああ!」


 乙サガにはない出鱈目でたらめなパンチだな。

 遅いし簡単によけておく。


「こ、渾身の一撃を。逃げるな、卑怯もの!」


「いや、落ち着いてよ。まじで」


「そうです、これ以上ルイス様を悪く言わないで」


「ア、アメリアまだ言うか!」


 あるはずのない美少女キャラによる悪役への擁護だ。

 勇者ジョージは面食らっている。


「ルイス様は変わられたのです。それにとっても格好良くなられて、みんなが大好きになっているんです。私は一生、ルイス様から離れません」


 こちらを見て、ポッと頬を染めてはにかむアメリアだ。


 憎まれることは無くなって安心していたが、このセリフにはビックリだよ。


 だって勇者が現れたら、アメリアは無条件でついていくと思っていた。

 なのに俺を選んだよ。


「この売女めーーーーーー!」


「きゃっ!」


 一瞬の隙をつかれた。怒り狂った勇者は、アメリアの頬にビンタした。


「何をするのです!」


「何をだとー。反省もせず口ごたえとは呆れる女だ。徹底的にしつけてやる!」


 アメリアをまた叩こうとしている。

 一度目は隙をつかれたけど、二度目を許すほど俺はマヌケじゃない。


 振り上げた腕を動けないように掴みとる。


「くっ、離せブタ野郎!」


 残りの手でパンチをうってくる。

 それも受け止め動きを封じる。


「なあ、勇者ジョージ。一旦ひいてくれないか? 冷静になれた後日に話し合おう」


「うるせえ、その女にしてやる調教を邪魔するな。お前にその権利はないぞ!」


 勇者がどこかの独裁者と重なる。

 妙に自信にあふれ自分の正義を語っている。

 だがそれは聞き流せれない。


しつけとか調教って動物じゃないんだから、そういう言い方はやめろ!」


「はあ? 俺の女をどうしようと勝手だろ。それに女はハイハイいって笑っているものだ。それが出来ないのなら、躾るしか道はねえ。痛い思いをすれば、すぐ素直になるさ」


「と、ほざくお前の事を、ここにいる全員がさげすんでいるぞ?」


 イラつく勇者の問題発言に、この場にいた全員が敵対心をあらわにした。

 全員でアメリアを後ろにかばい、鋭い目つきで勇者をにらんでいる。


 みんなの怒りは本物だ。


 威張り散らす勇者に業を煮やし、全員で距離をつめプレッシャーをかけている。


 だがそれに勇者ジョージは一瞥しただけで、アホらしいとソッポをむいた。


「勇者よ、どうしても引かないのか?」


「プププッ、豚がキーキー鳴いてよ。だが残念だったな、悪は滅ぶと決まっているんだよ」


 両手をとられていても、まだイキがってくる。


 敵対しないと決めたのに、我慢の限界がきているよ。


 周りのみんなも『やってくださいよ』の目で見てくる。……なら、いいかな?


「そうか、だったらここにはお前のいる場所はない。とっとと何処かへ飛んでいけ、うらーーーーー!」


 ハンマー投げのように勇者を振り回す。

 十分とスピードがのった所で、窓から外へ投げ飛ばしてやった。


「ぎゃーーーーーーーーーーーーー!」


 窓を派手に突き破り、思ったより飛んでいくな。


 ……あら、まだ飛んでいる。


 点になる。


 そしてキランと光って見えなくなった。


「やったー、ルイス様サイコー!」

「あれで勇者って信じられないよな。でもスッキリしたよ」

「そうよね、おととい来やがれだわ。あはははは」


 我慢できずにやってしまった。


 でもみんなに受け入れられている。


 あの勇者の態度は悪すぎたからな。

 俺の無茶な行動が逆に正義になった。


 そんな皆がわく中、アメリアが駆け寄ってきた。

 大きな瞳に涙をいっぱい溜めている。


「ルイス様、お怪我はありませんか?」


「大丈夫だ、すこし赤くなっているだけだ。それよりもアメリアの方こそ大丈夫なのか?」


「ああああ、ルイス様の手の平が。た、た、大変です。早く薬を。エリクサーをーー!」


「おいおい、大袈裟だな。へなちょこビンタを受けただけだから、放っておけばすぐ治るよ」


「そうはいきません。あーもう、こういう時に限って、両方を切らしているなんて。こうなったら私の愛で治してみせます。えい、ヒール、ヒール、ヒール!」


 そりゃ無理だろ。


 聖女に覚醒した後ならまだしも、まだメイドであるアメリアに魔法は使えない。

 その事実を知っているだけに、つい暖かい目でみてしまう。


「ヒール、ヒール、ヒーーーーール!」


「ありがとう。でもそろそろヤメていいんだよ……えっ?」


 何分も続けていたら、アメリアの手元が光りだした。


 温かい光が俺をつつみ、手の赤みを消し去った。

 それは何度も見てきた回復魔法のエフェクトだ。


「で、出来ました。ルイス様に傷痕がのこらなくて、よ、よ、良かったー、うわーーーーん」


 アメリアの覚醒は、勇者がボス戦でピンチになった時に起こるはずだ。

 それにより、二人の絆を強く感じる大事なイベントである。


 なのに、悪役ルイスの秒で治る腫れでおこったよ。


 あり得ないだろとツッコミたい。

 しかしアメリアは得意満面の笑顔だ。


 こわばりながら、優しくアメリアを受け止める。


「う、うん、あり、がとう」


「いえいえいえー、ルイス様のお役に立ちたかっただけですからー」


 めっちゃ喜んでいる。これじゃあ何も言えないよ。


 困惑する俺に追い討ちがくる。

 またいつもの声が聞こえてきたんだよ。


《聖女アメリアが陣営に加入しました。今後は出撃ユニットとして選べます。それによりミッションは失敗です》


「ま、またーーー?」


 リリアン師匠に次いで2人目だ。

 アメリアが仲間なるのは嬉しいよ。


 でもさ、メインヒロインがこっちだなんて、ゲームシナリオを壊す気かよ。


 俺が良くても先がない。

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