第11話 珍客勇者の乱入

 ハーピー戦から数日後。


 毎日のように性悪ミッションが発生してくる。


 だがそれは有難い事だ。

 わざと失敗するから、どんどんと悪名が減ってくれる。

 周囲からのみる目が変わるし、日々の仕事もやりやすくなった。


 顕著なのが騎士団の連中だ。

 ハーピー戦で見せた剣技に惚れてくれたようだ。


「ルイスさま、今日の巡回ルート予定をお持ちしました」


「ありがとう、助かるよ」


「いえ、他に何かありましたら、ご遠慮なくお申し付け下さい」


 騎士団からの定例報告は欠かすことなく行われ、邪険にされていたのが嘘のように無くなった。

 武人には力を示せたのが良かったな。


 団長を除いて、騎士団から信頼を勝ち得たのはデカイ。

 まだまだ高い悪名では、いつ粛正されるか分からないからな。

 味方は多いほどありがたいよ。


 ◇◇◇


「ルイス様、お疲れさまでした~」


 そんな忙しい中でもアメリアは側にいてくれる。

 色々と世話をやいてくれて、その笑顔に癒されるよ。


「いつもの紅茶でよろしかったですか?」


「ああ、この香り。アメリアのお茶が一番だな」


「えへへへへへ、それは愛を足してるからですよ」


「お、おう」


 視察から帰ってきた俺に、ジャストなタイミングでの提供だ。

 至福のひとときを堪能する。


 つかの間の休息に浸っていると、何やら玄関の方が騒がしくなった。


「なんでしょうねぇ、見てきましょうか?」


「いや、騎士団が対処するだろうから放っておけ」


「はい、アメリアはルイス様の側にいます」


 だが騒ぎは収まるどころか、徐々に近づいてくる。


「こ、困ります。そこはルイス様のお部屋。おやめください」


「うっせー、どうせ悪巧みでもしてるんだろ。はーーーーーーーーっ!」


 いつ以来か、またドアがぶち破られた。


 今日はセバスチャンではない。

 ずいぶんと若い男で、赤い髪で大きな剣を背負っている。


 すごく爽やかな笑顔を振り撒いてくる。


「可哀想なアメリアちゃん、ここにいたんだね。だが安心して、この勇者ジョージが悪の手から救いだしてあげる。さあ、その身を俺にゆだねるんだ!」


「なにコイツ?」


「さあ、勇者とおっしゃいましたが、私は存じ上げません」


 いや、俺はコイツを知っている。乙サガの主役となる勇者ジョージだ。


 だけど疑問になるのはソコじゃない。

 なぜこの屋敷に乗り込んできたのかだ。


 たしかにアメリアと勇者は仲間になるよ。


 でもそれはゲームが始まった第一マップでの事だ。

 その出会いがきっかけで、アメリアは聖女として覚醒する。


 そこから勇者の活躍が始まるはずなんだよな。


 なのになぜ勇者の方から迎えにきたの?


《ミッション発生、アメリアを勇者の前で陵辱りょじょくしろ (報酬、回転式ベッド) ☆☆★》


 ぬお、このタイミングかよ。しかも陵辱って最悪だな。


 そんなため息をつく間でも、勇者の暴走はとまらない。


「さあアメリアちゃん、俺と素敵な冒険の旅にでかけようよ!」


「きゃっ、やめてください」


 勇者ジョージは、アメリアの腕を強引にとり、ニヤけながら引き寄せる。

 しかし、見ず知らずの男の振る舞いに、アメリアは拒絶してみせた。


 ドンと突き離されるジョージは放心している。

 自信満々だっただけに、その反応が理解できないようだ。


「つ、つ、突き飛ばした? いやいや、ない、ない、ない。おれ勇者だよ? アメリアちゃん、そんな流れはあり得ないよーーーっ」


「「……何が?」」


 俺らだけでなく、駆けつけた衛兵たちも同じ反応だ。

 勇者の暴走にドン引きしている。


「あー、分かった。ルイス、お前のせいだな。脅して逃げられないようにしてんだろ?」


 何だか変に巻き込まれたか、それともミッションのせいか。どちらにしても迷惑だ。


 でもここは慎重にいかなくてはならない。相手は正義心の塊のような存在だ。


 ひとつの対応ミスで、勇者と敵対関係が発生してしまう。

 ここまでうまく悪名を下げているのだから、いまは目をつけられたくない。


「えっと、勇者ジョージだっけ? 何か誤解があるようだし、詳しく話を聞かせてもらえるかな?」


「知らばっくれるな。ブタくずルイスのくせに、可憐なアメリアちゃんを虐めているのは有名だぞ。勇者である俺の目は、誤魔化しなどきかんのだ、わっはははは」


「いいえ、私は自らの意思でルイス様にお仕えしています。だから何処にも行きません」


 俺が反論する前にアメリアが答えた。

 その毅然とした態度に、うっすら感動をした。


「あーそういうのいいから~。アメリアちゃんは休んでていいよ」


 話を聞かない勇者に、アメリアはイラついている。

 最初は愛想笑いをしていたが、段々と我慢できなくなってきている。


 勇者がそれを察知すれば良かったのだが、そこら辺はあまり得意ではなさそうだ。


 ついにアメリアがキレた。


「豚にアメリアちゃんは勿体ないもんねぇ。ていうか~、我慢しすぎは体によくないぞ~、むふっ」


「はあ? 違うっていってるでしょ。私はルイス様が大好きなの。これは内緒だけど、ずーっと側にいたいのよ。好きで好きでたまらないの。だから、それを邪魔しないてくれる。というか一昨日おとといきやがれです」


「えっ、何その下品なジェスチャーは? クズ豚ルイスの素行の悪さがうつってるじゃんか」


 いきなり告白されて、俺だけが戸惑っている。


 いや、幻聴だろう。誰一人それに反応していない。動揺するほうが恥ずかしいか。


 アメリアと勇者の言い合いは続いているし、まずはそれに集中だな。


 でも、アメリア、中指を立てちゃダメだろ。

 ジョージがかなり感情的になってるんだしさ。

 もめ事の予感しかしてこない。


 俺は行いを改めたとはいえ、それはつい最近のことだ。


 勇者の耳に入るには、時間が足らなかったようだ。

 でもアメリア本人が言っているし、納得してもらいたい。


「ルイス様をどうこう言う前に、自分を鏡でみなさいよ。あなたなんてただの不審者じゃない!」


 あっ、無理か。

 未だにファッ○ユーを止めていない。

 いつもの穏やかなアメリアとはかけ離れ、かなり感情を出しているよ。


「ブタ野郎め、お前のせいでアメリアちゃんが汚れたじゃないか。この落とし前きっちりつけさせてやるからな。ボッコボコにしてやんよ!」


「だから勇者さん、ちょっと落ち着こうよ、ねっ?」


「うっせーーーーーーーーーーーー!」


 いつの間にかヘイトが俺に移っている。


 これで敵対関係は確定だよな、とほほほ。

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