第14話 名もなき村 ①

【聖女が勇者よりも、アルヴァルズ伯爵家の子息を選んだ】


 衝撃的な話が周辺の町へと伝わった。


 事実は俺につかえるメイドが、暴走する勇者を嫌がり、回復魔法を俺に使っただけである。


 なのに誇張され周辺へと拡散したのだ。


 アメリアはこれを機にここから旅立つかと思ったが、あいかわらずメイドとして俺の世話をしてくれている。


 聖女?

 いやいや、今まで通り普通の生活が続いているよ。


「ねえねえ、ルイス様。たまには昔みたいに『あーん』をさせて下さいよー」


「……いや、はずいし、悪い噂がたつよ」


「というか、みんなやりたがっていますよーー」


 仲間になった事で、以前よりも距離感が縮まった。

 アメリア推しの俺には嬉しい出来事で、毎日が楽しい。


 そんな甲斐もあって悪名は一気にさがり、いまや8000をきっている。


 唯一の不満は、通り名である『特殊な詐欺の海賊王』かな。なかなか返上できていないでいる。


 それはさておき、俺は引き続き領地経営を学んでいるんだ。


 今日は帳簿と戦っていて、そこへ父が騎士団団長を伴えてやってきた。


「ルイス、精がでるな」


「はい、父上。覚えることが多くて楽しいです」


「そうか、そうか。立派になりおって、ぐすん」


 父からは、以前にはなかった優しい眼差しをむけられる。

 俺としては普通に過ごしているんだけどな。

 今までとのギャップで、天使のようだと誉められるよ。


 それと追加効果なのか、ミッションがなくても、徐々にポイントも減っているんだ。


 汚名返上は順調だよ。


「ではお前にひとつ領地を任せよう。農村をあずけるので、そこを導いてくれ」


「は、はい!」


「それでしたら伯爵様、俺に良い案がありますぜ」


 ずいと話に団長が割り込んできた。

 父は何かと促すと、団長は得意になって話し出す。


「開拓村のひとつで、有望そうな村があります。そこをルイスに任せてみてはどうです?」


「うむ、それなら成果も出やすいだあろうな。さすが団長、我が家の未来をよく考えてくれておる」


「ということだ。名前もない村だが頑張れよ」


 あれだけ俺を目の敵にしていた団長からの提案だ。

 すこし横柄な態度だが、団長なりに歩みよってくれた。


 素直に礼をいい、村へ向かう準備にとりかかる。


 ◇◇◇


「えへへへへ、他の村なんて楽しみですねえ」


「僕も楽しみだよ。城に閉じこもっていたから、気晴らしにはもってこいだよねぇ」


 俺が荷造りをしていると、アメリアとリリアン師匠がなぜか同じように喜んでいる。


「もしかして、ついてくるの?」


「だってルイス様のお世話は、私にしか出来ませんよ」


「うむ、修行の相手も僕じゃないとね」


 理由をつけて旅をしたいだけだろう。

 まあ、2~3日のことだし、日頃の感謝じゃないが楽しんでもらおうかな。


 それにあの辺は比較的平和な所だ。

 仲間になったアメリアのレベリングには丁度いい。


 こうして3人で、名もなき村へと出向くことになった。


 ◇◇◇


 森をぬけると、さほど大きくない農地が見えてきた。


 ここら辺が目的地の村だが、何か様子がおかしい。

 その理由にアメリアがいち早く気づいた。


「ルイス様、なんだか村が荒れていますね」


「ああ、変だな。のどかな村のはずなんだが、まず村人に聞いてみるか」


 遠くからでも分かるほど、田畑の手入れがされていない。

 雑草は生えまくりで、収穫もされていなくて人もいない。


 村に入ると田舎らしく肥料の匂いなのか、ツーンと悪臭が漂ってきた。


 やっと年配の男を見つけ話しかけてみる。


「こんにちは。私はアルヴァルズ家のルイスという。新しくこの地を任された代官だ」


「なに、代官だって。そんなの聞いていないよ。おーい、みんな来てくれや」


 男の呼びかけで、一気に人が集まってきた。全部で8人の男に囲まれている。


「お前、代官って聞いてたか?」

「いや、計画にはなかったぞ」

「だよなあ。じゃあコイツどうする?」


 警戒心が強い村人だ。

 委任状を見せても、まだ納得していない。

 聞いていないの一点張りで、なかなか話が進まない。


 更には帰れと騒ぎ出す始末だ。

 どう話すべきか困っていると、ひときわ大きな男が現れ、みんなを静めてくれた。


「おいお前たち、ルイス様に失礼だろう。さがれ、さがれ」


 騒いでいた村人だが、その男の一言で大人しくなった。


「ご無礼をお許し下さい。新代官の件、いま知らせがはいりました」


 モヒカン頭で派手だけど、話のわかる人がいて良かった。

 彼は村長のガロだそうだ。


《ミッション発生、この村人達を助けろ(報酬、エリクサー) ☆☆★》


 おおお、やっと真面目なミッションが出てくれた。


 悪意があふれる内容から一転したよ。

 報酬だって大盤振る舞いだし、遣り甲斐があるよ。


 まずは村人から困っている事を聞き出し、その対策を練りたいな。

 報酬のためにも、しっかりとミッションをこなしたいよ。


 その事を伝えると、村人は大喜びをし歓迎会を開くと言い出した。


「いや、俺はまだ何もしていないよ」


「いえいえ、勿体ないお言葉です。ささ、私の家にどうぞ」


 半ば強引に連れていかれる。

 そんな村長宅へいくと、想像以上の歓迎をうけた。


 出てくる料理や酒は、とても辺境の村とは思えない物ばかりだ。しかも惜しむ素振りを見せてこない。

 生活自体に困っているのではなさそうだな。


「父に村を助けるようおおせつかったが、これなら要らぬ心配のようだな」


「ええ、これも努力の賜物ですが、ルイス様に誉められるとは思ってもみませんでした」


 さっきの8人も照れ臭そうに笑っている。


 最初は誤解があって緊張したが、話せば気のいい村人だ。


 これに手を貸してあげれば、ここはもっと豊かになるはず。

 もしかしたら、この地域の要になるかもしれないな。


「村長、何か困っている事や、助けがいる事はないか? 私でよければ手伝うぞ」


「おおおお、さすが噂に聞こえたルイス様ですね。では、こちらへ付いてきてください」


 村長の後をついていき、粗末な小屋へとやって来た。


「ここにある商品をイワーナの町へ届けるのですが、それを手伝って頂けますか?」


「イワーナは敵国ではなかったか?」


「へへっ、いい金になるんですよ」


 村長は申し訳なさそうに、卑屈な笑いをしてくる。


 戦争中だしな、生きる為に必死なのだろう。それをとがめるのも酷か。


 逆にたくましいと誉めるのが正解だろう。

 そう自分に言い聞かせ、中へと入った。


 するとあのツンとくる匂いが強くなる。


「ひどい匂いだな、これは?」


「ええ、商品どもの匂いでして。こればっかりはしょうがないのですよ。へへへへへへへへ」


 薄暗く部屋の中はまだ見えない。

 しかし動きはあるな。


 目をこらしていると、段々とその全貌がはっきりしてきた。


 それは荷物などではない。鉄格子でくぎられた牢屋の中で、人が動いていたんだ。


「こ、これは!」


「はい、うちの商品でごさいます。あっ、男は抵抗したのが多かったので、少し間引いてあります」


 牢屋には何人もの人が押し込められている。


 女子供ばかりで、服や髪は汚れきり皆やつれている。


「ル、ルイスさま、これって?」


 アメリアがすがるように、服の裾を握ってくる。


「ああ、……アメリアがいま考えている事で正しいよ」


「ざ、残念です」


 違法な奴隷だと、クチに出そうになるのをこらえる。

 村人?たちは、それに気づかず笑ったままだ。


 俺はいつでも動けるよう構え、相手の出方をうかがっておいた。


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