第15話 名もなき村 ②

 囚われている人達は、虚ろな目でちゅうを見ている。


 何日もここに、押し込められているのだろう。


 中には痣やキズがそのままの痛々しい子供もいる。


「ガロ村長」


「はい、なんでしょう?」


「この事は父上はご存じなのか?」


 リリアン師匠ですら、ピクリとなる質問をした。

 俺も汗ばみ、村長の答えをまつ。


「いやいやー、あのお人好しの伯爵では、到底荷が重すぎでしょ。踏ん張りきれずに潰れてしまいますよ」


「そ、そうか」


 大きく深呼吸をし、脳に酸素を送る。


「ええ、こういっただいそれた悪事は、ルイス様のような崇高な方にしか出来ませんよ、へへへへへへ」


「それとメンバーはこれだけか?」


「はい、この村には9人です。あとは根城のカール村ですよ」


 ペラペラとよく喋ってくれる。


 きっと俺の悪名を知っていて、それで安心しているのだな。

 ふー、こういう時に悪名があるのも悪くない。

 悪人が勝手に向こうからやって来る。


「うううっ」


 ガロと話している間にも、苦しむ子供ち。

 たまらず一番近くにいた子の手をとり、ポーションをふりかける。


 そしてアメリアも続いた。

 駆け寄り鉄格子の外から、重症者からヒールをかけている。


「なんて酷いことを。これは違法な行いです。ただちにみんなを解放してあげなさい」


「……あん?」


 さっきまでバカ笑いをしていたガロたちは、水を打ったように静かになった。


「ルイス様、この巨乳は見習いですか? もししつけがいるなら、俺らがやりますよ。それとも此方こちらで引き取りましょうかね?」


 低いトーンで半目の顔。

 一切の笑顔はなく、迫力ある雰囲気だ。


「引き取る?」


「ええ、その乳なら良い値段がつきますよ。その前に、とことん主人は誰か分からせてやりますがね、へへへへへへ」


 舌を舐めずりまわし、下品に腰を動かしている。

 アメリアだけでなくリリアンも呆れ、うんざりだと愚痴っているよ。


「ルイス様、この人達は絶対に悪人です。らしめてやってください」


「へへっ、悪の帝王になられるルイス様にすがるとは、馬鹿な女だな。まっ、そのロリッ子も良さそうだし、悪い取り引きにはならねえな」


 ガロは2人を連れ去ろうと、腕を伸ばしてきた。ガロは俺を全く見ていない。


 無防備なその腕を、剣の鞘で叩きへし折ってやった。


「ぎゃーー、お、俺の腕がーーー!」


 騒いでのたうち回るガロを、呆然と見ている8人。

 現実味がないようだ。


「ル、ルイスさま、血迷われたのですか?」


 やっと出てきたセリフには、まだ俺を味方だと信じているのがうかがえる。


「いや、正常だ。この後に尋問するので殺しはしない。ちゃんと分別はついている」


「えっ!」


 残り8人全員に拳をおみまいする。


「ぐえっ、やめて、ぐわっ!」

「ルイスさま、俺ら味方ッス、悪人ッス。お気をたしかに!」


 気絶しないようするのも大変だが、行動不能にはしておく。

 ものの一分で全てが終わった。


「ルイスさま、お見事です」


「修行の成果が出ているねえ。師匠としても嬉しいよ」


「それよりも早くみんなを」


 ガロが持っている鍵をうばい、すべての牢屋を開けていく。

 でもみんな弱っていて、すぐには動けない。


 ひとまずアメリアのヒールで癒し、風呂と食事を用意した。

 二人がその準備をするなか、俺は城と連絡をとり一連の報告をした。



《な、なんと人身売買の巣窟だと?》


「はい、犯人は捕らえましたので、護送の人員をお願いします」


《分かった、そちらも警戒を怠るな》


「はい、父上」


《それと……よくやったな、ルイス》


「いえ、過分なお言葉です」


 姿は見えないが、身を案じているのが伝わってくる。

 後始末があるといい通信をきった。



「それにしても何が『村人を助けろ』だ。めっちゃ騙されたぜ」


 実際に男たちは村人ではなく、この村を占領した盗賊だった。


 実はおれ、こいつらの事を知っている。

 正確には乙サガの第3マップで登場する、【盗賊ガロとその仲間たち】のキャラたちだ。

 不覚にも今さっき思い出したよ。


 でもさ、途中で気づけって方が無理だよなあ。

 登場するのはカールっていう村だし、みんなよく似た顔をしているんだ。


 特徴のあるガロでさえ、もっと山賊っぽい格好だったからしょうがないよ。


 まさか拠点以外で、マップボスを倒すとは思ってもみなかった。


 でも一概に俺だけに責任あるとは言いがたい。


 そう、勇者は何をしているんだ?

 あれから時間は沢山あったし、3つ目なんて余裕で到達していなきゃおかしいよ。


 いくら自由度が高いとはいえ、序盤をすっ飛ばすのはダメだ。


 だからこんな事が起こるんだよ。


 ただなあ、アレの行動は読めないか。

 いきなり屋敷へ来た時も、他の仲間がいなかった。


 アメリアを求めて先走っていたな、やっぱり理解できないや。


「ええい、いまは村人たちだ。あんな奴は後回し」


 すでに食事は始まっていて、むさぼるように食べていた。


 アメリアが甲斐甲斐しく世話をやいている。


「おかわりはありますからね、ゆっくりと食べてくださーい」


「聖女さま、ありがたや、ありがたや」

「このご恩は忘れません」


「いえ、お礼はルイスさまに。この方がみなさんを助けたのですよ」


「ルイスってあの極悪人の?」

「ひいいい、怖い。た、助けてえ」

「毒、これ絶対に毒が入っているわ、ひいいい」


 名前を聞いた途端、箸をとめてこわばった。

 笑顔が戻りかけていたのに、またうつむき目を合わしてくれない。


「こ、こわい、こわい、こわい、こわい」

「わたしたちどうなるの。も、もしかして殺されるの?」

「どうか子供だけは、子供だけは!」


 完全に悪役の立ち位置だ。

 こうなったら何をしてもダメ。余計にプレッシャーを与えてしまう。


「ち、違うんです、みなさん。ルイス様は、ルイス様は……」


 アメリアは眉間にシワをよせ後悔している。

 どう皆に説明しようかと、ためらいがちだ。


「お、お兄ちゃん、あ、ありがとう」


 そんな雰囲気のなか、一番小さな子が俺の手をとってきた。

 最初にキズを癒してあげた子供だな。


「いや、大した事はないよ。それよりご飯はお腹いっぱい食べたか?」


「うん、すっごく美味しかったよ。毎日あんなのだったら良いのになあ」


「そうか、そうか。あとはゆっくりと休みなさい」


「はーーーい」


 無邪気な返事が帰ってくる。

 このやり取りを見てた人達が、気はずかしそうにしている。


「そ、そうだよな。命の恩人だもの。別に悪い事をされたって訳じゃないし」

「うん、それを噂に惑わされて。あたしゃ恥ずかしいよ」

「ルイス様、失礼な態度をとりすみませんでした」


「いや、俺が悪い。噂になる行動をとっていたからな。でも皆を救いたい気持ちは本物だよ」


「なんてお優しい、か、神さまだ」


 言い過ぎ。


 でもアメリアがほっとしているし、これでいいか。

 それにこの村を救うのは、これからが本番だ。


 一応、応援の依頼をしたあるし、それにかけてみるか。


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