第16話 名もなき村 ③

 次の日の昼には、村に騎士団が到着した。


 予想では明日の夕方頃だと思っていたので、このスピードには驚かされる。


 一刻も早い救済と、罪人の護送が必要なのだと感じてくれているのだな。

 これには頭がさがる。


 まあ、一人は除いてだけどな。


「おいおい、たかが9人の罪人ごときに、俺ら30人を呼びつけたのかよ。マジ信じられねえぜ」


 オーバーにボヤくのは、騎士団団長のドドベルだ。


「ドドベル団長、協力を感謝する」


「安っぽい仕事だぜ。はやく解放されてーーーーーーー」


 横柄なのは相変わらずだ。

 推薦時に機嫌はよかったのに、もう元に戻っている。

 気分屋のドドベルらしい変わり様だ。


「そうか、ならば早く帰れるように、罪人の収容を頼むとしよう」


「ふんっ!」


 これ以上は聞く耳を持たないようだ。

 他の団員に話しかけた方が良さそうだよ。


「ルイス様、言われた道具はこちらです」


「すまんな、助かるよ」


「い、いえ。ご指示に従ったまでです」


 それは斧やくわなどの開墾道具一式だ。

 男手が少なくなったこの村で、田畑を広げるのが重要になってくる。


 当初その計画は、この村の者に任せるつもりだったが、こう人が減っては無理。上手くいかないものだよ。


 その代わりとして、体力自慢の騎士25人を呼んだのだ。

 こうして村の農地改革をスタートさせた。


「木が倒れるぞーーーー」


 団員ちは日頃鍛えているだけあって、進めるのが早い。みるみる内に森が開けていく。


「俺も負けてはいられないな。魔法剣・風属性」


 剣に風をのせ、一回り太い樫木を一撃で切り倒す。


「ルイス様、すげえーーーー!」

「おれ初めて見たよ。迫力あるなぁ」


 軽く手を振り声援にこたえる。

 見られていると色々と見せたくなる。


 切り株をおこすのは手こずる作業だ。

 それを土ごと掘り返し、皆の負担を軽くする。


「おえっぷ。ルイス様、やるなら言って下さい。おかげで泥だらけですよ」


「す、すまん。じゃあ、それいくぞ?」


「おーい、みんな避けろーーーー」

「ははは、待ってくださいよーーー」


 騎士の活気に当てられたのか、村人たちが続々と見学にきた。


「えっ、騎士さまが私たちの為に開墾を?」

「あれ無償だってよ、有りがたいよね」


 村の主だった者が集まってきた。

 ここぞと思い話してみる。


「いや、大した事ではない。立派な畑にするのは、俺らじゃ出来ない。君らの力が必要。そこでお願いしたい事があるんだ」


「お願いですか?」


「ああ、輪作ってのを試してほしい」


 馴染みのない言葉に、みんな首をかしげて聞いてくる。


「リンサクって、あなた聞いたことある?」

「ううん、初めてよ」


 輪作って地球ではよく知られている、ローテーションで畑を休ませる方法だ。

 ただそれを村人が知らないのは不思議じゃない。


 例え農作が行われていても、ここはゲームの世界だ。

 農法や収穫率などの設定を、そこまで詳しくはしていない。


 そこに二毛作や輪作を取り入れたらどうなるかというと……。


「す、すごい。画期的なアイデアですね」

「これで豊かな村が戻ってくるわ、ありがとうございます」

「か、神様だ」


 村人はめっちゃ食いついてきた。

 でもこの人数の減った状況だと、それだけでは不十分だ。


 でもすでに俺の中では、その答えが出ている。

 まずは村人を静まってもらう。


「それとここからが大事な話だ。新しく開拓した分に対しては、5年間の納税を免除しよう」


「えっ、ほ、本当にですか?」

「私ら、恩を受けてばかりですよ。なんだか申し訳ないですよ」


「いや、それで良い。ここから立ち直ってくれれば、他への見本になる。俺の提案の正しさが立証されるんだよ」


 逆に失敗されたら困る。

 農地改革の広がりに支障がでるからな。


 でもこれを進めれば、年によっては収入が2~3倍になる計算だ。

 無税が終わっても、今よりは断然暮らしは豊かになる。


 まずはこの人達が食うに困らない土台をつくり、発展していってもらいたいのだ。


「やります、是非ともやらせてください」

「天国のアンタ見てて。私らこの村を立ち直らせてみせるよ」

「やってやりましょうよーーーー」


 喜ぶ村人をみて、騎士団の皆にも力が宿る。


「今季の種まきに間に合わせるぞ!」

「やってやるぜーーーー!」


「わ、私らも手伝います」


「ああ、みんなでやろう!」


 みんなの想いが一つになっていくよ。


 と、そこへドドベルがやって来た。

 クチャクチャと何かを食べていて、最後にゲップをはいた。


 団員のシラケた視線にも動じていない。


「準備ができたし行くわ。じゃあな」


「今からだと夜になるぞ?」


 夜間の行進は危険だ。

 それは常識のはずで、いまは無理にする必要がない。


「こんな辛気臭いところに泊まるはずなえだろ。いるのも嫌だわ」


 ドドベルにそれ以上話しても、答えすらせずにいる。

 唾を吐いて、早々に村を出ていった。


「なにあの態度、ルイス様に失礼だわ」

「いや、むしろ居なくなって精々したよ」

「嫌われるための人だよな、あははははは」


 いい慣れているのか、皆ぽんぽんと軽口を交わしている。

 そのおかげか、苦になる作業も気にならない。



 そして数日後、目標にしていた広さにまで開墾ができた。


「ありがとうございます、ルイス様」

「ルイス様がいなければ、ここまで出来ませんでしたよ」

「ええ、ルイス様はこの村の恩人、神様です」


 簡易的な水路や井戸の設置もできた。

 これなら重労働もすこしは軽減される。


「では俺らは行くよ。何かあったら城へ連絡をくれ」


「はい、命に替えましても、この村を守り抜きます」


「ははは、ほどほどにな」


 俺らが遠くになっても、まだ手を振っている。

 こんな悪名高い俺にだ。


 ちょっと照れくさく、おかしな感じだな。



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