第22話 ヴィルの正体
扉を開けると、そこにいたのはヴィルだった。
ヴィルは以前来たときとは違った服装をしていて、今日はかなりきっちりとした着こなしだった。
まるで貴族が着るような、豪奢な衣装に身を包んでいる。
そして、ヴィルの後ろには二人の従者がいた。
一人は赤髪の女性で、もう一人は体の大きな男性だ。
「ヴィル……」
「やぁ、サクラ。恩返しにやってきたよ。とはいっても、大したことはできないけどね……」
「そちらの方々は……?」
「ああ、彼らは僕の護衛だよ。この前は護衛もつけずに一人で森に入って、あんな目にあったからね。さすがに学んだんだよ。それに、彼らにもすごく怒られた」
すると、後ろにいた二人が、頭を下げて私に挨拶してくれた。
「あなたがサクラ様ですね。話はヴィル様からきいています。ヴィル様のお命を救っていただいたと……。本来であれば護衛である私たちの仕事であるのに……。サクラ様には頭があがりません」
赤髪の女性が深々と頭を下げる。
「いえいえ、これは……ご丁寧に……」
「申し遅れました。私はヴィル様のもとで従者をしております、アカネと申します。そしてこちらの不愛想な男が、グリム」
アカネに紹介されたグリムは、無言で頭を下げた。
「まあ、立ち話もなんですし、入って入って」
私は三人を家に招きいれた。
うちの家具は、テーブルが一個に椅子が2個しかない。
みんなで座れるように、テーブルと椅子を追加しよう。
私はすぐにクラフトで、テーブル一個と椅子3個を追加した。
私が無言でクラフトして、椅子を生み出したものだから、その様子にアカネとグリムが驚いていた。
「これは……これが噂にきいていたサクラ様の不思議な力……。これは素晴らしいですね……。驚きです」
「はは、まあ、座ってくださいよ」
とりあえずみんなに座ってもらって、飲み物を出す。
ヴィルが向かいに座っているノルンちゃんの顔を見て、軽く会釈する。
「えーっと、こちらは……。紹介してくれるかな、サクラ」
「あ、うん。ごめん、ちょうど来客中だったんだ。こちらはお友達のノルンちゃん。街で商人をやってるんだ。ノルンちゃん、こっちは友達のヴィルだよ」
「ど、どうもです……」
ノルンちゃんはまるで借りてきた猫のようにおとなしくなっている。
いつものノルンちゃんなら、もっと気さくな感じなのにな。
「ノルンさんだね。よろしく。そう緊張しないで、もっと楽にしてくれていいよ」
ヴィルもノルンちゃんに気を使って、そう促す。
「で、でも……私そんな、貴族様とお話なんて、緊張してしまいます……」
ノルンちゃんはそんなことを言って委縮する。
って、貴族……?
「え……? 今貴族って言った? ヴィルって貴族なの……!?」
「ですです。ヴィル様といえば、街で有名な公爵様です」
「そうだったんだ……!? どうりで貴族みたいな恰好してると思ったよ……。なんだか、貴族だと思うと、私も身構えちゃうな……。敬語とか使ったほうがいい?」
ヴィルって、いいとこのお坊ちゃんだったんだな……。
そりゃあ、こんな立派な従者二人も従えてるんだもんな。
しかも、服装もかなり高価な装飾がしてある。
ていうか、貴族の坊ちゃんが森の中一人でうろつくなよ……って思う。
もしかしてヴィルってかなりやんちゃなお坊ちゃん?
「いやいや、今更やめてくれよ。僕たちは友達じゃないか。堅苦しいのはやめよう。それに、僕なんかただの田舎貴族の息子ってだけだよ」
「そうだよね……。ヴィルはヴィルだもんね」
「うん、ノルンちゃんも、僕には気楽に接してくれ」
そのあとは、とりあえずみんなで食事をすることにした。
ここまで歩いてきたから、従者の二人もお腹が空いているだろうし。
食事をしながら、いろいろ雑談に花を咲かせる。
アカネから、いろいろ普段のヴィルのことをきいた。
「ヴィル様のやんちゃっぷりには、私どもも手を焼いているんですよ。いつも目を離すと一人でどこかにふらっといってしまって……」
「いいだろ、別に。やめてくれよ、恥ずかしい……」
なんだか想像がつく。
ヴィルのお世話は大変だろうな……。
「あはは、仲いいんですね、二人」
「ええ、まあ。ヴィル様とは幼少のころから一緒で、幼馴染のようなものなのです。もちろんグリムも」
「えーじゃあ、子供のころのヴィルの話とかきかせてくださいよ」
「いいですよ!」
グリムは寡黙で不愛想だったが、アカネとはすぐに打ち解けた。
ノルンちゃんもすぐに緊張がほぐれて、みんなで仲良く談笑した。
なんだかうちにこんなに大勢の人がいるのって、変な感じ。
たまにはこういうにぎやかなのも、いいよね。
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