第40話 明日、二度目の現場検証へ

第40話 明日、二度目の現場検証へ


「一応、竜野信也作品絡みの、委員達の指摘意見がどんなものだったか、関係者からは裏を取っておいてくれ」

 富里は、小湊にそう指示した。


「わかりました」小湊は冷淡に即答した。

 次いで小湊は、にやりと笑ってから「あと一つ」と富里に呼び掛けた。

「この最後の議事録で、投票結果が第二位になった『銃声と流星』の上杉直哉はどうしますか?」


 小湊の意図を受け止めて、富里は答える。

「この捜査員体制では、薄い線は省くしかないだろうな」


「では、彼の事情聴取については省かせてもらいます」

 小湊は事務的な感じで、そう答えた。


「亀さんはどう思う?」富里は一応、亀山の考えを訊いてみた。


「見込みで事情聴取を省くなどと云うのは、私の流儀ではありませんな」亀山は不快そうに答えた。


 富里は、亀山に頭を下げてみせる。

「訊いた俺が悪かった。まあとにかく彼は省いておいてくれ」

 富里は、小湊をもう一度振り返り、そう言った。


 富里はその場に立ち上がり、四名の刑事達をゆっくりと見回して行った。そして漸く口を開く。

「明日以降の捜査だが…… 先ず明日の午前は、全員で現場検証をもう一度やろうと思うが、コミさんはどうする?」


 小湊に異論は無く、即座に同意する。

「私も亀さんから、現場検証の勉強をしたいですね」

 それは冗談ではなさそうだ。小湊は、つまらなそうにそう言ったのだ。


 亀山は小湊の腕を軽く叩いた。

「コミさん、勘弁してくれよ」


「いやいや本心ですから」いよいよ冷淡に小湊が言う。


「ふふん」亀山は満足そうに鼻を鳴らした。


「午後からの捜査は、亀さんとコミさんで打ち合わせして、適当に分担してくれ」

 二人の様子をおもしろそうに眺めていた富里は、名刑事達に任せるようにそう指示した。


 亀山と小湊は即座に、はいと返事した。

 三人は立ち話する様に、一箇所に集まっていた。


 続けて富里は指示を与える。

「今の所、竜野信也については、候補作品に関する、町村博信の関与がどの程度だったかを重視してくれ。

 それに、例の休暇中の足取り調査と、竜野の知られざる交友関係についても頼む。

 かみさんの広美については、特に問題無しで良いか?」

 矢継ぎ早の指示の後で、富里は亀山にそう訊いた。


 亀山は静かに答える。

「竜野広美の事件への関与は、今の所、殆ど考えられません。生命保険も人並み程度の加入状況です」


「もう調べたのか?」びっくりした様に、富里が確認する。


「高滝君が主要な保険会社に確認済です。引き受け限度額などがあって、加入保険データを交換する仕組みがあるようですな」

 亀山は振り返って、高滝の肩をさすった。


 高滝は敬礼して付け加えた。

「貝原洋の方は、生命保険には一切加入していませんでした」


 富里が、これからもその調子で頼むよと言って、高滝の肩を叩いた。


 富里は、小湊と亀山の目をじっと見て、一言漏らした。

「保険金は無くとも、貝原が死んで喜びそうな者は幾らでも居そうだな」


「ですな」小湊が、極端に略した言葉で答えた。


「コミさん、黒木アユの方も早目に情報を集めてくれよ」


 富里が黒木のことに触れると、小湊は仮面の様な顔になった。


 小湊は「なるべく早い時期に事情聴取します」と答えたが、その前に「シャッター」の担当記者にだけは、是非会っておきたいと考えていた。


 富里は、再び亀山に顔を向けた。

「現場検証で何か新しいことがわかるといいが……期待してるぞ、亀さん」

 富里は肘を軽く突き出して、亀山の肘に当てた。


「現場のサインを見落とさないよう、目を凝らし、耳を傾けてみますよ」

 亀山は、目に手をかざし、耳にはお椀型にした手を当てて、そう答えた。


「明日が楽しみだな」富里はにやりと笑った。


「良い勉強ですな」小湊は、表情の無い顔で答えた。

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