第2話 二人の大守

「おっようやく来たな!!」


「ふっ待ちくたびれたぞ」


扉を開けると部屋の中からブワッとお酒の匂いが溢れ出す。


…この人達は昼間っから…


劉良は、呆れながら二人に挨拶をする。


「張純大守、そして張挙大守に拝謁いたします。」


「おう、さぁ入れ入れ」


「…はぁ…わかりました」


劉良は、部屋に入り

荒々しさが印象の張純大守と

少し知的な印象の張挙大守を

無視して窓を開け外の空気を入れる。


「おい寒いじゃないか」


「ふっしかし外の庭を肴にするのも一興だぞ」


「おっ?確かにガハハ」


まったくこの酔っぱらいどもが


「それでお二人は、何しにここに?

 …まさかお酒をたかりに来たとでも?」


そう言って劉良は、怒る。


張純と張挙…この二人は、劉虞刺史が用意した自分の後見人で

幽州の西側を中心に勢力を持っている

穏健派と呼ばれる派閥の人間だ。


当初聞いた時は、

穏健派から紹介されるとは思っていたが

名前を聞いた瞬間大変驚き困惑した。


何故ならこの二人は、

首謀者として数年後に

漢に対して反乱を起こし

討伐されるもの達だったからだ。


当然今の時期は、

反乱をしているわけではない為

大丈夫だと思うが

やはり何とも言えない不安な気持ちになる。


まぁ出会った後も

この様に酒をたかりにくるので

別の意味で不安だが…


「おお怖ッそんな怒んなって、

 今回は、ちゃんと用事があんだよ」


「ふっそうなのだ

 まぁ座れ、色々話したい事があるのだ」


「はぁ…そうなんですか」


酒を飲みながら言われても説得力がないと

思いながら劉良は座る。


「それで用件を…と言う前に

 張挙様、この度は泰山大守へのご就任おめでとうございます」


先日、張挙様は

兗州の一郡、泰山の大守に推挙され

そのお祝いに劉良は、贈り物を贈っており

直接会った為改めてお祝いの言葉を伝える。


「うむ、こちらこそ先日の就任の贈り物

 とても嬉しかったぞ」


そんなお礼を言った張挙だったがどこか浮かない顔をしていた。


「しかしすまぬな…」


「お気になさらず、張挙様の泰山大守への抜擢

 とても喜ばしい事ではないですか」


普通大守と言うものは、

その地元の有力者か中央からの

派遣が多いのだが

わざわざ幽州から抜擢されるとは、

張挙様は、とても中央から期待されて

将来が明るい事がわかる。


そんな人が後見人と言うだけで

自分は、とても心強い…

…いや…数年後には、

この人達は反逆者になるのでまずいな


「…うむしかし…正直言って

 私は泰山大守になりたくなかったのだよ」


そう言って張挙様は、項垂れた。

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