第1話 劉良とお客様

「うーん」


トットッと机を叩きながら

劉良は、木簡を見て唸っていた。


「最近食料品の値上げが凄いな

 幽州は、安定してるし

 不作というわけでもないのに」


荘園に来て一年、

師匠達も涼州に帰り後任も決まっておらず

比較的時間に余裕ができた為

現在劉良は、母が行っている荘園の管理を

手伝っている。


「うーんここにいても分からないか

 春蘭に聞いてみよう」


劉良は、そう思い立ち資料を持って

部屋を出る。


何故母上の侍女である春蘭に聞きにいくのか

それは、この荘園に引っ越して

来てから知ったのだが

春蘭は、侍女の傍ら

我が家の密偵の頭をしているらしい。


劉良は、その事に驚き詳しく聞いてみると

どうやら春蘭の母親が頭だったのを

三年前に引き継いだらしい。


ちなみに母親も現在で今は、

隠居状態で国中を旅しているらしい。


「…ほんと困った母親ですよね」


「ッ!?しっ…春蘭!?」


いつの間にか隣に立っていた春蘭に驚く。


「はい春蘭です

 私をお探しの様でしたけど

 どうかなさりましたか?」


「あのさ前から言ってるけど

 突然現れるのやめてくれない?」


ここ最近、春蘭は気配を消して

自分を驚かせるのにハマっている。


「これも鍛錬ですよ若様」

 

「何の鍛錬だよ…」


「あら、もし私が暗殺者なら

 この様に…ね?」


春蘭が手を劉良の体に当てる。


「うっ…わかった」


「ふふ、若様のそう言う素直な所

 好きですよ」


春蘭の言葉に照れて顔を背ける。


「そっそれより聞きたい事があるんだ」


劉良は、聞きたかった食料品の高騰の話を伝える。


春蘭は、話を聞いて俯いて少し考えた後

顔を上げる。


「若様、少し調べる時間を頂いて

 よろしいでしょうか?

 今日中には、まとめた物をお渡しします」


「うんわかった」


春蘭は、それではと頭を下げて歩いて行った。


しかし、今日中に調べきれるのか?

…凄いな、前世の州に支えていた

優秀な部下でもそんなに早くは…


「若様」


「ん?どうしたの?」


振り向くとどこか急いだ様子の使用人が立っていた。


「若様にお客様が参られてます」


「わかった、誰かな?」


「中山大守、張純きょうじゅん様と

 泰山大守、張挙 《ちょうきょう》様です」


その名前を聞いて劉良は、深いため息をついた。

 

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