第3話 なすりつけ

「劉良よ、今の兗州は魔境ぞ」


「魔境ですか?」


大守になりたくなかったと言う張挙の言葉に驚いていた劉良だが続いて出た言葉で余計に分からなくなった。


「ああ、あそこは、権力と利権が絡み合う

 辺境とは違う別の戦場だ」


苦々しく張挙が言う。


「理解できてなさそうだな」


「うーん、洛陽みたいな所って事ですか?」


漢の首都である洛陽を悪く言いたくはないが

洛陽は、宦官派と名家派が謀略と賄賂で

日々、権力闘争している伏魔殿で

前世の記憶を持っている自分でも

正直足を踏み入れたくない場所だ。


「…いや、数年前に洛陽にいたが

 洛陽は、派閥同士が牽制し合って

 逆に平穏だ…まぁ皇帝陛下の目もあるし

 平穏と言っても腐りきってるが」


隣で聞いている張純もうんうんと頷いている。


「逆に兗州は、洛陽に近いが皇帝の目もないし栄えており数年前に有力者達が失脚した為

 今は、宦官派と名家派に別れて

 草刈場とかしているんだ

 そんな所に好き好んで行きたいと思うか?」


張挙に問われて首を横に張る。


「だけど何故そんな場所の大守に

 張挙様が選ばれたのですか?」


「それはな……やり過ぎたんだよ」


「やり過ぎた?」


「ああ、宦官派と名家派

 どちらも自らの富と権力の為に

 民を蔑ろにし過ぎたのだ

 今や兗州はいつ反乱が

 起きてもおかしくはない場所に

 なっている」


「…そして、そんな状況になった兗州を

 両派閥共、自分達に火の粉がかからない様に離れて遠巻きに見ている状況だ

 …クソどもが」

 

張純が酒を飲みながら忌々しく呟く。


宦官派も名家派も関わりたくない場所

そこの一郡の大守に選ばれた張挙様…


劉良の頭に嫌な想像が浮かび上がる。


「…ふっ、今劉良が考えてる事が正解だ

 私は、人身御供として選ばれたのだよ」


張挙様が泰山大守に赴任し

統治に成功すればそれでよし

もし失敗して反乱が起きても

張挙様に責任を負わせて

両派閥は知らん顔すると言う事か…


「…許せないですね」


劉良は、統治の大変さをわかっているから

それを蔑ろにして他になすりつけるなど許せなかった。


「断る事は出来なかったのでしょうか?」


「正式な命令だから出来ないし

 出来たとしても断るつもりもない

 …嫌だがな」


「…何故?」


「何故か…俺はな劉良…

 民を見捨てられないし

 …これでも漢の忠臣だからな!!」


張挙は、そう言ってニヤリと笑う。

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