第40話 可愛い彼女がとある検定一級の合格を目指しているそうですが…受験生は彼女しかいなさそうです

 翌日。学校に早めに登校した俺は教室には向かわずに、四階のエレベーターホールに向かっていた。


 理由は簡単だ。

 飛鳥から『話があるから四階に集合!!』と連絡が来たからだ。


 四階はほとんどが移動教室の時にしか使わないので、隠れて話す(朝限定)には完璧な場所だった。


 そして四階のエレベーターホールに着くと、飛鳥の後ろ姿が見えたので声を掛けた。


「お待たせ。それで何があったの?」


 普通なら人が少ないところに呼ぶとなれば告白と考える人がいるかもしれないが、昨日の今日なのでそんな考えは一つもなかった。


 飛鳥は踵を返して振り向くと、その手には白い封筒を持っていた。


「今朝、私の下駄箱にこちらが入っていました」


 そう言いながら、飛鳥は封筒を渡してきた。


「こ…これは!?」


 受け取った封筒を開けて中身を確認すると、舞台鑑賞の帰りに寄ったショッピングモールの時の写真が複数枚入っていた。


「完全なる盗撮だろ…」


 もし写真に写っているのが芸能人だったら、確実に週刊誌は食い付くだろう。それだけ撮影の撮り方が上手いと思ってしまった。


「そしてスクープ写真の撮り方ですよね」

「全く同じことを思っていたよ。これが教室の黒板とかに貼られていなくて良かったよ」

「確かに噂を否定したのに証拠写真があったら弁解の余地がありませんしね」

「そうなんだけどーーーって、どうして少しニヤけ顔になっている訳?!」


 明らかに写真を見ながら、飛鳥の口元が緩んでいるように見えた。


「そ…それは…くん…が…です」

「よく聞こえなかったんだけど?」

「その…写真に写っていて風磨くんがとても格好良く見えたので…」

「そ、そうか」


 昔から俺は写真写りが良いと言われていた。

 そのおかげで飛鳥に褒められたのは嬉しい…が、撮った人が俺たちの敵なのが癪だ。


「ただ、それを撮影したのが盗撮犯で、俺たちと敵対していること忘れるなよ」

「忘れていませんよ! だからこそ、この写真を撮った敵は許しません!!」

「怒るポイントを間違っていませんか? 俺たちが怒っていたのは噂のはずでは?」

「それを含めて敵は絶対に許しません!!」


 飛鳥はガッツポーズをして高らかに宣言をした。


 そして「よし」と一言いうと、飛鳥は俺の方に視線を戻して呟く。


「それで話を戻しますけど、写真の他にもこんな手紙が一枚入っていました」


 飛鳥から一枚の紙を受け取る。


 そして読む前に一つだけ気になったことを、飛鳥に聞くことにした。


「この手紙も封筒の中に入っていたんだよな?」

「入っていましたよ」

「それなのにどうして封筒の中ではなく、飛鳥からの手渡になる訳?」

「それは私が封筒の中から抜いたからです。最初に見てもらいたかったのが写真の方だったので」

「な、なるほど」


(そのままでも良かった気がするのだけど…)


 そんなことを思いながら、俺は手紙の中身を確認することにした。

 

 手紙を開くとーーー。


『今日の放課後、二階にある使われていない教室に来てください。噂を流した真相を話します』


 これは…何というか…怪し過ぎるだろ。

 

 そもそも『噂を流した真相を話します』って、真相を話すなら噂を流す必要はないだろ。

 それに特定の教室に対しての呼び出し。教室という密室に呼び出す時点でもう駄目だろ。


「何というか…信用出来ない手紙だな」

「私も同じ意見です。ですが、この呼び出しに私は応じるつもりです」

「こんな危険な呼び出しに行かない方がいいだろ。絶対によからぬことが起きる気がする」


 その呼び出しが本当に飛鳥が振った相手なら、尚更警戒しないといけない。


「では、風磨くんが教室の外で待機しててください。それなら私も安心しますし、風磨くんもすぐに助けに来れますよね?」

「なかなか凄いことを考えるね…。だけど相手が後から来た場合は俺が見つかるぞ?」

「その辺は安心してください。手紙の主は必ず先に来ていると思いますので」


 自信満々に言う飛鳥。


「分かった。飛鳥の言葉を信じるよ」

「随分と素直に話を聞いてくれますね? いつもなら『その根拠は?』や『だけど』とか言いますのに」

「段々、俺のことを分かって来ているな…」

「風磨くん検定一級合格を目指していますからね!」

「勝手に変な検定を作らないでくれ…」


 しかも受験生は飛鳥しかいなさそうだし。


「それで素直に話を聞く理由だっけ?」

「はい」

「それは飛鳥の勘が当たると分かったから、かな。昨日の今日で実感させられたしね」


 これが無かったら俺はぐだぐだ言っていた。


「その信頼を裏切らない為にも、是非とも敵には先に来てもらわないと!」

「それだと勘とかの話ではなくなるのだけど…」

「そうですね」


 飛鳥は頬を掻きながら苦笑した。


 ーーーキーン コーン カーン コーン


 そして予鈴を知らせる一回目のチャイムが鳴る。


「もう予鈴チャイムの時間か」

「そろそろ教室に戻らないといけませんね」

「俺はギリギリに行くから、先に飛鳥が教室に向かうといいよ」


 ここで一緒に教室に入ったら、噂の信憑性が高まってしまう。火に油を注ぐように。


「分かりました。それでは先に行ってますね」


 そして飛鳥は教室に向けて歩き出し、姿が見えなくなりそうな所で足を止めて踵を返した。


「風磨くん。作戦を忘れないでくださいよ!」


 それだけ言い残して、飛鳥は教室へと向かった。


(忘れる訳ないだろ。飛鳥には絶対に危険な目に遭わせないんだから)


 それから五分後。俺も教室へと向かった。


 

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