第38話 舞台鑑賞②
劇場内に入ると天井は高く開放感があり、余分なものがなくシンプルな雰囲気になっていた。
客席に視線を向ければ、大劇場に比べて客席数は少なかった。二百席まではいかないかな…。
(それで席はどこになるんだろう?)
チケットには座席番号が書いてなく、客席にも番号はない。まさに右往左往状態だ。
そんな状態でいると踵を返した飛鳥が呟く。
「風磨くんは前列と後列どちらがいいですか?」
「好きな場所を選んでいいってこと?」
「そうです!劇場によりますが、ここは自由席になりますので席は早いもの勝ちになります」
イベント系は座席が決まっているから、自由席があるのは不思議な感覚だな。
そんなことより早いもの勝ちなら早く席を決めないと駄目だな。客席に目を向ければ、数席が既にお客さんに座られている。
(やっぱり舞台を見るなら前列の方がいいよな。演者さんの表情も分かりやすいし迫力もあるから)
飛鳥に視線を戻して口を開く。
「前列にしようか」
「分かりました。では、あの席はいかがですか?」
飛鳥が示したのはちょうど舞台の中央に位置する座席。その席の前まで行くと舞台セットが近く、そして舞台全体を見渡すことが出来た。
「この席で問題ないよ」
「では座りましょうか」
俺たちは座席へと座る。
そして座席に置いてあった紙に視線を向ける。
「この紙に書いてあるのは」
「本日見る舞台のストーリーと出演者、そしてスタッフですね」
「これだけの人が関わっているんだね」
「これでも少ない方ですよ。大劇場になりますとスタッフの数も倍になりますし」
「そんなに増えるの?!」
日常では知ることはなかったことを聞くと、いろいろと驚くことがあるな。
「それだけ沢山の人が制作などに関わっていると言うことですよ」
「なるほど…。飛鳥先生の話で少しだけ舞台のことが分かった気がするよ」
「あ…飛鳥先生って、急に変なことを言わないでください。びっくりするじゃないですか」
少し顔を赤くしながら言う飛鳥。
このことから先生と呼ばれることは、それほど嫌ではないと言うことだ。またチャンスが出来たら呼んであげようかな…。
そんなことを考えていると、開演を合図するブザーが館内に響く。
『本日は御来場いただきありがとうございます』
影アナによる観劇の時の注意事項や客席内での禁止事項が流れ。
「それでは開演まで今しばらくお待ちくださいませ」
最後の挨拶から数秒後には全ての照明が消え、舞台上のステージだけに照明が照らされた。
◯
約一時間四十分の上演が終わった。
初めての舞台鑑賞に少しだけ不安があったけど、それらを忘れてしまう程のめり込んでしまった。
「やはり舞台は良いものですね。風磨くんは楽しめましたか?」
「凄い楽しかったよ。他の舞台も見てみたいと思ったね」
舞台鑑賞がこんなにも楽しいなら、漫画や小説が原作の舞台も見てみたいと思った。
だけど実写化になると当たり外れがあるから、同じ気持ちになるかはーーーその舞台次第だな。
「では一緒にまた見に行きましょうね!」
「当日発表のサプライズだけはやめてね」
「それは残念です、ね」
飛鳥は「ふふふ」と笑みを溢す。
すると劇場内にアナウンスが流れる。
『ただいまを持ちまして終演いたします。お帰りの際はお忘れ物、落とし物がないように、今一度お手回品をご確認ください。本日は御来場誠にありがとうございました』
アナウンス後、スタッフによる誘導が始まった。
「前列の方から順番にお帰りください」
前列。つまり俺たちが座っている席から外に出る準備を始めるということだ。
「それじゃあ、外に出るか」
「ご迷惑お掛けする訳にはいけませんしね」
荷物を持ち、席から立ち上がり出口へと向かうと、山神さんが出口の端に立っていた。
山神さんもこちらに気付いたので、俺たちは合流する為に端の方に移動した。
「二人とも演劇はどうだったかな?」
まずは飛鳥から呟く。
「私自身、久しぶりの舞台だったのでとても楽しかったです」
「飛鳥ちゃんのお墨付きなら舞台は大成功だね」
「そんなお墨付きが無くたって、山神さんが演出に関わっているんですから大成功ですよ」
「ありがとうね」
山神さんは飛鳥に優しく微笑むと、次は俺の方に視線を向けてきた。
「風磨くんはどうだったかな?」
「全てが新鮮でとても楽しく観劇出来ました」
「風磨くんにも楽しんで貰えたのなら誘った甲斐があったよ」
「こちらこそ誘って頂きありがとうございます」
改めて、お礼を伝えて一礼する。
「また僕が関わっている舞台があったら、二人を招待するから楽しみにしていてね」
「「ありがとうございます」」
「それでこの後の予定は決まっているのかい?」
「何も予定を決めていなかったね。どうする?」
飛鳥に視線を向けて聞く。
「どうしましょうか。どこかに寄ってから帰宅してもいいですけど…」
すると山神さんが「それなら」と言い、言葉を続けた。
「ここから少し歩くけど世界一高い電波塔を見ながら、直結しているショッピングモールで買い物に行くのはどうかな?」
「賛成です! 山神さんの案で行きましょう!」
「飛鳥がいいなら俺は反対はしないよ」
「どうやら決まったみたいだね」
俺と飛鳥は揃ってコクリと頷く。
「それでは私たちはこれで失礼します」
「今日はありがとうございました」
そして俺たちは山神さんに一礼して劇場を出た。
それから俺たちは世界一高い電波塔を下から眺めた後、その下にあるショッピングモールでぶらぶらと回りながら買い物をして家へと帰宅した。
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