第36話 体力テスト②
長座体前屈のエリアに移動した。
ここも少しだけ順番待ちをすることになったので、先にやっている人のを見ることにした。
測定器の段ボールは二つあり、奥の方では女子が手前は男子が測定していた。
(男女で差は出るもんだな)
奥の方の女子はかなり体が柔らかいらしく段ボールがスーッと前に進んでいくのに対して、手前の男子は体が固いのか段ボールの進みが悪い。
(そうそう、最後に悪足掻きとして指先に力を込めるんだよね)
男子の行動に納得しながら見ていると、横にいた西城が「ふむふむ」と呟く。
「あの子は体が柔らかくて顔もかなり可愛い…彼女候補に認定だな」
「………変態西城」
俺は西城に聞こえるように呟いた。
「おいおい、俺が変態とは心外だな」
「なら、さっきの発言はどうなるんだよ」
「普通の願望だろ」
それが駄目なんだよな…。
「もし願望だとしても口に出すのは気を付けろよ。それを聞いた女子たちが噂するかもしれないし」
「それな。女子の噂は広がるのが早いからな」
「まるで実体験みたいな話だな」
「似たような話を友達の友達に聞いたんだよ」
つまり西城自身の話ということか。
アニメや漫画で『友達の友達の話』と言った場合は、大体は自分の話になる。だからこそ、この結論は合っているはずだ。
「なんか勘違いしているだろ?」
西城の肩に手を置き、そして優しい笑みで呟く。
「大丈夫だ。友達の友達の話なんだろ」
「やっぱり何か勘違いしているだろ。 本当に友達の友達の話だからな」
肩をトントンと叩きながら頷き、そして呟く。
「安心しろ。俺は分かっているから」
「絶対に信用出来ない顔をしているんだよ。それで納得しろという方が難しいだろ」
そこは反論とかしないで頷いていればいいのにと思っていたらーーー。
「お待たせしました。次、どうぞ」
奥の方で計測していた女子に声を掛けられた。
(タイミング完璧だよ)
女子に視線を合わせ、笑みを浮かべながら言う。
「ありがとうございます」
そして俺は「行くぞ」と西城に声を掛けて、女子たちが使っていた段ボールの場所に向かった。
段ボールの場所に着き、相談せずに先に座っていると、西城がジト目を向けてきた。
「問答無用で先行を取ったな」
「どうせ先にやろうと思っていなかっただろ?」
「まあどっちでもいいけど」
「それじゃあ、物差しのセットをお願い」
「分かった」
西城は段ボールに物差しをセットし、その物差しを動かないように押さえる。
それを確認した俺は前屈をしながら、段ボールを前に押していく。
(ここまでが限界…か。それなら最後に一押しだ)
先程の男子と同じように指先に力を込め、そしてギリギリまで段ボールを押した。
「はぁ…はぁ…ここが限界だ」
「少し反則に見えるところがあったけど、俺は心が広いから大目に見てあげよう」
「それはどうも」
素直に感謝を伝える。
「それで何センチだった?」
「ちょっと待ってろ」
西城は物差しを確認する。
これはかなり進んでいるように見えるし、出来れば五十センチは超えてて欲しいな。
「計測結果は…四十八センチだ」
「微妙すぎるだろ。何で惜しい数値ばかりなんだ」
「折角、俺が大目に見てあげたのにな」
「自信があったから、かなりへこむわー」
俺は背中にあった壁にもたれる。
「まあ…そーゆう時もあるさ。とりあえず、次は俺の番だから移動してくれ」
「あっ、そうだな」
その場から俺は立ち上がり横に移動すると、交代で西城が計測場所に座った。
「それじゃあ、計測係よろしくな」
「任せろ」
俺は物差しを段ボールに設置し、西城に「いいよ」と声を掛けた。
「行くぞ」
その掛け声と共に西城は一気に前屈をする。
段ボールは一気に前に進んでいきーーーそして勢いが止まった。
「どうだ?」
「いま見るから待って」
俺は物差しに視線を移し確認をする。
ここが十センチ、ここで二十センチだから…。
「四十九センチだな」
「あれ…もう少し行けたと思ったんだけどな」
「残念だったな。だけど運動神経いい人が体が固いことには俺は安心したよ」
「まあ、何と言うかアレだな。俺は万能型ではないと言うことだ」
「その一言でまとめていいのかな…」
「いいんだよ。ほら、待機列が出来ているから移動するぞ」
それを聞き後ろを振り向けば、確かに数組が並んでいる。そして視線を戻せば、西城は次の場所へと歩き出していた。
(ここで置いていくのかよ)
そう思いながら、俺は後ろを追いかけた。
◯
(風磨くん頑張っているな)
私は自分のペアの計測をしながら、風磨くんのことをチラチラと見ていた。
決して深い意味はないのだけど、どんな感じなのか気になったからだ。
ちなみに私はここまでで三つ終わらせている。
どれも平均くらいの数値を取れたと思うけど、結果が来るまでは分からない。
「霧宮さん。計測お願い」
「分かりました」
私たちがいまやっているのは長座体前屈。
風磨くんたちの二組後ろに並んでいました。
私は物差しで動いた距離を測る。
「四十ニセンチですね」
「あちゃ〜、少し体が固くなったかもしれないな」
「そうなのですか?」
「中学時代の時はもう少し行ってたからね。それじゃあ、次は霧宮さんの番ね」
「お願いします」
私はペアの方に笑みを浮かべ、ペアの方と場所を交代した。
「う〜ん!!!!」
私は目一杯に前屈をし、段ボールを前に押す。
「ここが限界です」
「お疲れ様!いま、調べるから待っててね」
「分かりました」
その間にもう一度風磨くんの方に視線を向ける。
(ふふふ。反復横跳びがぎこちないですね)
風磨くんたちは反復横跳びのエリアにいた。
そして反復横跳びをしていたのですが、ぎこちない動きに少し微笑ましくなった。
(それに少し可愛い)
そんなことを思っていると、ペアの人から声を掛けられる。
「霧宮さんの計測結果は五十三センチだったよ。霧宮さん体柔らかいんだね〜」
「柔軟体操を日常的にしているおかげかもしれませんね」
「そうだよね〜 柔軟体操をしないと体も固くなるよね。私も久しぶりに始めようかな」
私はガッツポーズをして呟く。
「目指せあの頃の自分ですね!」
「あはは。 霧宮さんの言う通り、目指せあの頃の自分だね!」
「一緒に頑張っていきましょう!」
「だね! よし、この調子で残り二つも一気にやるぞー!!」
こうして私たちも反復横跳びのエリアに向かったのですが、既に風磨くんたちは終わった後でした。
(また入れ違いになってしまいました)
◯
反復横跳びを終えた俺たちは最後のエリアとなるシャトルランに来ていた。
その道中、霧宮さんの方に視線を向けるとペアの人と楽しそうに話しているのが見えた。
(盛り上がっているな)
微笑ましい光景を眺めていると、西城が声を掛けてきた。
「先行後行どっちがいい?」
「早く終わらせたいから先行かな。本音を言えば、やりたくないから後攻」
「結局、やることには変わりないじゃん。例えるなら、嫌いな食べ物を最後まで皿の隅に置いて食べないのと同じことだな」
「そうだな」
だけどな、その行為は好きな食べ物でもやる場合があるから参考にはならないぞ。
でも早く終わらせたいから先行にするか。
「なら、先行にするわ」
「柳木は嫌いな食べ物を先に食べる派だったのか」
「その例えはもうやらなくていい」
西城に記録用紙を渡して、俺はシャトルランのスタートラインに立つ。
「よーし、人数揃ったから始めるぞ」
先生は近くにあったCDラジカセのボタンを押すと、CDラジカセから音が聞こえてきた。
最初は説明から始まる。
『それではテストスタートです』
その合図でラジカセから音楽が流れる。
最初はゆっくりとした音程なので、余裕を持って反対側のラインに到着した。数秒したらまた音楽が始まり、スタートラインへと戻る。それを数十回繰り返していくと、段々とリズムが早くなってきた。
(少しペースを上げないと危なくなってきたな)
段々とリズムが早くなった影響でラインを踏むタイミングがギリギリになってくる。しかも、すぐにリズが始まるから息を整える時間もない。
そんなことを続けていればーーー。
(もう…だめだ)
体力も無くなっていき、ラインを踏むタイミングが間に合わなくなる。
「終わったわ」
「お疲れ」
すぐに計測エリアから離れて西城の元に向かった。そして一言いうと、爽やか笑顔で返答された。
「あれだけ嫌だって言っていたのに六十四回も走ったんだから、柳木はよく頑張った」
「なら…西城の計測は見ないで寝てていいか?」
「それは困るから回数だけでも聞いててくれ」
西城は苦笑しながら言う。
「回数を聞いていればいいのか」
「出来れば俺の走っている姿も見てほしいわ」
「………仕方がないな」
「頼んだぞ」
西城から記録用紙を受け取り、西城はスタートラインへと向かった。
壁際に移動した俺は壁にもたれながら、西城の走っている姿を見ることにした。
俺の時と同じで説明から始まり、少ししたらスタートの合図がラジカセから流れた。
最初はゆっくりなので余裕で反対側に着き、余裕を持ってスタートラインへと戻ってくる。
五十回を超えたあたりから段々と脱落者が出てくる中、西城はまだ余裕で走っている。
(まだまだ余裕そうだな)
回数は遂に七十回を超えた。
残っているメンバーは五人となった。
その中に西城は残っている。
(ほんと体力お化けかよ(n回目))
そして回数が百回を超えたあたりで西城が俺に視線を向けて微笑してきたと思ったら、段々とスピードを減速させていき計測エリアから離脱した。
「いや〜 もう限界だわ」
「嘘つけ。俺に笑顔を向ける余裕があるんだから、体力と全然余裕あるだろ」
西城は周囲を気にすると小声で話してくる。
「(確かに体力的には余裕はあるけど、ぶっちゃけ百回超えたからもういいやと思ったんだよな)」
「最後まで残っていたら女子から黄色い声援を貰えたかもしれないのにな…」
俺がボソッと呟くと、西城は再び周囲に視線を巡らした。
「確かにその可能性はあったかもな。まあ過ぎたことだし、もういいや」
「本音は?」
「少し勿体無いことをしたかもと思っている」
本当に悔しそうな顔をする西城。
(顔に出ているぞ〜)
内心でそんなことを言いながら、体育館の端に貼られている紙を見に行くことになった。
そこには体育の授業で計測した記録が書いてあり、その紙を見ながら空白だった種目の記録を埋め、俺たちのスポーツテストは終わった。
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