第35話 体力テスト①
体力テスト。別名スポーツテスト。
国民の運動能力を調査する為に行うテストなのだが、俺はこの体力テストが嫌いだ。
中学時代も同じ体力テストを受けたが、総合結果は一番下のEだった。それから一年しか経っていないのに、全てが向上している訳がない。
そして俺の目の前にも同じ気持ちの人がいる。
「どうして体力テストなんてものがあるんだよ…」
西城は壁に手を当てながら呟いている。
「国が決めたことだから仕方がないだろ。それよりも中学時代の体力テストの評価は何だった?」
西城とは高校からの仲だ。
だから中学時代の西城のことは何も知らない。
少し溜めてから西城は呟く。
「………A」
「…………おい、A評価の人がやりたくないとか言ってるんじゃねーよ!」
まさか西城の評価が一番上のAだったことには驚きだな。ただの単純な男ではなかったのか。
思い返してみれば、体育の授業の時に運動神経良さそうなことは何回かあったな。
(体育の授業の時は目立ってたしな)
男でスポーツ万能なのにモテ期が来ないのは、普段の言動が原因になるんだろう。
「毎年同じことの繰り返しだとやる気がなくなるんだから仕方がないだろ」
「そんなことを言いながら、今回の体力テストの評価はどれを狙っている?」
「A」
「うん。これからお前は駄々を捏ねること禁止な」
「そんな…」
西城は膝から崩れて落ちた。
それと同時に体育教師の声が、体育館の入り口から聞こえてきた。
「よーし、体力テストをやるからこっちに集合だ」
その掛け声を聞き、俺たちは先生の元へと駆け寄る。すぐに西城も立ち上がり集合した。
「これから体力テストについて説明するぞ。一回しか言わないからよく聞くように」
体育教師から体力テストの説明が行われた。基本的には中学時代の時と同じで、各自ペアを組んで好きな場所から回る方法だった。
そして男女混合になるのでお互いに譲り合って計測するようにと、最後に念押しとして男女ペアは厳禁と言われた。
「それじゃあ、先生は二十メートルシャトルランの計測をするから各自解散」
先生の合図と共に一斉に動き出す。
(まずはペアを組まないとだな)
俺も体力テストを始める為にペアを探すことにした。と言っても、俺がペアにする人はほぼ決まっている。そのペアにする人を探すために視線を巡らしているとーーー。
「柳木、俺とペアを組んでくれるよな?」
そう言って、声を掛けられた。
視線を向けると、満面の笑みをしながら立っている西城がいた。
「……仕方がないな。組んであげるよ」
「そんなことを言って嬉しいくせに〜 柳木は俺以外とペアを組めないもんな」
「っな?!」
確かにそうだけど…。そんな言い方をしなくてもいいだろ。他にペア組める人がいたら速攻でペアを解消するのに。
「そんな変なこと言っていないで、さっさと計測を始めるぞ」
「素直じゃないんだから」
そして俺たちは最初に握力計測へと向かった。
握力測定の場所に着くと少し列が出来ていたので数分程待ち、俺たちの順番がやって来た。
「柳木…握力弱すぎだろ」
「悪かったな!握力がなくて!」
握力の計測は専用の機器を使って測る。
その機器をギュッと握り、画面に表示された数字はーーー四十一だった。
「男として握力がないのは駄目だぞ。俺の握力を見せてやるよ」
余計なお世話だよ。
計測器を西城に渡すと、西城はすぐに計測準備に入り、そして目一杯握りしめた。
「ざっとこんなもんよ」
見せられた計測器の画面には五十二と表示されていた。
「西城…そんなに握力があったのか」
「見直したか?」
「見直したわ。ほんの少しだけな」
「少しだけなのかよ」
「当たり前。ほら、次の項目の場所へ移動するぞ」
「はいはい」
次の項目にあったのは上体起こしになる。
その場所は握力測定をやった場所から少し歩いた場所にあり床にマットが引かれている。
上体起こしに関してもいい記憶はない。
相方に足を押さえてもらい制限時間内に腹筋をするのだけど、俺は二十回前半がいつもの回数だ。
(今年こそは三十回は行きたい!!)
そう決意し、俺は西城に視線を向ける。
「それでどっちから先にやる?」
「柳木からでいいぞ。俺は体力が有り余っているからな。連続しても余裕だぜ」
「体力お化けめ」
そう言い残し、俺はマットの上に横になる。そして西城が曲げた俺の足を押さえた。
「よし、始めるぞ」
先生の合図と共にタイマーも動き出す。
その合図に合わせて、俺は腹筋を始める。
そして前半はテンポ良く行けていたがーーー。
「段々、ペースが落ちてきているぞ」
「それは…分かって…いるんだけど…」
かなりキツいんだよ…。
「残り十秒だ」
先生の声が聞こえたので、最後の力を振り絞って腹筋を頑張った。
「終了だ」
そして俺のターンは終わった。
「柳木にしては上出来の回数だな」
「何回…だ?」
「二十九回だ」
「マジか… 三十回まであと一歩だったのに…」
「惜しかったな。途中の失速がなければワンチャン行けたかもしれないのにな」
それを聞きながら、西城とマットの位置を交代する。
「かなり悔しいわ」
「その悔しさを俺が憂さ晴らししてやるよ」
「西城がやっても意味ないけどな」
「ははは。それもそうだな」
再び、先生の合図と共に後半組がスタートした。
西城も腹筋を始める。
前半は物凄いスピードで腹筋をしていき、あっという間に三十回を超えた。
(やっぱり体力ある人は凄いな。数十秒で三十回行けるなんて、俺には無理だわ)
後半もスピードは衰えることはなく、黙々と腹筋をしていき、先生の「終了」の合図の時には五十回を超えた。
「久しぶりに腹筋したけどやっぱり疲れるな」
「それでも体力は余っているんだろ?」
「余裕。それよりも何回だった?」
「五十一回」
「よし、自己ベスト更新だぜ!」
西城は嬉しそうにガッツポーズをする。
「自慢かよ」
「おいおい、俺に嫉妬を向けるのは間違っているぜ。俺なんかよりも上の人はいるんだからな?」
確かに西城の五十回を超える人はいる。
何だったら同じグループに六十回がいたし。
だけど、その人のことを俺は知らないから身近な友人の西城になった。
「それは西城が手頃な友人だから?」
「そ、そうか。まあ友人として嫉妬してくれたのなら嬉しいけど、疑問系なのが気になるな」
「俺も自信が持てなかったのかもな」
「柳木は上げて落とすのが本当に上手だな」
西城は少し涙目になった。
「そんなつもりはないんだけどな」
「無自覚なのかよ…」
「なんか西城と話しをしていると、自分が何を言っているのか分からなくなるわ」
「それは俺も同意だ。んじゃ、次に行くか」
「そうだな」
そして隣にある長座体前屈のエリアに移動した。
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