第31話 ご褒美デート③

 二階に着くと、三階とは違いクレーンゲームの台が多く並んでいた。ここの二階にあるのは全てフィギアになっていて、ぬいぐるみ類は一つもない。


(クレーンゲームのフィギアは取りにくいんだよな…。動画とか見てると簡単に取っているのに)


 偶に店舗限定でクレーンゲームで取るフィギアがあるけど、回数を決めてやるから諦めることが多いんだよね。


「それで二階に来たのはいいけど、飛鳥はやりたいクレーンゲームはある?」

「私は風磨くんが一緒懸命にフィギアを取ろうと頑張っている姿を見ていますので、風磨くんが好きな場所に移動してもいいですよ」

「それは楽しいのか?」


 そう聞くと、飛鳥は笑みを見せて呟く。


「もちろんです。風磨くんが頑張っている姿を横から撮影してもいいと思っています」

「それはやめてほしい、かな」


 逆に気になり過ぎて取ることに集中出来なくなりそうだし。まあ取れないのは変わらないと思うけど。


「とりあえず、どんなフィギアがあるか分からないから見て回ろうか」

「目新しい物が見つかるといいですね」

「見つかったとしても取れる保証はないけどね」


 俺は苦笑しながら言い、そして館内の散策を始めた。


「それにしてもクレーンゲームの値段高すぎだろ」


 散策を始めてすぐに気付いたのは値段の違いだ。

 普通なら一回百円で出来るが、ここだと一回二百円と百円高いのだ。


「そうなのですか?」


 飛鳥は首を傾げて聞いてきたので、俺はコクリと頷き呟く。


「品揃えはいいんだけど、他のところに比べたら百円高いんだよ」

「それなら取りやすいとかあるのでは?」

「それが逆なんだよ、ね」


 これでアームが強ければ問題ないのだけど、見たところアームが激弱で簡単に取れそうにない。


「それはゲームセンターとしてどうなんでしょう」

「その気持ちは分かるよ。だけど簡単に取られたら利益が出ないからワザとしているかもしれないし」

「色々とあるのですね」

「本当のことは分からないよ。もしかしたらそうかもしれないという妄想だけどね」


 だけど偶にはボーナスデーみたいなのを作って、簡単に取れる日が欲しいな。


「それではフィギアは諦めますか?」

「諦めだね。アームは弱いみたいだし、俺の苦手なタイプの台ばかりだから絶対に無理だわ」

「残念です。風磨くんのクレーンゲーム姿を動画に残しておきたかったのですが…」


 少し寂しそうな顔を浮かべる飛鳥。


「さっきも言ったけど、クレーンゲームをやっている姿を撮っても何も意味ないと思うけど」

「風磨くんにとっては意味なくても、私にとってはかなり意味があるのです!!」


 飛鳥はグイっと顔を近づけてきた。


 ………顔が近い。これ何度目だよ。


「そ…そうなんだね」

「なので、今度機会がある時でいいので挑戦をしている姿を撮らせてください!」

「機会があればの話しだけどね」

「その機会を作りますから約束ですよ?」

「……はい」


 飛鳥の押しに負けて返事をしてしまった。

 まあ機会を作ると言っても、そう簡単にはやってこないーーーいや、ぬいぐるみコーナーの場所でやることになったら機会来るな。


 一応、確認をしてみるか。


「ちなみにだけど、一階のぬいぐるみコーナーで撮るってことはないよね?」

「別の日にしようと考えていたのですが、風磨くんがやりたいと言うのでしたらーーー」

「大丈夫です。ここのクレーンゲームは取れる気配がないので別の場所でお願いします」

「ふふふ… 分かりました」


 危うく墓穴を掘るところだった。

 下手なことは聞かないほうがいいな。


「とりあえず二階は見終わったことだし、一階に降りてぬいぐるみでも見に行きますか」

「ぬいぐるみコーナーもどんな景品があるのか楽しみですね!」

「俺はやらないからな?」

「知ってますよ」


 本当に分かっているのかな…。

 そんなことを思いながら、俺たちは下りエスカレーターで一階へと降りた。



 一階に着き、二階の時と同じく最初は館内の散策から始めた。出入り口がある一階のため、二階や三階に比べて人が多く感じる。


「飛鳥。気に入ったぬいぐるみはあった?」


 俺が質問すると、前方を歩いていた飛鳥は立ち止まり踵を返した。


「どれも可愛すぎて迷っちゃいます〜!!」

「それは困ったね。だけど水を差すようで悪いけど、欲しいぬいぐるみがあっても取れないからね」

「風磨くんから聞いておいて、それを言うのは酷いです。風磨くんは意地悪ですね」


 すると飛鳥は頬を膨らませた。


「確かに悪いとは思うけど、いざという時の為の保険を掛けといたんだよ」

「それは保険にはなっておりません」

「だけどクレーンゲームをやるよりも、ぬいぐるみは買ったほうが早いと思うんだよね」

「確かに一理ありますけど……とりあえず、いまは見ている途中なので回りますよ!!」


 飛鳥は視線を前に向き直し奥へと進んでいく。


(これは色々とはぐらかされたと受け取ってもいいのかな?)


 そんなことを思いつつ、俺は飛鳥の背中を追いかけた。


 それから店内をぐるぐると回り、ちょうど一周したところで、飛鳥は再度振り向いた。


「風磨くん。私、決めました」

「何を決めたの?」

「この五百円を使って六回挑戦します!」


 いつの間にか手に持っていた五百円玉を、こちらに向けながら宣言してきた。


「まあ飛鳥が挑戦したいと言うなら、俺は何も言わないけど、この機械は本当に取れないと思うぞ?」

「分かっています。だとしても、こんなにも可愛いぬいぐるみを見逃す訳にはいきません」

 

 そう言って指を指したのは、最近話題になっている小さいメンダコのぬいぐるみだった。


(確かにメンダコのぬいぐるみはゆるカワだわ)


 このクレーンゲームは小型なので他のクレーンゲームと違って一回百円で出来るしいいか。


「分かった。俺は横で飛鳥が挑戦している姿を見守っているよ」

「ますます失敗することは出来なくなりましたね」


 飛鳥は機械にコインを投入した。

 そしてレバーを操作してクレーンをぬいぐるみの上に到達すると、隣にある下降ボタンを押すとクレーンが下降した。下降したクレーンはメンダコのぬいぐるみを掴み、そのまま上昇して取り出し口まで運ばれて行ったと思った瞬間ーーー


「そうなりますよね」


 飛鳥は「ははは」と言いながら苦笑した。


「いまのは惜しかったな」

「取れないと分かっていても、これは悔しいです」

「まだ五回もあるから諦めずに頑張ろ!」

「当然です!!」


 それから二回、三回と挑戦したけど、どれもあと一歩のところでアームから離れていった。


「あと二回…」

「飛鳥なら大丈夫だ!きっと一つは取れる!」

「一つだけでは満足しません! 風磨くんとお揃いにする為に二つ取ります!」

「そ、そうか。なら、頑張れ!」

「もちろんです!」


 そして四回目の挑戦で無事に赤色のメンダコのぬいぐるみを取ることに成功した。


「やりました! あと一回で風磨くんの分も獲得しますよ!!」

「無理はしなくてもいいからね?」

「大丈夫です!いまの私なら行ける気がします!」


 それは取れないフラグになるから言わない方がいいだろう。と言う暇もなく、飛鳥は最後の挑戦を始めた。


 最後の為か慎重にレバーを操作していく飛鳥。

 無事に取りやすいぬいぐるみの位置に付くと、そこから横を見ながら少しずつ微調整をする。

 納得した位置になったところで、下降ボタンを押してアームが下降していく。アームはぬいぐるみをガシッと掴み、そのまま上昇していくとゆらゆらと揺らしながら取り出し口へと向かった。


 そして危うい時はあったが、無事にぬいぐるみは取り出し口へと落とされた。


「風磨くん!! まさかの二個目も取れました!!」

「おめでとう!飛鳥にはクレーンゲームの才能あるかもしれないな!」

「それは微妙な気持ちになりますけど、とりあえずこちらのぬいぐるみを渡しますね」


 飛鳥から紫のメンダコのぬいぐるみを渡された。


「ありがとう。大事にするよ」


 部屋のどこに飾ろうかな…。


「あの…通学鞄に一緒に付けませんか?」

「………えっ?!」


 それはまずいのでは?

 同じぬいぐるみを付けているだけで、色々な噂が立ちそうだし…。


「それはバレるのでは…?」

「同じぬいぐるみを付けているだけで、そんなバレるようなことはないですよ」


 いや、笑いごとではないからね。

 この場合だと、一番被害を受けるのは俺だけどーーー


「ダメ…ですか?」


 こんな上目遣いをされたら断れない…な。


「分かった。俺もこのぬいぐるみを鞄に付けるよ」

「それでは帰宅したら、すぐに付けましょうね?」

「はいはい」


 そしてメンダコのぬいぐるみは一旦鞄の中へと大事にしまった。


「そろそろお腹空いてきましたね」

「時間的にお昼過ぎになっているからだね」


 スマホで時間を確認すると時刻は十二時四十分になっていた。


「まだ混んでいるかもしれませんけど、目的地であるショッピングモールでお昼にしましょうか」

「そうだな。お店は行ってみないと分からないし、とりあえず向かうとしますか」


 俺たちはショッピングモールへと向かった。

 


 

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