第30話 ご褒美デート②

「それではショッピングモールに向かいましょう」

「だな」


 あれから約束の十五分が経ち、俺たちはショッピングモールへ向かうことになった。

 現在の時刻は十時半で予定より三十分程遅れていたが、飛鳥に聞いたところ問題はないらしい。


(まあ時間が決まっているイベントとかに参加する訳ではないから問題はないのは確かか)


 そんなこんなで数十分程歩き駅に着いた。

 駅に着くと、飛鳥はテキパキと切符を買い、一枚を俺に渡してきた。


「ありがとう」

「今日はご褒美デートなので当然です!」


 どうやら一日の主導権は飛鳥にあるようだ。


「それじゃあ、俺は何をすればいいの?」

「ただ私が行く場所に着いて来てくれればいいのです。風磨くんを楽しませるのが目的ですから」

「なるほど。俺はただ楽しめばいいのか」

「そうゆうことです!っと、風磨くん電車が来ています!あれに乗りたいので急いでください!」

「分かった」


 俺たちは急ぎつつも階段を気を付けながら駆け降り、ホームにいた電車に乗り込んだ。


 それから乗り換えを一回して、目的地のショッピングモールがある最寄り駅へと着いた。


「そーいえば、ショッピングモールで何をするのか聞いていなかったね」

「特にプランは決めていません。行き当たりばったりみたいな感じで楽しもうと考えています」


 その言葉に俺は驚いた。

 先程『私が案内する場所』と言っていたので、何かしらの計画があると思っていた。

 だけど返ってきたのはーーー行き当たりばったりのノープランだった。


「飛鳥にしては珍しいね。飛鳥のことだから何かしらの計画をして案内するものだと思っていたよ」

「それは私のことを買い被りすぎです」

「そうなのか。なら、飛鳥の新しい一面を知れて俺は嬉しいよ」


 飛鳥は自分の髪を触りながら呟く。


「もう…そんなこと言っても何も出ませんからね」

「知ってますよ」


 俺は微笑しながら返答した。


「……」

「……」


 それから無言の時間が少し続き、ショッピングモールがある場所まであと少しの所で飛鳥が急に立ち止まった。


「どうしたの?」

「風磨くん。あそこに入りましょう」


 飛鳥が指を指したのは綺麗なビルに入るゲームセンターだった。


「ゲームセンターか。飛鳥がゲームセンターに行くイメージが浮かばないよね」

「それってどうゆうことですか! 私だってゲームセンターに行ったことはありますよ!」


 飛鳥はガッツポーズをしながら、顔をぐいっと近づけてきた。


 か…顔が近い。


「そ…それは誰と行ったのかな?」

「その…お…さんです」

「あのよく聞き取れないのだけどーーーって?!」

 

 突然、飛鳥が耳元に口を近づけてきてーーー


「(お父さんと行ったと言いました)」


 と囁いてきた。


「不意打ちは辞めて?!」

「風磨くんが悪いんですからね」

「何かごめんなさい…」


 理由は分からないけど、何故か謝らないといけないと思ってしまった。何でだろうな。


「ちなみにだけど、クラスの友達とゲームセンターに行ったことはないの?」

「風磨くんが初めてですよ」

「そうなの?! いつものグループにカラオケやゲーセンとか誘われそうだけど」

「それらは全て断っているのですよ。風磨くんとの時間を大切にしていますので」


 確かに同棲を始めてから一度も飛鳥が帰宅で遅くなったことがない。まさか俺の為だったとは…これまた恥ずかしいな。


「飛鳥、ありがとうな」

「ふふふ。こちらこそありがとうございます」


 お互いに微笑しあいながら、俺たちはゲームセンターの中へと入った。



 店内に入り、最初にフロアマップを確認した。

 このビルは八階建てで、一階から三階までがゲームセンターのフロアになっている。


 ちなみに階層ごとに置かれている景品が変わっているらしく一階にはぬいぐるみ、二階にはフィギアのクレーンゲームがあり、三階にはプリクラや音ゲー類があると書いてある。

 

「飛鳥は何を見たい?」

「そうですね」


 飛鳥はフロアマップをジーッと見る。


「二階から順番に見て行きましょうか」

「意外」

「何が意外なのですか?」


 飛鳥は首を傾げた。


「三階にあるプリクラコーナーから行くと思っていたから。女子はよくプリクラで写真を撮って、お出掛けの思い出として残しているでしょ?」

「確かにプリクラコーナーに目は行きましたが、風磨くんが苦手そうだなと思ったのでやめました」

「そうだったの?!」


 つまり俺が「撮りたい」と言えば、飛鳥と一緒にプリクラコーナーに行けるのか。


「ちなみに飛鳥はプリクラを撮ったことあるの?」

「はい。一度だけお父さんの俳優仲間である女優さんと一緒に撮ったことがありますよ」

「じょ…女優さんですか」


 普通に「お父さんと撮りました」か「中学時代にあります」と予想していたけど、まさかの女優さんという強ワードが出てくるとは。

 

 飛鳥は口元に手を当てながら「ふふふ」と微笑んできた。


「驚きましたか?」

「かなり驚いたよ。さすが俳優の娘だなと改めて感じたよ。ほんと凄い」

「それは子供の時の話ですし、いまは俳優の方々との交流は出来なくなってしまったので何も凄いことはありませんよ」

 

 飛鳥は苦笑して言う。


「その…ごめん」

「風磨くんが気にすることはありませんよ。それで風磨くんはプリクラを撮りたいのですか?」

「よろしくお願いします」

「分かりました」


 そう言って、飛鳥は俺の手を掴んでエスカレーターで三階にあるプリクラコーナーに向かった。

 


 三階に着くと左側にはキラキラしたプリクラ空間、右側には音ゲー類が並んでいる空間が広がっていた。俺たちは左側にあるプリクラコーナーの入り口まで歩いて行き、目の前に着くと一つの看板に目が入った。


 ・男性同士は入場不可

 ・女性同士は入場可

 ・男性と女性のペアは入場可


 これは当然のことなんだけど、本当に入って大丈夫なのか…と思ってしまうな。


「どうしましたか?」

「何だか場違い感がありすぎて、ね」

「私と一緒にいるので大丈夫ですし、風磨くんは全然場違い感はありませんよ」


 そう言うと、飛鳥は俺の手を掴んだ。

 そして「ほら、中に入りますよ」と飛鳥に引っ張られる形に中へと入場した。


 入場してすぐに飛鳥はプリクラ台を一つ一つ確認していた。どれも同じに見えるんだけどな。


(それにしてもプリクラコーナーだけあって、周囲には女性しかいないな)


 周囲を見渡せば女性同士で来ている人が多く、男性は俺しかいないのでは…?と思うほど見当たらない。あと周囲の視線が少し気になる。


 そんな感じで周囲を警戒していると、飛鳥が一台のプリクラの前で立ち止まった。


「風磨くん、こちらのプリクラにしましょう」

「分かった」


 先に飛鳥が中に入り、その後に続いて俺が中に入る。中は真っ白な空間になっていて、その他にはコイン投入口やカメラ、設定画面などがあった。


(どの台も同じだけど何が違うんだろう?)


 そんな疑問を持ちつつ、飛鳥が設定していくのを俺は横から眺めていた。


「最後にこれで設定終わりですね」

「プリクラ初心者には全く分からないや」

「私も最新のプリクラは初めてですが、音声ガイド通りに設定すれば風磨くんも出来るはずですよ」

「なるほど」


 と感心していると、『撮影まで十秒前』と機会から音声が流れた。


「ほら、風磨くん。ここに指定されているポーズをしてカメラ目線ですよ!」

「分かった」


 最初の指定されたポーズはピースだったので、飛鳥と一緒に笑顔でカメラ目線をする。


 そしてーーーカシャと音がした。


「次の指定も来ましたね」

「これ何回撮るの?」

「六回撮りますよ」

「そんなに撮るんだね」

「風磨くん、早くポーズをしないと」

「えっ、ちょっと待ってーーー」


 ーーーカシャ。


「ふふふ。慌てた姿が撮れましたね」

「恥ずかしい…」

「まだ四回も残っていますし、ここから挽回をしていけばいいのですよ!」

「プリクラで挽回する意味はない気がするけど」

「そうですね」


 飛鳥は悪戯顔をして微笑んできた。


 それから気を取り直し、残り四回をテキパキと撮っていき、最後に飛鳥が撮った写真に落書きをしてプリクラ台から外に出た。


 そして外側にある取り出し口から現像された写真が出てきて、飛鳥は写真を取り出した。


「こちらが風磨くんの分になります」

「ありがとう」


 現像された写真を一枚貰った。

 その写真に目を向けると、お互いの名前が書かれていたり、少し悪戯をしている落書きなど様々な写真が出来上がっていた。


「それでは下に降りましょうか」

「そうだね」


 飛鳥は鞄の中に、俺は財布の中にプリクラをしまい、俺たちはエスカレーターで下に降りた。

 

 

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