第26話 何事もモチベーションは大事だと思う

 テスト当日。

 いつもより十五分ほど早く教室に到着した俺は、教室の自席にて教科書やノートを眺めていた。

 

 ふと教室内を見渡すと各々のグループで集まって問題の確認をしていたり、逆に一人で黙々とノートを確認している人がいる。

 前者で言ったグループの中には霧宮さんもいて、問題の確認をしながら盛り上がっていた。


(さてと、俺も復習に集中しないとだな)


 そう思い、ノートに視線を戻した瞬間、後ろ側の扉がガラガラと開く音がした。


(あっ…西城だ)


 視線を向ければ、どこかやる気のない雰囲気の西城が鞄を机に置き、とぼとぼとこちらの方に向かってきた。


「柳木、おはよう」

「おはよう。元気がないけど大丈夫か?」

「テストがなければ元気は出るんだけどな」


 要するにテストがあるからモチベーションが上がらないという訳か。


「一応聞くけど、テスト勉強は真面目にしたのか? 俺はかなり真面目にしたぞ」

「頑張れるだけ頑張ったけど、テストで点数取れるかは分からん」

「それな。俺も不安はあるんだよな」


 いくら真面目に勉強したからと言っても、何かしらの間違いで点数は下がる。例えば、マークシートの塗り間違いやケアレスミスなどだ。

 マークシートで言えば中間テストでは使われないので心配はないけど、特にケアレスミスには本当に要注意だ。

 

「そう言いながら、柳木はいい点数を取りそうだよな。そうゆう雰囲気が出ているし」

「どんな雰囲気だよ」

「それで俺との約束の点数対決で自慢をしてくるんだろうな」

「今からネガティブな思考になるの早くない?!」


 それに普通だったら真面目に勉強してきたと言ったら、それは勉強していないな等しいって反対のことを言われるよな。

 

 俺の場合は嘘ではなく本当に勉強をしてきたけど、その発言を疑わないのには驚いたぞ。


「他の人たちを見てみなよ。 最後まで諦めずに勉強をしているんだからさ」

「そうだな」


 返事はもはや諦めモードの西城。


「だから西城も諦めずに頑張ろうぜ。 あそこのグループのようにさ」


 俺は壁際にいるグループに視線を向けた。

 それに釣られて、西城も視線を向けた。


「霧宮さんたちか」


 そう、俺が視線を向けた先は霧宮さんがいるグループだ。いままで霧宮さんの話題で盛り上がっていた西城なら、霧宮さんたちの頑張りを見ればやる気になってくれると考えた。


「確かに楽しそうに勉強しているな」

「だろ? あそこのグループだってギリギリまで楽しそうに勉強しているのに、暗い人が一人でもいたらクラスの士気が下がるだろ?」

「そんなんで士気が下がるようなら、色々と問題だとは思うけどな」


 分かっているよ。

 自分でも何を言っているのか分からないから。

 それでも元気付けようと頑張っているんだよ!


「と、とりあえず、西城も諦めずに頑張ろうぜと言いたい訳よ」

「まあ…分かるけどさ」


 これは何を言ってもダメなのかな…。

 と思った瞬間、霧宮さんがこちらの視線に気が付き、ニコっと微笑みながら小さく手を振った。


 この行動を一緒に見ていた西城はーーー


「やばい…霧宮さんが俺に対して・・・・・微笑んで手を振ってくれたよ」


 と一人で盛り上がった訳だが、一つだけ訂正したいことがある。


(西城に向けて微笑んだり、手を振ったりはしていないからな!!)


 とは言えずーーー。


「良かったな」


 これしか言えなかった。



 いつものメンバーと試験範囲の確認をしていると、何やら視線を感じた。

 それで視線を感じる方に顔を向けると、柳木くんが私の方を見ていた。おまけ付きでしたが。


(どうやら柳木くんは落ち着いている感じですね)


 ずっとテスト勉強をしている時に緊張をして、頭が真っ白になると言っていたので心配をしていましたが、西城さんのお陰のようですね。


(私も柳木くんの緊張を和らげてあげたかった)


 そんなことを言っても、私と柳木くんの関係は住所変更とかで先生は知っていたとしても、クラスメイトには知られてはならない。


 だからこそ、ここは我慢をするしかない。


(はぁ…教室内でも話せればいいのですけど)


 小さくため息をついていると、「どうしたの?」と声を掛けられた。


「難問でもぶち当たった感じ?」

「霧宮さんはに限って、それはないと思うけど」

「確かに難問と言えば、難問になるのかもしれませんね」

「マジ?! 霧宮さんに難問があるの!?」

「凄く気になるけど、今はテスト勉強に集中しないとだよ」

「分かっているって〜」


 質問攻めになると予想していたので、この反応には驚いた。もし質問されても答えられるようなものではなかったから。


「それじゃあ、いくつか問題を出すから答えてね」


 目の前に座っている女子が教科書を見ながら問題を出そうとした時、柳木くんが後ろの扉から教室を出ていく姿が見えた。


「あの…少し席を外しますね」

「おけー!」

「りょ!」

「はーい!」


 私は席を立ち上がり、廊下へと向かった。



「大丈夫だよ。 大丈夫だよ。 大丈夫だよ」


 トイレの鏡に写っている自分に向けて、霧宮さんに教えてもらったおまじないをした。

 そのおかげで途中から上がっていた心臓の鼓動も安定して、普段通りの落ち着きを取り戻せた。


 そして最後に深呼吸をして教室に戻ろうとした時、後ろから声を掛けられた。


「柳木くん」


 後ろを振り向けば、優しい微笑みをしている霧宮さんが立っていた。


「霧宮さん?! ここで話し掛けるのはまずいよ」

「分かっています。ですが、テスト始まる前に一言だけ伝えたいことがありまして」

「伝えたいこと?」


 そう聞き返すと、霧宮さんはもじもじしながら少しだけ視線をずらした。


「その…お互いに頑張りましょうね! 恥ずかしいでふけど、ご褒美デートを楽しみにしていますから」


 それだけ言って、霧宮さんはスタスタと教室に戻った。


(………可愛すぎるだろ)


 そして一つだけ確定したことはテストで赤点を取るどころか、八割以下を取ることさえ許されないようだった。………頑張るぞ!


「柳木、テスト始まるから席につけよー」


 そこへ担任の先生がちょうどやって来たので、俺は返事をして教室へと戻った。


 そして高校生活初めての中間テストが始まった。

 


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