第25話 諦めが悪いのが俺だからね!

「いよいよ明日からテストが始まりますね」

「人生で一番勉強した気がするよ」


 中間テスト前日の夜。

 夕飯を食べ終えた俺たちは、机の上に勉強道具を広げながら雑談をしていた。


「その成果を是非見せてくださいね」

「それは…かなりのプレッシャーになるんだけど」

「いまの柳木くんなら乗り越えられます! 目標の点数もきっと取れますよ!」

 

 霧宮さんはガッツポーズをして宣言した。


「確定事項なんだね」

「当然のことですよ! 目標の点数を取ってもらわないと、私のご褒美がなくなりますよ?」

「確かに…そうなんだけど」


 ご褒美に関してノリノリ過ぎるよね。

 それがあることにより確かにやる気は出るけど、ご褒美の内容に恥ずかしくならないのかな?


「今更なんだけど、ご褒美の内容のデートや名前呼びに関しては恥ずかしくないのかな?」

「〜〜〜〜〜っ!! 急に変なことを言わないでくださいよ!! びっくりするじゃないですか」

「なんで提案してきた本人が、顔を赤くするのはおかしいでしょ!?」

「そ…それは柳木くんが揶揄ってくるから…」

「から…揶揄っていないでしょ?!」


 寧ろ、これまでの霧宮さんの行動の方が揶揄っていたと思うんだけど…。

 それなのに少し質問しただけで揶揄いになったら、俺は霧宮さんに質問したらダメなのか?


「このままだと、俺は霧宮さんに対して何も質問できなくなるんだけど」

「…………普通の質問ならいいですよ」


 それなら、さっきの質問も普通の質問の分類になるよね?だけど霧宮さんの基準では普通には入らないのかな…。


「さっきのも普通の質問だと思うんだけどなぁ」

「そんなに質問の答えを聞きたいのですか?」

「イエスかノーで言ったらーーーイエスだね」

「諦めが悪いですね」


 霧宮さんにため息を吐かれてしまった。


「諦めが悪いのが俺だからね!」

「その諦めの悪さがテストにも適用されたらいいのですけどね」

「それとこれとはまた別の話だからね」


 そう言うと、霧宮さんはくすくすしてきた。


「とても柳木くんらしさがありますね」

「なんか馬鹿にされているように思えるけど…」

「そんなことはありませんよ。その人の良さがあるということはいいことなんですから」

「それは分かるけど…」


 霧宮さんが言っていることは少しだけ違う気がするけどーーーとりあえず気にしないことにした。


「それで質問の答えを教えてくれるんだよね?」

「仕方がありませんね」


 霧宮さんは小さくため息をついた。


「先程の質問の答えですが、当然恥ずかしいに決まってます。だって、一人の女の子がデートを誘ったり、名前で呼んでほしいと言うんですよ。 リア充の人たちやギャルと違って、私はかなり恥ずかしがり屋な方なのですよ」


 おぉ…。霧宮さんの口からリア充やギャルの単語が出て来るとは思わなかった。

 それに霧宮さんは自分のことを恥ずかしがり屋だと言ったけど、俺に対してかなり積極的に攻めて来るときがあるよね?あれはどうなるの?


「どこが恥ずかしがり屋なの?!」

「ちゃんと話を聞いていましたか?」

「聞いていたけど……今までの俺に対する霧宮さんの行動をいくつか思い返すと恥ずかしがり屋には思えなくて」

「そ…それは当然でしょ」


 霧宮さんはコップを手に取り、紅茶を一気に飲み干した。そして視線をこちらに戻して、「だって」と言葉を続けた。


「や…柳木くんに…気に入られたいから…です」

「えっと…その…何と言うか…ありがとう」

「…………はい」


 それから数分間の沈黙が続き、お互いに黙々とノートと教科書に視線を向けてテスト勉強をした。


「柳木くん。 ちゃんと理解していますか?」


 沈黙を破ったのは霧宮さんだった。


「理解はしているよ」

「それでは問題を出しますね」


 霧宮さんは俺のノートを自分の方に持っていき、ページを捲り始めた。


「それでは英語からの問題です。次の日本語を四択の中から選んでください」


 そしてルーズリーフの紙に問題の日本語と四択の英語単語を書いていく。全て書き終えると、俺の方に向けて紙を渡してきた。


 渡された紙に目を通し、問題の日本語に合う英単語を四択の中から選びーーー


「③だね」


 霧宮さんに答えた。


「正解です。まだ一問だけですけど、一応身に付いているようですね」

「本番ではないからだろうね」

「そんな緊張しやすい柳木くんにおまじないを教えてあげましょう!」

「おまじない?」

「はい! 心の中で「大丈夫だよ」と声を掛けるのです!その時に笑顔を忘れずに!」

「なるほど」


 その「大丈夫だよ」で自分に対して、安心させる効果があるのか。

 折角、霧宮さんが教えてくれたことだし、やってみる価値はありそうだな。


「分かった。教室で笑顔をするのは恥ずかしいから、どこかの隅でやってみるよ」

「そうですね。自分のやりやすい場所の方が、さらに落ち着けますしね」


 俺はコクリと頷く。


「ですが、最後まで気を抜かずにテスト勉強は頑張りましょうね!」

「おー!」


 そして日付が変わるまで、お互いに問題を出し合いながらテスト勉強をした。

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