第23話 目標点数でご褒美があるらしい
「聞き取れませんでしたか? 柳木くんがテストの点数で半分を取れたらーーー」
「それは聞こえていたよ。ただご褒美?となる条件が簡単すぎる気がして…」
テストの点数で半分を取るといえば、大体の人は簡単だと言うはずだ。実際、半分を取ることは普通の人なら簡単に取れると思う。例外はあるけど。
(俺の場合はその例外に当たるけど)
それを条件とし、達成報酬が霧宮さんとのデートとなれば、誰だってやる気を起こすはず。
特にクラスの男子たちは…ね。
「簡単?」
首を傾げ、そして「そんなことはありませんよね?」と微笑みながら言ってきた。
「柳木くんはあまり勉強が出来ないそうですね。中学時代もテストの成績があまり良くなかったとか」
なっ…?!
どうして中学時代の成績を知っているんだ。
誰にも話したことないのに…。
「ど…どうして俺の中学時代の成績を知っているのかな…?」
「一言で言えば、柳木くんのお義母さまに教えてもらいました!」
「………えっ?」
「中学時代のテストはあまりにも悲惨でお義母さまは少し呆れてしまっていたと」
母さん、俺の個人情報をどうして霧宮さんに開示しているの?!
中学時代の成績とか黒歴史の一つだから、身内以外には誰にもバレたくなかったのに。
とりあえず平静を装って返事をするか…。
「そ…ソウナンダ。ナツカシイハナシダネ」
ダメだった。
平静を装う所か不審者になってしまった。
霧宮さんはくすくす笑った。
「動揺していますね」
「そんなことはない」
「誰にも口外しないので安心してください。それに過去の成績は現在の努力次第でいくらでも変えることは出来ます!」
「努力次第…ね」
「はい! ですから、この一週間は一緒にテスト勉強をしましょう!」
「それは嬉しい提案だね」
元々、霧宮さんには頼もうとは考えていた。
それでも簡単に頼むことは難しいと思い、少しだけ躊躇いがあった。最終的には一人でテスト勉強を頑張ろうと思っていた。
だけど今回の提案は相手からの提案。
何の躊躇いもなく頷けばいいのだがーーー一つだけ気になるのは例の件だ。
「霧宮さんと勉強したら余裕で半分を超えられるし、ご褒美の意味はなくなるね」
「ふふふ。確かにご褒美の意味はなくなってしまいますが、本当に余裕で取れるのですか?」
「余裕に決まっている!」
だって、成績優秀な霧宮さんに教えてもらえるのだから!
「では、少し条件を変えましょう」
「条件を変える?」
「はい。もし柳木くんが半分を超えたら、私のことを名前で呼んでください。私も柳木くんのことをふ…風磨くんと呼びます」
突然の名前呼びに心臓がドキッとした。
「わ…分かった。俺もあ…飛鳥と呼ぶよ」
反対に俺が名前を呼ぶと霧宮さんがさらに顔が赤くなったように見えた。同時に俺の顔も熱くなった。
「そ…それで八割取れたら、先程言ったデートをしましょう」
「八割…か」
俺の中での八割はかなり高い。
先程も言ったように本番に弱いので、今まで八割以上取れたのは数回程だ。
「結果はどうなるか分からないけど、頑張れるだけ頑張ってみるよ」
「私も全力でサポートをしますね!」
「それで霧宮さんの成績が下がったら申し訳ないのだけど…」
霧宮さんは優しい微笑みを向けてきた。
「私は大丈夫なので安心してください」
どこからその自信が出てくるんだろうと思ったけど、霧宮さんなら本当に成績は下がらないんだろうな…。
「という訳で、先程話した通り明日からテスト勉強をしましょう!」
「よ、よろしくお願いします」
◯
翌日の放課後。
テスト勉強をする為に最寄り駅の近くにあるレストランへとやって来た。
一緒に行動しているところを見られる訳にはいかないので、霧宮さんには先に席を取ってもらうことになったのだけど…。
(レストランで勉強する方がやばいと思うけど)
あまり学校の人が来ないレストランだもしても、突然学校の人が来る場合もある。
警戒はしておいた方がいいかもな。
そんなことを思っていると、厨房から店員さんがやって来た。
「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」
「いえ、待ち合わせをしていまして…」
店内を見渡すと、奥の席の方に同じ制服を着た女性が座っている姿が見えた。
「いました」
店員さんに小さくお辞儀をして、奥の席の方へと向かった。
「お待たせしました」
「もう少し、早く来ることは出来なかったのですか? 解散してから三十分は経っていますよ」
「本当なら十五分前には到着予定だったんだけど、校門前で西城に捕まって逃げ切れなかった」
まさか急いでいる時に限って捕まるし、さらに駅前まで一緒に帰ることになるとは…。
「それは大変でしたね」
「笑い事ではないからね? これで西城にバレたら、俺はかなり大変な目に遭うんだから」
「その時は頑張ってくださいね!」
「全て任せましたよ」と言わんばかりの満面の笑みを霧宮さんはしてきた。
「霧宮さんも巻き込むからね」
「私は一歩引いて様子を見てますね! ほら、何か注文をしましょう」
机にあったタブレットを使い、「どれにしようかな〜」とメニューを選び始めた。
確かに勉強をしにきたけど、何か頼まないとお店に迷惑になるよね。話をはぐらかされた気はするけど気にしたら負けだな。
俺もタブレットに目を向けた。
「でも、すぐに夕飯になるから重い料理は食べられないな」
「そうですね。ここはやはりデザートですかね?」
「それを頼んでテスト勉強に集中出来る?」
「私は出来ますよ。寧ろ、甘いものがあるだけでやる気が上がるものです!」
「そうゆうものなのか…?」
俺がよく聞くのは甘いものを食べたら疲れが取れるとか、そんな感じだ。
まあ人それぞれだとは思うけど、霧宮さんが言うなら俺もやる気が出るかな。単純な男だな俺。
「それじゃあ、俺もデザートにしようかな」
「では、私のオススメのデザートを注文しますね」
そう言って、タブレットを操作する。
「これで注文は終わりましたので、飲み物を取ってから早速テスト勉強を始めましようか」
「そうだね」
順番にドリンクバーに飲み物を取りに行き、好みの飲み物をコップに入れて席へと戻った。
「それではテスト勉強を始めたいと思いますが、柳木くんは不安な科目はありますか?」
「不安な科目か…」
中間テストの科目は主要科目の五科目と副教科の二科目の計七科目になる。
副教科はギリギリ対応は出来ると思うけど、心配なのは英語や数学になるのかな…。
「主要科目の英語と数学は不安かな…英単語や公式がなかなか覚えられなくて」
「なるほど。全科目が不安なんですね」
「あの…霧宮さん。話を聞いていましたか?」
「聞いていましたよ」
「それなら、どうして二科目から全科目に話が変わっているのかな?」
「簡単な話です。柳木くんの目が泳いでいたので」
「何か違いましたか?」と首を傾げながら、ニコッと微笑んできた。
「いえ…何も違いありません。霧宮さんの言う通り、全科目不安です」
「よろしい!」
すると猫型配膳ロボットがデザートを運んできた。俺は二人分のケーキを配膳場所から取り、自分と霧宮さんの前に置いた。
「ありがとうございます」
「これくらいは任せてよ」
これから勉強を教えてもらうんだから、これくらいはやらないとね。男として当然だし。
「それでは気を取り直して、テスト勉強を始めましょうか」
「霧宮先生、よろしいお願いします」
こうして目標点数に向けて、霧宮先生によるテスト勉強が始まった。
そして霧宮先生の教え方はとても上手だったのだが、かなり厳しいと同時に感じる数時間となった。
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