第22話 彼女に地獄耳疑惑が出ました
「来週から中間テストとか信じられないわー」
「そうだな」
昼休み。
いつもの場所でお昼を食べていると、西城が机にうつ伏せの状態のまま言ってきた。
軽く返事をしつつ、俺はお弁当を食べ続ける。
「誰が何のためにテストという試練を作ったんだろうな。いらないと思うんだけどな〜」
「それは自立した大人になるためだからだろ」
「別にテストがなくても自立は出来ると思うんだよ。勉強を真面目にやっていればな」
「それじゃあ西城はテストがなかったとしたら、普段の授業は真面目に受けるのか?」
「寝てるな」
それだと何も変わっていないだろ。
まあ授業を受けて、その場で身につく人はなかなかいないと思うけど。
「それじゃあ、自立した大人にはなれないな」
「なら、俺は女社長のヒモになる!」
「変わり身が早すぎるだろ…。 それと女社長のヒモになるとしても、その女社長と知り合いにならないとヒモになる算段もないだろ」
「それはアレだ。大学生になった時に合コンやナンパをするしかないだろ」
「どっちにしろ勉強しないとダメだな」
大学に入るにしても入学試験があるから、西城が望むには勉強は必需だ。
「それなんだよなー 他に女社長と知り合いになる方法はないのかね〜」
「その考えをやめなさいよ」
「そうなると何も考えたくないわー」
そう言いながら、西城は窓の外を眺め始めた。
◯
「という話を昼休みにしていたんだよ」
「私の席からも柳木くんたちの話し声は聞こえてきましたよ」
その日の夜。
夕飯を食べながら昼間にあった出来事の話を、霧宮さんにしていた。
「マジ…で? そこまで大声では話してはいなかったと思うんだけどな」
「私、地獄耳なんですよ!」
霧宮さんが地獄耳…だと?!
それだと秘密の会話も全て丸聞こえではないか。
霧宮さんはふふふっと笑みを溢した。
「地獄耳のことは嘘ですから安心してください。ですが、柳木くんたちの話し声が聞こえてきたのは本当ですよ」
「あの距離で話し声は聞こえるものなのか? 他の人たちの話し声もあるのに」
窓際に座っていた俺たちと壁際にいた霧宮さん。
かなりの距離があるはずなのに、それが聞こえたとなると嘘と言っていた地獄耳も本当になるぞ。
「私と一緒に食べていたメンバー全員聞こえていましたよ。それを聞いて、こちらもテストの話題になりましたよ」
結論、霧宮さんは地獄耳(多分)だ。
それ以外に考えられないし!
「それにしても大した会話ではない話し声が聞こえていたとなると、少し恥ずかしいね」
「気にしなくてもいいと思いますよ。内容に関してはほとんど興味ないと思いますし」
「その言い方だと霧宮さんは俺たちの会話に興味があるように聞こえるんだけど」
「もちろんです!」
霧宮さんはサムズアップした。
「柳木くんと西城さんがどんな話をしているのか聞き耳を立てるのは、一緒に住んでいる身としては当然のことなのです!」
「まるで正妻みたいな言い方だね…」
正妻って言うより、監視者と言った方が個人的には納得が出来そうだけど…。
恐る恐る霧宮さんの方に視線を向けると、霧宮さんは少し頬を赤く染めていた。
「霧宮さん? どうしたの?」
「なっ…なんでもありません!!」
「でも顔を赤く染めているから、何でもないという訳にはないでしょ?」
「本当に大丈夫ですから!!」
霧宮さんは夕飯のおかずを次々に食べていく。
そしておかずを飲み込むと、霧宮さんは言葉を続けた。
「それよりも中間テストの話です」
「は…はい」
突然の中間テストの話になり、俺は姿勢を正して返事をした。
「柳木くんは中間テストの自信はありますか?」
「正直言って、不安が勝っている」
西城の前では見栄を張っていたけど、実際は不安はかなりあった。
中学時代のテスト時代も緊張や不安の所為でまともに勉強しても、テスト本番になったら頭の中が真っ白になった。
(ほんと高校に受かったのは奇跡だよな)
中学時代の先生に受験校のレベルを下げた方がいいと言われたけど、色んな理由があって変更はせずに受けた。そして合格した時には先生たちに万歳をされたのはいい思い出だ。
「だから赤点回避を最低限の目標にしているよ」
「なるほど…」
何かを考え込むように腕を組む霧宮さん。
「霧宮さん…?」
「(ここで柳木くんに恩を売るのも悪くないですね。そのお礼としてデートしてもらうか、例のラブレターを見せてもらうか…)」
何かブツブツと小声で呟いている。
小声すぎて聞き取れないが、俺からしたら悲報な気がする。
「あの…霧宮さん?」
霧宮さんは微笑んできた。
嫌な予感がする…。
「柳木くん!」
「は…はい!」
もう一度、姿勢を正して返事をした。
「中間テストまでの間、私と一緒に試験勉強をしましょう!」
「………っん?」
「それでテストの点数が半分を超えた暁には、私と一緒にデートをしましょう!」
「………ふぇ?」
突然のことに思わず変な声が出てしまった。
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