第20話 料理教室(中編)

「改めまして、講師を務めます雨宮と申します。本日は体験コースをご予約していただきありがとうございます」


 雨宮さんは私たちに向けて会釈をした。

 それに続けて、私たちも軽く会釈をした。


「早速、体験コースのメニューをお配りします」


 そう言うと、雨宮さんは数枚の紙を持ち、各々のキッチン台に一枚ずつ紙を置いていく。

 そして紙を配り終えると、元の位置に戻り話の続きを始めた。


「では、お配りした紙を確認してください」


 紙に目を通すと一番上に『ガトーショコラ』と大きく書かれており、下には材料と作り方が書いてあった。配られた紙はレシピだった。


(ガトーショコラですか。 確かに柳木くんにはまだケーキを作ったことがありませんね)


 そんなことを思っていると、横にいる柳木くんのお義母さまから小声で話し掛けられた。


「風磨はケーキの中でチョコ系が好きだから、絶対にマスターして風磨の胃袋を掴もうね」


 全てお見通しのようだ。

 なら、目的通りに柳木くんの胃袋を掴めるようにマスターをしなくては!


「もちろんです」

 

 私は小さくガッツポーズをしたがら、小声で返事をした。

 

「それでは材料をお配りしますので代表者一名が取りに来てください」

「お義母さま、私が取りに行きますね」

「ありがとうね!」


 代表者として雨宮さんのいるキッチン台に取りに行くとミルクチョコレート、バター、ココア、小麦粉、牛乳、卵、砂糖がグループごとにトレイで準備されていた。


 その内の一つのトレイを持ち、私は自分のキッチン台へと戻った。


「お待たせしました」

「さすが料理教室だね。ほとんどの材料が必要分として用意されているね」


 柳木くんのお義母さまの言う通り、チョコレート以外の材料は分量を計って用意されていた。

 流石にチョコレートは溶かす作業などがある為、固形のままだ。

 

「少しだけ楽が出来ますね」

「家でやる時は大変だけどね」


 そんな話をしていると、「はーい」と言いながら雨宮さんが手をぱんぱんと叩いた。


「皆さんに材料が行き届きましたね。 それではレシピ通りに作って行きたいと思います。まずは鍋に牛乳を入れて、その間にチョコレートを細かく切って行きましょう」


 「チョコレートの細さはこれくらいです」と実演しながら、切る細さを教えてくれた。


「飛鳥ちゃんがチョコレート切る?」

「そうですね…」


 いずれ家でもやることになるなら、今ここで練習するのも悪くない。やらせてもらおう!


「私、やります!」

「いい心掛けだね!」


 柳木くんのお義母さまはサムズアップした後、テキパキと包丁とまな板を用意してくれた。

 そして場所を交代して、私はまな板の上にチョコレートを置き、雨宮さんが実演してくれた細さと同じように切っていくとーーー


「料理教室に誘ったのは間違いだったのかなと思うほど、飛鳥ちゃんは上級者だよね」


 と横から柳木くんのお義母さまが言ってきた。


「そんなことはありません。一度、料理教室には参加してみたかったので、誘ってもらえた時はとても嬉しかったんですよ」

「嬉しい言葉をありがとうね。私も飛鳥ちゃんに負けないように頑張らないとね!」


 そう言うと、柳木くんのお義母さまは鍋に牛乳を入れて、コンロに火をつけて温めて始めた。

 

 その間に私も残りのチョコレートを切って行き、温まった牛乳の中にチョコレートを投入した。


「それじゃあ、飛鳥ちゃんがチョコレートを溶かしている間に、私はバターと合わせてふるった小麦粉とココアを持って待機しているね」

「分かりました」


 ゆっくりと牛乳とチョコレートを混ぜながら溶かしていき、完全に溶けたことが確認出来たので柳木くんのお義母さまに声を掛けた。


「バターと小麦粉とココアをお願いします!」

「待ってました!」


 私の合図に合わせて、柳木くんのお義母さまは鍋にバターと小麦粉、ココアを入れていく。


「それじゃあ、私は二つの工程の準備をしとくね」


 そう言って、レシピを確認しながらボウルに卵白と砂糖でメレンゲを作り、もう一つのボウルに卵黄と砂糖で混ぜる作業を始めた。


(流石、主婦ですね。一つ一つの動作に無駄がありません)


 そんなことを思いながら、私は鍋の中をゆっくりと混ぜ合わせた。


「そろそろ混ぜた卵黄を入れてもいいのでは?」

「そうですね」

「てことで、これが混ぜた卵黄ね」

「ありがとうございます」


 私はボウルを受け取り、鍋の中に白っぽくなった卵黄を入れた。


「では、メレンゲはお願いしてもいいですか?」

「任せて!」


 卵白で作ったメレンゲは三回に分けて加える必要がある。なので、柳木くんのお義母さまに手伝ってもらいながら、泡が消えないようにさっくりと混ぜていく。

 

「そろそろ生地を作り終わった頃だと思います。 次の工程は型に入れて焼いていきましょう」


 雨宮さんの指示で他の参加者たちは生地を型に流し込んでいく。


「私たちも生地を型に入れていこうか」

「ですね」


 柳木くんのお義母さまに型を押さえてもらい、私は鍋から生地を型に流し込む作業をする。

 その時に型を押さえているお義母さまが熱くならないように気を付けながら入れていく。


 そして180℃のオーブンに入れて、タイマーを三十分にセットして【スタート】ボタンを押した。


 三十分後ーーー


 竹串を刺して先端にボソボソとした生地が付いたので完成した。そして粗熱を取り、型から外し、好みの大きさに切り分けてからお皿に盛り付けた。


「皆さん、上手に盛り付けられましたね。 では、自分たちで作ったケーキを食べてましょう」

「「「「いただきます」」」」


 一口サイズに切ったガトーショコラを、私は口に運び食べる。


(美味しい!!)


 口いっぱいにチョコレートの味とココアの味が広がり、同時にトッピングの生クリームが程よい甘さとなり釣り合いが取れていた。


 柳木くんのお義母さまの方に視線を向ければ、頬に手を当てて幸せそうな顔をしていた。


(柳木くんにもお土産にしましょう)


 そう思い、私は雨宮さんからラッピング袋を貰い、ガトーショコラを一切れ入れて袋を閉じた。


 そして初めての料理教室は終わった。

 

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