第19話 料理教室(前編)

 土曜日。私は最寄り駅の改札口にいた。

 何故かと言うと、今日は柳木くんのお義母さまと料理教室に行く日なのです!

 

「そろそろ待ち合わせの時間になりますね」


 腕時計を確認すると時刻は十一時二十五分。

 待ち合わせをしていたのは十一時半なので、後五分程で待ち合わせ時間となる。


 (時間と共に緊張する)


 だけど、この緊張は不安によるものではない。

 今までは料理本やネットの検索による独学で学んできたから、ちゃんとした料理教室は初めてなので楽しみによる緊張だ。

 

 (柳木くんの胃袋を鷲掴みにするぞ!)


 そう、自分を鼓舞をしていると、私の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。


「あすかちゃん!お待たせ!」


 声のする方に顔を向けると、柳木くんのお義母さまが隣にいた。そして耳元に息を吹き掛けられて、変な声をあげてしまった。


「急に真横に現れないでくださいよ。それと息を吹き掛けられた理由を教えてください」

「飛鳥ちゃんが真剣な顔をして何か決意をしたような雰囲気だったから、何となく耳元に息を吹き掛けようかな、と思ってね!」

「何となく…って」


 柳木くんのお義母さまは誰に対しても積極的で距離の詰め方が上手だと思う。

 それは柳木くんには無いことだけど、柳木くんがもし積極的になったらどんな風になるのか少し興味がありますね。


「私は不意打ちには弱いので辞めてくださいね?」

「それはいいことを聞いたね〜 風磨に教えてあげないとだね」

「お、お義母さま?!」

「ふふふ。 嘘だから安心してね!」

「もう…悪戯が過ぎますよ」

「ごめんね。 あまりにも飛鳥ちゃんが可愛かったから、つい揶揄いたくなったのよ」


 柳木くんのお義母さまは、私の頭を優しく撫でた。


「あの…髪型が崩れてしまうので…」

「あっ、ごめん。無意識にやってたよ」

「気を付けてくださいね」

「それじゃあ、そろそろ料理教室の場所へと向かいましょうか」

「はい!」


 私は髪型をスマホのカメラで軽く整えて、柳木くんのお義母さまの後を追いかけた。



 駅前から歩くこと十五分。

 私たちはとある一軒家に着いた。


(ここで料理教室をやるの?!)


 その一軒家には門があり、玄関まで数メートルの道のりがある。さらに建物自体も二階建てで横に広く、奥行きもある雰囲気。世間でいう、豪邸だ。


 ここまでの道のりで聞いた話だと料理教室は個人で経営をしているらしく、自宅を料理教室として活動しているらしい。


(これだけの豪邸なら趣味の一つとして料理教室をやっていても不思議ではないね)


 そんなことを思っていると、柳木くんのお義母さまは門に取り付けられていたインターホンを鳴らした。そしてすぐに返答が返ってきた。


『はーい』

「十二時に予約していた柳木です」

『お待ちしておりました。 いま、開けますね』


 そう言うと、門に取り付けられていた扉からガチャと何かが解除された音が聞こえた。


『そのまま玄関先までお越しください』

「分かりました。ありがとうございます」


 柳木くんのお義母さまは会釈をし、扉を開けて玄関先まで向かう。その後に私も続いた。


 玄関先に着くと同時に玄関が開き、中からエプロンを付けた女性が現れた。


「こんにちは。私、講師を務めます雨宮と申します。どうぞ中へお入りください」

「「失礼します」」


 中に入り、靴を揃えて、雨宮さんの案内で教室の場所まで一緒について行く。


(エレベーターまであるの?!)


 玄関から少し歩いた所にある部屋に入ると、中には五台のキッチン台が置いてあり、他の体験者らしき人達が三組いた。


「柳木さんはこちらのキッチン台と荷物はそちらにあるカゴをお使いください」

「分かりました。それじゃあ、準備をしようか」


 柳木くんのお義母さまは雨宮さんに会釈をすると、私の方に視線を向けて言った。


「はい!」


 荷物をカゴの中に置き、鞄の中からエプロンを取り出して身に付け、雨宮さんがいる方へと視線を向けた。


「時間になりましたので料理教室を始めたいと思います。皆さん、よろしくお願いします」


 そして雨宮さんの合図で料理教室が始まった。



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