第6話 可愛い同級生はペアをご所望
「見てください! 可愛い猫ちゃんがいますよ!」
繁華街の入り口から少し歩くとペットショップがあり、そのお店の前で俺たちは足を止めた。
店内に入らずとも、歩道側にもショーケースが置いてあり、その中には犬や猫が数匹いるので見ることが出来る。
そして、霧宮さんは猫が気に入ったようだ。
「確かに可愛いけど、動く気配がないな」
目の前にいる猫は四角い台の上で丸まっており、ぐっすり眠っているように見えた。
と思ったら、こちらに視線を向けると素っ気ない態度を取って、元の位置に顔を戻してしまった。
「生意気な猫だな」
霧宮さんは微笑した。
「 柳木くんは猫ちゃんに嫌われていますね。 私がお手本を見せてあげますよ」
ショーケース内に視線を戻した霧宮さんは、猫に向けて「こんにちは」と声を掛けた。
すると猫は顔を上げ、そのまま彼女の方に視線を向けて『にゃ〜』と鳴き声を上げた。
「マジかよ…」
「これが私の力です! 昔から犬や猫には好かれるタイプなんですよ!」
「それは凄いね。 俺は子供の頃のトラウマで犬や猫が少し苦手なんだよね」
それなのに散歩中の犬によく絡まれるし、一回襲われそうになったんだよな。苦手なのに。
「それだと一緒に猫カフェに行くことも難しいことになりますよね… 一緒に行きたかったんですが」
残念そうな表情を浮かべる霧宮さん。
「わ…分かった。 タイミングを見て、一緒に猫カフェに行こうか」
「無理をしなくてもいいのですよ。 私は柳木くんが嫌がることをしたくはないので」
「だ…大丈夫。 ただの食わず嫌いと同じだから、一度触れ合えばトラウマも消えるはず。(猫だけ)」
「ありがとうございます!!」
この笑顔の為に頑張るしかない。
だって、あんな顔をされたら断れないし…。
「では、そろそろ向かいましょうか」
「もういいの? 中にも沢山の猫や犬はいるけど」
「はい。 小物類を見に行かないといけませんし、恥ずかしながらお腹が空きまして…」
お腹をさすりながら苦笑する霧宮さん。
時間を確認する為にポケットからスマホを取り出すと、時刻は十二時を迎えていた。
ナンパ男との言い争いをしただけで一時間も経っていたのか。どれだけ粘り強い男だったんだよ。
「それじゃあ、何か食べに行こうか。 どこか行きたい場所はある?」
「う〜ん…柳木くんはありますか?」
「俺?!」
あることにはあるけどーー霧宮さんにファーストフード店をおすすめするべきなのか悩ましい。
逆にカフェの方が提案しやすいけど、あそこのカフェはパン以外は値段が少し高いんだよな。
「もし難しいようでしたら、柳木くんがよく行くお店でも構いませんよ」
「………本当にそれでいいの? 女性が好きそうなお洒落なお店とかじゃなくて」
「問題ありません。 それにお互いを知る為に
「分かった。 それじゃあ、案内をするから着いてきて」
「お願いします!」
こうして俺たちはペットショップから移動した。
◯
「ここが柳木くんがよく行くお店ですか?」
「そうだよ」
ペットショップから程なく歩き、一軒のカフェの前で足を止めた。
「とりあえず、席があるか確認してみようか」
「ちょうどお昼時ですし、その方がいいかもしれませんね」
一応、外から確認は出来ないことはないが、それは手前までで奥の方は少し見にくい。
ちなみに手前の席は全て埋まっていた。
店内へと入店し、奥の方に目を向けた。
「う〜ん… おっ! ちょうど、二席空いているよ」
「他の人に取られる前に荷物を置きましょう!」
「だな」
カウンター席に荷物を置き、注文カウンターへと移動した。ここは自分で好きなパンを取り、店員さんに飲み物を頼むシステムだ。
パンを二つトレイに乗せ、店員にアイスティーを頼み、お会計を済ませて席へと戻った。
その後に続き、お会計を済ませた霧宮さんも戻ってきた。
「柳木くんは何を選んだのですか?」
「チョコクロ二つだよ。 霧宮さんは?」
「私もチョコクロとサンドウィッチにしました。 チョコクロシリーズは多くて悩みましたけど」
「確かに多いよね」
時期によって種類は変わるけど、抹茶チョコクロやさつまいもチョコクロなどが出てくる。
その時期以外でも常にニ〜三種類があるから悩むのは分かる。
あれ…同じチョコクロを二つ選んだのが少し恥ずかしくなるな。
「ですが、シンプルなのが一番ですね!」
「だな、シンプルが一番美味しい」
お互いに微笑し合い、チョコクロを手に取った。
そして口に運び、一口齧り付いた。
「美味しいですね」
「油断しているとチョコが溢れる時があるから気を付けた方がいいよ」
「そうなんですね。 それは気を付けないと」
それを聞き、慎重に食べ進める霧宮さん。
その様子を見ながら、俺も自分のチョコクロを食べ進めた。
「それで小物類はどこで見るの?」
そろそろ食べ終わりそうだったので、この後の予定を霧宮さんに聞いた。
おしぼりで口元を拭き、一口飲み物を啜ってから口を開いた。
「百貨店の中にあるお店で見ますよ」
「なるほど。 小物類を見るなら最適な場所だね」
「はい! では、そろそろ向かいましょうか」
「だな」
席を立ち上がり、先にトレイを返却口に返した。
「ありがとうございます」
「これくらいは当然のことだと思うけど?」
「ふふふ…気配りが出来る柳木くんは素敵です」
「変なことを言っていないで、早く向かうよ」
「はい!」
荷物を持った俺と霧宮さんは店を出て、すぐ近くにある百貨店へと向かった。
◯
百貨店の五階にあるお店に着いた。
このお店は家具やインテリアなどを販売している大手のお店であり、生活雑貨類もそれなりに売っている。早速、生活雑貨の売り場へと向かった。
「お洒落なお皿やカップがいっぱいありますね」
「逆にお洒落すぎて俺に合わない気がする…」
家でも地味なお茶碗や小学生時代から使っている小さなコップだ。目の前にキラキラ輝いている物とは全然違う。
「大丈夫です! 私と一緒に使うので、柳木くんも違和感なく使えます!」
「そうだといいのだけど…」
それから一枚ずつお皿を手に取って見たりして、その中で気に入ったお皿があればカゴに入れていくという反復作業をしていった。
すると、霧宮さんが怪しい行動をした。
「今、何か隠したでしょ?」
「いいえ…何も隠してはいませんよ」
明らかに目が泳いでいるので、霧宮さんが嘘をついているのは明白だ。
お皿が割れないようにカゴを床に置き、俺は霧宮さんの手を優しく掴んだ。
「なっ…何をするんですか」
「その後ろに隠している物を見せてもらおうかと思って、ね。 潔く見せてくれるなら、この手を離してもいいのだけど?」
諦めたようにため息をつき、霧宮さんは頷いた。
それを確認した俺は掴んでいた手を離した。
離したと同時に、霧宮さんは後ろに回していた手を前の方に回して見えてきたのは———
「ペア…カップ?」
二つで一つの絵柄になるペアマグカップだった。
「とても可愛いと思いませんか?」
コテン、と首を傾けて聞いてくる霧宮さん。
「可愛いけど、俺たちが出会って一カ月。 同棲はするけど、付き合ってはいない。 それなのにペアのマグカップは飛躍しすぎだと思うんだけど…?」
それにお互いを知るデートだったはずなのに、何故か新婚夫婦みたいな買い物になっている。
これが霧宮さんの本当の姿なのか…?
「そうですよね… 同棲するならペアで同じ物を使うのを憧れていたのですが、柳木くんが拒絶をするのでしたら諦めます」
そんなことを言われたら、まるで俺が悪いみたいになってしまうじゃん。周りの視線は…無いけど、どこからか『女の子を泣かせた』と聞こえてくる。
(承諾するしかないのか?)
チラッと霧宮さんに視線を向ければ、「こんなにも可愛いのに…」とぼそぼそと呟いている。
はぁ…俺が我慢すればいいだけの話か。
きっと霧宮さんも自分の好きな物を知ってほしいから選んだに違いない。そうでないと困る。
小さく嘆息して、俺は承諾の言葉を口にした。
「霧宮さんが諦める必要はないよ」
「 !! ということは!」
「俺の負けだ。 そのペアマグカップを買おう」
「ありがとうございます♪」
こうして目当ての小物類を買えた俺たちはレジへと向かい、割れないように梱包をしてもらった。
そして少しだけゲームセンターに寄ったり、別のペットショップを見てから帰宅をした。
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