第3話 ぼくは……咎人

「……ぼくを……呼んだの……?」

「えぇ。あなたの頭脳をお借りしたくて」

「……誰との……任務……?」

うるしくんとしゅうくん、周防すおう姉弟ですよ」

「……漆……苦手……でも……遊馬あすまがいるなら……行っても……いいかな……」

「ふふ。相変わらず遊馬くんのことがお好きですね」

「……遊馬は……ぼくを……特別扱いしないから……好き……」


 ふわりと神憑夢かみつきゆめが笑う。彼はタイムキーパーにとっても世界にとっても特別な存在だった。

 名前からまず神憑凪かみつきなぎを連想するだろう。それは間違っておらず、彼は凪の実子である。


「……あなたなしでは、タイムキーパーは活動できません。あなたはそれくらい大切な存在ですよ?」

「……しおりは……そう言うけど……それだけじゃ……ないよ……?……ぼくは……咎人とがびとだ……」

「いいえ。あなたは咎人なんかじゃありませんよ」


 ほらと栞は夢に手を差し伸べる。


「あまり自分を責めないでください。子どもは親を選べないんですから」


 栞は夢を部屋から連れ出す。すれ違うタイムキーパーたちからの視線は冷ややかだ。

 握った手に力がこもるのを栞は優しく受け止める。


「……言いたいことがあるのなら直接言いなさい。言えないのならとっととわたしが怒る前に去りなさい」


 凪いだ水面に雫が一滴垂れ広がるように、彼女の怒りが広がっていく。タイムキーパーたちはそそくさとその場を立ち去る。


「……ごめんなさい、夢さん。不快な思いをさせてしまって」

「……大丈夫……気にしないで……栞……悪いのは……ぼく……だから」


 栞はこれ以上何も言えずに夢に微笑むしか出来ない。もう誰にも会わないようにと管理官室へと急ぐ。


「夢!久しぶり!」

「……遊馬……久しぶり」


 ぱあっと顔を輝かせる遊馬に夢も笑顔を浮かべる。


「夢様でしょうが、このお馬鹿は!すみません、夢様」

「痛えな、飛鳥あすか。ったく、友達に“様”をつけるやつがどこにいるんだよ?」

「……遊馬を……怒らないで……?……ぼくは……呼び捨て……嬉しい……から」


 そう夢に言われてしまうと飛鳥は何も言えなくなってしまうのだが、ここでひとつ補足するならば飛鳥の対応は決しておかしくはない。なぜなら、夢は神憑凪の息子であり、タイムクライシスの生き証人であり、現在タイムマシンを作り、管理しているすごい人なのである。悪い方に見てしまえば、神憑凪は死んだ息子ーー夢を生き返らせたくてタイムマシンを作ったため、タイムクライシスの始まりとも言えるのだ。


「……任務の概要……見せて……?」

「俺もまだ見てないから一緒に見よ?」

「……うん……喜んで……織田信長……と本能寺の変……?」

「織田信長を生き延びさせようとしても失敗するんだって」

「……織田信長は……光が……強いから……だから……影も……濃くなる……」

「……うん……?」

「……作戦……考えるから……待ってて……」

「うん!」


 遊馬は夢の言葉に頷いた。





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