第43話 開戦

「どうやら、エルフは神母たちを切り捨てるようです」


 俺とルミエールはドワーフの首相官邸で話をしていた。


「ああ、市岡情報だろう?」


 死神の俺は、市岡に憑依するようになっていた。市岡は自分を犠牲にしてまでも他人のために動く漢気のある奴なので、死亡フラグが立ちにくいのだと思う。


 市岡が最初に死んだら、全員死ぬ確率が高いのだが、そういう冷静な判断が出来ない熱血バカで、死神の俺のことはそんなに嫌ってはいないようだが、本体の俺のことは、心底嫌っている。


「私の主人からの情報です」


 ルミエールの主人とは死神の俺のことだ。


「市岡が人道主義を振りかざして、キリネに抗議していたが、キリネはかなりうるさそうにしていたから、あいつ、下手したら殺されるぞ」


「そう簡単には殺されないですよね?」


「まあな。市岡は最強だからな」


 エルフやモンスター相手の場合、市岡は俺たちの中では最強だ。だが、相性があり、俺は市岡に負ける気がしない。俺は対人戦では無敵と言っても過言でないからだ。佐竹にも勝てる。


 しかし、俺はモンスターには苦戦する。そのため、強力なモンスターを召喚できるキリネには分が悪い。


「ところで、そろそろ魔石を補充したいのですが、エルフは売ってくれそうもないです」


 ルミエールが話を変えて来た。


「ダンジョンに行って、採掘すればいい。俺たちは契約で魔石をエルフに売ることが義務付けられているが、盗まれてはいけないなんて契約はないからな。死神の俺を憑依させれば、お前たちでも魔石を効率よく採掘出来ると思うぞ」


「エルフもお兄ちゃんの臨終憑依は未知ですからね。私の父を操作したカラクリも分かっていないみたいですしね」


「団体を派遣して、がっぽりと採掘してくればよい」


 ルミエールは俺の提案に乗り、採掘隊をダンジョンへと派遣した。


***


 ドワーフが魔石を採掘したことは、エルフにとっては青天の霹靂だった。転移者が協力しなければ、採掘は不可能だからだ。


 転移者は契約によって、魔石をエルフに売ることしか許可されていないため、採掘の手伝いはしないはずだし、手伝ったという事実もない。


 ドワーフが転移者の協力なしで、どのようにして魔石を採掘出来たのか、エルフにはさっぱり見当がつかなかったが、実際に採掘されてしまったのだ。


 魔石の採掘権を独裁したいエルフにとって、由々しき問題が発生した訳だが、契約があるため、直接エルフがドワーフを攻めるわけには行かない。そこで、エルフは人間を使って、ドワーフを攻めることに決めたようだ。


 死神の俺は、今はマグマに憑依して、エルフ側の極秘情報を収集していた。


 エルフの作戦のなかに、アナスタシアと聖女隊を人質にして、開戦前に俺を王国におびき出すというものがあったが、アナスタシアにその旨伝えて、エルフに捕えられる前に、聖女隊と一緒にドワーフ国へと脱出させた。


 エルフはアナスタシアと聖女隊の拉致には失敗したが、国王に命じて、三十万の兵を徴兵させ、王国西北の沿岸都市バルダに人間の軍隊を集結させた。船でドワーフ国に攻めてくるつもりだが、俺には相手の作戦がダダ漏れだ。


「アナ、全部殺しちゃっていいか?」


 エルフは俺たちが人間を殺せないと思っているようだが、俺は平気で殺すことが出来る。船を沈めるのは簡単なのだが、一応、アナスタシアに聞いてみた。


「出来れば殺さないで欲しいのだけど。オキナ島に転移させることはできないかしら?」


「三十万人をか?」


「さすがに無理かしら?」


「アナと協力したとしても、魔力が持たないだろう。ちょっと待てよ。オキナ島に航路を向けることは出来るぞ。絵梨花のメッセージとセリナの幻術で行けるぞ。航海士を標的にすればいいから、対象者も少なくてすむ」


 作戦は大成功だった。30万の全兵士がオキナ島に上陸した。上陸させた後で、船を全て破壊して航行不能とし、島から出られないようにした。


 そして、逆にドワーフ軍を王国に派兵して、王国の占領を開始した。人間をドワーフの支配下に置き、これ以上、人間をエルフの駒にさせないようにするためである。


 これに対抗するため、エルフは王国にエルフ軍を派兵した。


 こうして、ドワーフ軍とエルフ軍が王国を舞台にして戦いを繰り広げることになった。

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タイムリープおやじ、クラス転移に合流する もぐすけ @mogusuke22

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